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『伸ばした手の先は』

こんばんは!! 無事2話目を投稿する事が出来ました!!

皆さんに楽しんで貰えると幸いです

 




「あの〜……いったいどのようなご用件でしょうか〜?」


 路地裏に引きずり込まれたユウタは、引き攣った表情で問いかける。

 いたいけな子供を、大柄な男達が取り囲む。すでに嫌な予感がするが、一応確認して見なければ話は進まない。


「言葉にする必要性はないと思うぜ」


「いえいえ。僕のような子供にはさっぱりです。親切そうな貴方たちが何をするかなんて……」


「そうか、なら教えてあげようじゃないか。なんてったって、俺たちは親切な人達だからな」


 大仰な仕草で話す、リーダー格の男。自分たちのことを親切とは微塵も思っていない様子で、いけしゃあしゃあとしている。

 背中に冷たい汗が流れ、自分が追い詰められていくのを感じる。この親切な人たちは本当に気が効くようで、ご丁寧に退路を塞いでいるのだ。タチが悪いことに、背後に立った男達のせいで大通りからユウタが見えなくなってしまった。これでは助けも望めない。まさに絶体絶命だ。


「そうですかそうですか。僕はこれから用事があるので、他の人に説明して下さい。その方が有意義な時間を過ごせますよ。──というわけで、さらば!」


「あ!! まて、クソガキっ!!」


 ──三十六計逃げるに如かず。地理的にも戦力的にも劣る今、逃げるのが最善なのは明白だ。ここは恥も外聞も捨てて、全力の逃走に移る。

 さすがにいきなり逃げ出すとは思っていなかったのだろう。虚空を掴むように手を伸ばしたリーダー格の角刈りの男を尻目に、出口を塞いでいる2人の男に向き直る。あちらさんも動揺はあったみたいだが、子供ならすぐ取り押さえられると油断していた。



 ──チャンス!



 短くなった手足のせいで走り難いが、下半身に力を溜め一気に駆け出す。両手を広げて待ち構える2人は、いやらしい笑みを浮かべた。

 ──だが、僕の取った行動によって、その表情が驚愕に染まる。


「足元がお留守なんだよ!」


 ガニ股で四股を踏むような体制で待ち構えていた、2人の股の間に頭から突っ込む。さすがに予想外だったのか男達は対応できず、ホコリまみれになりながらも包囲網を突破した。


「ちょこまかと煩わしい! 大人しく捕まりやがれ!」


「そう言われて捕まるのは、フィクションの中だけだよ! 僕はゴメンだ!」


「調子に乗りやがって──大人を舐めるな!」


「おわっ!? しまった!」



 現実は甘くはなかった。一時は逃げられたかと思ったが、子供と大人ではスペックが違い過ぎる。あっという間に首根っこを掴まれ、また薄暗い路地の中に引きずり込まれた。



 ──やばいやばいやばいやばいヤバイ!!



 ドサァァァっと放り投げられ、全身を強く地面に叩きつけられる。かはっ。肺から押し出されるように空気が漏れ、一瞬息が止まってしまった。全力で走っている途中で投げられたせいか酸欠気味で、頭の奥がチカチカして思考が錯綜する。

 常にレッドシグナルが痛い程なっているのは本能で感じるが、いかんせん体が動かない。さっきの逃走に体力気力全てをかけていたのだ。一度きりのチャンスを逃したユウタには、絶望が横たわっているのが見える。しかし、こんなところで諦めるわけにはいかないのだ。


 歯を食いしばり、四肢に力を行き渡らせる。ブルブルと生まれたての子鹿のように震えるユウタは、近くの壁を支えに立ち上がった。その姿を見ていたリーダー格の男は感心したようにユウタに話しかける。


「ほう。いけすかないガキだと思ってたが、なかなか根性があるじゃねえか。これなら高く売れるんじゃないか?」


「そうですね。この水色の髪も綺麗ですし、変態貴族に需要がありそうですぜ」


「うひひひ。これでしばらく遊んで暮らせるぜ!」


 耳鳴りに混じって、下卑た男達の会話が聞こえてくる。どうやら、このまま捕まったらバッドエンド確実のようだ。脂ぎった貴族のオヤジに掘られるかと思うと──ゾッとする。

 そんな未来認めたくないが、このクソ野郎どもから逃げる手段がない。恐らく角刈りの男が持っている袋に入れられて、闇市にでも売られるのだろう。奴隷が居ることも異世界モノのテンプレだが、全く嬉しくない。


 ──チート無い。助けも無い。あるのはただ……絶望だけ。


 ──どうして! 僕が何をしたっていうんだ! ただ漠然と生き、虚ろにいつか訪れる死に向かって進んでいただけだ。誰かに認められる様な善行も無ければ、裁かれる様な罪も犯していない。こんな仕打ちを受ける筋合いは無い!



 心の中で絶叫するが、口からは、コヒュー。コヒュー。と掠れた音しか出ない。ただユウタは助けを呼ぶことも嘆くこともできずに、男達に捕まるのを眺めているしか無かった。


 そしてひとしきり笑った男達が、ついにユウタに向き直る。──その手には、大きな袋が口を広げられて握られていた。


「大人しくして入れば、優しいおじさんがいっぱい居るところに連れてってやるからな」


「うひひひ。そんなに怖がらなくてもいいぜぇ〜。何も考えられなくなるぐらい可愛がってもらえるからな」


「……ふ、ふざけるな…………! 僕は変態オヤジに掘られるつもりは無い……!」


「おうおう。まだそんな元気があったか。大したもんだと思うが、年貢の納め時タイムだ。諦めて俺たちの生きる糧となれ」


 必死に這いつくばって、男達の間から溢れる光に向かって手を伸ばす。薄れる視界に朧げに見える大通りの景色は、何処か遠くのもので、絶対に届かない幻影に見えた。


 ──そして、すぐに視界を大きな袋が占領する。ユウタを捕まえようと魔物の口のように限界まで広げられた袋。その奥に広がる闇は、これからの絶望そのものに見える。



 ──イヤダイヤダイヤダイヤダ! 逃げたい逃げたい逃げたい!



 迫り来る恐怖を払いのけようとするが、ぶら〜んと襟首を掴まれ宙吊りにされたユウタには何もできない。あまりの無力感と、世界の全てが灰色に見える絶望感に涙が溢れる。

 両足も抑えられ、暗闇に飲み込まれそうになった時──



「──そこまでよ! その子から手を離しなさい!」



 世界を色づかせ、大気を震わす、凛とした声が響き渡った。




 *******************************************





 その場にいる者は、ただただ、圧倒されていた。

 今まさに、ユウタが攫われるといったところでの乱入者だ。ユウタを袋に押し込めようとしていた男達も、ユウタ本人ですら状況について行けない。しかし、颯爽と登場した少女は、こちらの状況など御構い無しにズンズンと近づいてくる。


 しばらく石像の様に止まっていた男達が我に帰り、闖入者たる少女に向かって怒鳴りつけた。


「いきなり現れて何様だ! 関係ないんだからすっこんでろ!」



 額に青筋を浮かべる角刈りの主張はもっともだ。ユウタにとっては、ふざけるな!と言いたいところだが。

 一方脅すような怒気を含んだ声を受けても、少女は顔色一つ変えず男たちの前に仁王立ちする。



「確かに関係ないわね。私はあなた達も、その男の子すら知らないわ。──だからといって、それは見捨てる理由にならない!」


 全てをねじ伏せる裂帛の怒気を纏い、少女は歩を進める。そのただならぬ気配に危機感を持ったのか、角刈りを守る様に2人の男が立ち塞がった。


「随分と偉そうな能書き垂れてるが、あんたは状況がわかってんのか? 」


「うひひひ。たった1人で俺たちに勝てるわけないでしょ。なに? 強姦されたいの?」


 小馬鹿にした様な言い方だが、ユウタもそれに同意してしまう。華奢な彼女が荒事に慣れているチンピラ達に勝てるイメージが湧かないのだ。

 確かに助けにきてくれたのは嬉しいが、そのせいで少女までが傷つく事には耐えられない。

 潰れかかった喉で必死に声帯を震わし、逆光で輪郭しか見えない少女へと叫びかける。


「……こ、こいつらの言う通りだよ……気持ちは嬉しいけど……あなたは逃げて……っ!」


 しゃがれた声で絞り出すように言葉を紡ぐ。ちゃんと伝わったかはわからないが、さっきから首元を掴まれているせいでこれ以上大声を上げる事が出来なかったのだ。

 そんなユウタの想いは届かなかったのか、全く歩みを止めない少女。ユウタは自分の不甲斐なさに押し潰されそうになる。

 しかし、凛とした声が全てを吹き飛ばした。


「心配してくれてありがとう。自分の身が危ないのに、私の事を気遣ってくれるなんて優しいんだね。でも──大丈夫だよ。君のことは必ず助けるから」



 ──絶望に染まった世界を、希望の光が塗り替えて行く。



 少女の言葉にはなんの気負いも迷いもなく、ただユウタを救いたいという純粋な気持ちが込められていた。それはユウタの心の奥まで染み込んでいく様で、体の内側から温かい気持ちが湧き上がってくる。

 そして全てを諦めたせいで流れていた冷たい涙は、少女に対する感謝の温かい涙へと変わった。


 そんなやりとりを律儀に待つほど男達は善人ではない。気持ち悪い笑い声をあげるのっぽの男が、拳を振り上げ少女に襲いかかる。とっさに『危ない!』と叫ぶが、掠れた音しか出なかった。それでもこちらに微笑みかけた少女は、踊りかくる暴漢を一瞥すると──吹き飛ばした



「「「はぁぁ!!」」」



 この時ばかりはユウタと男たちの心は一つになり、間の抜けた声を出してしまう。


 ──それもそうだろう。触れたら折れてしまいそうな可憐な少女が、右手を軽く振るだけで身長2メートルを超える男を吹き飛ばしたのだ。ハエを払う様にあしらわれた男は壁に激突し、『ぐべぇっ』と蛙みたいな断末魔をあげて意識を失った。


 状況が飲み込めず呆然としていたもう1人の長髪の男も、散歩に行く様な足取りで近づいた少女に、なすすべもなく意識を刈り取られ地面に崩れ落ちる。


「──さて。あとはあなただけなんだけど、大人しくその子を引き渡してくれないかしら? 彼我の戦力差は十分過ぎる程に伝わったでしょう?」


「お、お前は一体何者なんだ! チャラとヒョロも弱くはないはずだ。それを簡単にのすなんて、お前は化け物か!」


「失礼な人ね! こんな可愛い化け物がいるはずがないでしょう!? もっと考えてから喋りなさい、もうっ!」


 プクーっと可愛らしく頰を膨らます少女。自分より格上の存在の機嫌を損ねた事に気がついた角刈りが、慌てて弁解を始めた。


「いや、すまねえ! 気が動転してたみたいだ。でなけりゃ、あんたみたいな美人を化け物呼ばわりするはずがないからな!」


「……貴方に褒められても全く嬉しくないの。だから早くその子を離しなさい」


「わかった、分かったから! おっかない目で見ないでくれ。あんたに勝てないのは十分に理解してる」


 愛想笑いを浮かべる角刈りは、少女から少しづつ後退し、ゆっくりとユウタを下ろす。それを確認した少女は安堵の息を漏らし、男から意識を外してしまった。


 それを待ってましたとばかりに角刈りは腰からナイフを抜き放ち、その巨体からは考えられない敏捷さで少女に迫る。角刈りの手の中で鈍色に光る刃は、人の命を簡単に奪い去る狂気の輝きを放っていた。いくら少女が強いからといって、ナイフで刺されたらひとたまりも無いだろう。


「くたばれやゴラァァ!!」


 無防備な少女に、角刈りのナイフが吸い込まれる様に迫って行く。世界がスローモーションの様に見える中、ユウタを安心させる様に微笑む少女の姿がひどく印象的に映った。


 思わず叫び出しそうになりながら少女の身にこれから起こるである悲劇を、成すすべもなく見守る。そんな喪失感の中、少女は勝ち誇った顔の男を──いとも簡単に投げ飛ばした


「──はぁ!?」


 間抜けな声をあげながら角刈りは、チャラとヒョロの横に投げ飛ばされ、ゴン! と鈍い音が響いたと思ったら、顔面から地面に刺さり、しゃちほこの様になった角刈りが意識を失っている。


 あまりに現実感がない出来事に頭が追いつかずに、呆然と座り込んでしまった。


(……いったい何が起こってるの? あの人は何者なんだ?)


 安堵と疲れから動けなくなってしまったユウタに、近づいてきた少女の手が触れる。その温かみに緊張の糸が切れ、ついに意識を失ってしまった──




 *******************************************




「お〜い、シーシェ〜! いきなり走って行くから何事かと思ったぞ」


 シーシェと呼ばれたユウタを助けた少女は、大通りから走ってくる仲間たちを振り返る。先ほどは何も言わずに飛び出してきてしまったのだ、申し訳ないことをしたと思うけど仕方がない。緊急事態だったのだ。


「ごめんなさい、イルザ。この子が襲われている様だったから助けに来てたの」


「襲われてたって……相変わらず便利な能力だな。よくそんなの気づけるぜ。私には真似できんよ」

「イルザだって強力な【神からの祝福】(ギフト)を持っているじゃない。お互い様よ」


「そんな事より〜その子をほっといていいんですか〜? 気を失っているみたいですよ〜」



 遅れてやって来た少女の間延びした声で、口論していたシーシェとイルザが我に帰る。



「──そうだった! 早くこの子の治療しなきゃ!」


「待て待て。その子はいったい誰なんだ? 知り合いじゃないだろう?」


「さっき話した襲われていた子よ。目立った外傷はないみたいだけど、精神的にかなり参ってるみたいね」


「それなら神殿に行きましょう〜。ディアも先に行っている事ですし〜落ち着いて治療できるところまで運んだ方がいいですよ〜」


「──さすがレーテだ! 早速神殿に運ぼう!」



 レーテに指摘されて、イルザがユウタを抱えて走り去ってしまった。彼女の即断即決できるところは美点だが、できればもう少し話を聞いてから行動して欲しかった。


 残されたシーシェとレーテはお互いの顔を見あって、苦笑いをこぼす。そして風の様に走り抜けて行ったイルザを追うため、神殿に向けて歩き出した。




12月17日誤字を修正しました

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