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元婚約者に知られました

 わたしは新しい春色のワンピースを着た自分の姿を鏡に映し出していた。仁美はそんなわたしを見て、満足そうに微笑んでいた。


「よく似合うよ。きっと岡本さんも可愛いと言ってくれるよ」

「ありがとう」


 わたしと仁美は身支度を整えていると、仁美の部屋がノックされる。

 仁美が返事をすると、髪の毛を一つに結った女性が顔を覗かせた。


「陸人君が来たわ」

「分かった。今から行くよ」


 彼女はわたしに会釈をすると、仁美の部屋を出て行った。


 わたしも彼女と一緒に出掛ける予定だ。といっても、わたしと仁美、松永さんの三人で出かけるわけではない。もちろん、聖も一緒だ。


 昨日、仁美の家に泊まることにしたため、松永さんがわたしたちを迎えに来てくれると言ったのだ。


 玄関には松永さんの姿がある。スーツ姿も様になっていたが、そのスタイルと顔の良さは無地の白いシャツと黒のパンツというシンプルな格好もよく似合っていた。


「行こうか」


 松永さんはそういうと、家を出て行った。

 わたしたちも彼の後に続いた。家の前に停めてあった彼が乗ってきたと思しき、黒い車に乗り込んだ。


 わたしたちは聖を含めた四人で少し車を走らせた先で開催される春先の花火大会に行くことにしたのだ。聖と松永さんをあわせたいという仁美の提案で、今回の話が出てきたのだ。そして、松永さんが車を出すということで話がまとまったのだ。


 ただ、わたしと仁美は休みだったが、松永さんと聖は仕事らしく、花火大会の少し前に合流することになった。


 家の前にはすでに聖がいて、彼は松永さんの車の後部座席に乗り込んだ。そこで松永さんと聖は簡単に自己紹介をした。お互いの名前はわたしと仁美が知らせていたため、顔の確認をするといったところだ。


 わたしたちは近くの駐車場に車を停めると、一息ついた。

 もう辺りには花火大会を望んでいるのか、人があふれていた。


 わたしたちは花火大会の会場に入ることにした。花火が始まるまで一時間あまりある。


「どこに行こうか」


 そういったとき、松永さんの携帯が鳴った。わたしたちは人気を避け、端のほうに行くことにした。

 松永さんは何か深刻な表情を浮かべていた。


「分かりました。今から行きます」


 彼は電話を切ると、わたしたちを見た。


「ごめんね。ちょっと仕事で急用ができてしまって」

「時間かかりそうなの?」

「そこまでは。ちょっと説明をするくらいだから」


 仁美はわたしの肩を叩いた。


「じゃあ、二人は先に花火大会を楽しんでいてよ。わたしは陸人と一緒にいるから、後で合流しよう」

「仁美も二人と一緒に」


 そう言いかけた松永さんは言葉を飲み込んだ。

 仁美は苦笑いを浮かべて、松永さんの肩を叩いた。

 恋人同士であるわたしたちを気遣っているのだろう。


「別に気にしなくていいよ」

「いいのよ。すぐに戻ってくるから。戻ってきたら連絡するね」


 仁美は松永さんの腕を引き、人ごみの中へと入っていった。


「俺たちも行こうか」


 わたしは聖の手をつなぐ。彼は驚いた反応を見せるが、その手を握り返してくれた。


「このあたりで時間でも潰そうか」


 わたしも聖の提案を受け入れることにした。


 こうした短いやり取りをしている間にも人の数は増加の一途を辿った。あまり自由に動き回れるとはいかないようだ。わたしたちはその場に足止めされてしまっていて、そんな状況をお互いの顔を見合わせて笑っていた。


「どこか座れるところでも探そうか。これだったら俺も車を出せばよかったね」

「仕方ないよね。こういうところだと」


 わたしたちはゆっくりできる場所を探すことにした。場合によってはここから少し離れた場所になるかもしれない。だが、花火大会まで一時間あることを考えると、十分な時間だ。


 わたしたちは視線を走らせ、人気のない場所を探していた。その人ごみの中に、見覚えのある人がいた。その隣にいたのは、案の定あの女性だ。心臓がどくりと鳴った。


 そのとき、背中に衝撃が走る。わたしは思わずその場でよろけてしまった。そのわたしの体を聖が支えてくれた。


「ごめんなさい」


 そう大きな声が二つほど聞こえたが、振り返る余裕などなかった。

 いや、そんなことを考えもしなかった。なぜなら雄太とあの人がこちらを見ていたためだ。


 雄太が顔を引きつらせた。

 わたしは思わず聖を見た。彼はわたしを見ていて、わたしが雄太に気付いたとは察していないようだ。


 だが、問題は雄太だ。

 彼は隣にいる聖を見たのかより顔を強張らせた。


 わたしに新しい恋人がいることを驚いているというわけではなかったと思う。

 そのとき、雄太の隣にいた女性が彼の腕を引いた。雄太はこちらをチラ見しながらも、幼馴染にわたしの存在を見せたくなかったのか、抗うことをしなかった。二人は人ごみの中に消えて行った。


 わたしは聖の手を引いた。せっかくのチャンスだ。ここで長居をしてもどうしようもない。


「ほのかさん?」


 聖は驚いたようにわたしを見た。


「向こうのほうに行ってみようよ」


 わたしは返答を聞かずに歩き出した。聖は首を傾げながらも、わたしのあとをついてきてくれた。

 わたしは思わず雄太の消えた方向に視線を向けた。


 もう彼はどこにもいない。それに聖を見て固まっていた彼が、聖の前でわたしを追及したりはしないだろう。

 心臓の鼓動が早くなるのを感じながら、そっと唇をかみしめた。




 その後、仁美と松永さんと合流して、花火大会を楽しんだが、わたしの脳裏には雄太のあの表情が刻銘にやきついていた。




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