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乙女たちの戦い

その後の破魔の姫君

作者: さくら比古

リクエストがありましたので・・・

ざまあよりいちゃラブ?にしようと思っていましたが、『あの人たちは今』プラスいちゃラブも一癖のある二人なお話になります。


自分史上とっても長くなりましたので申し訳ないですが。

親愛なる姉上様

 王都アダルバルトには季節はようやく春になる頃でしょう、お姉上様にはお健やかにお過ごしのことと思います。

 私が王族の籍を召し上げられ、一平民としてこの地・ラクロ開拓地に身を落ち着けてから2年の時が流れました。

 私に付いてきてくれた側近の50名ばかりも、病を得たり王都に残した家族の困窮を救うためにと半分ほどの者が去りました。

 開拓地とは名ばかりの荒れ果てた地は元居た開拓民たちが放棄し離散しており、残された私たちの手で、遅い歩みではありますが再び開拓の途を歩み始めたところです。

 日中の強烈な暑さゆえに、早朝と日の暮れから双子月(グリンとエッラ)が昇るまでが作業時間の為中々捗らず、僅かに収穫ができる葉の芋(デルカ)の粥が私たちの糊口を凌ぐのみ。今朝は料理番の元侍女が粥を回していた匙を投げてきました。

 日に焼け乾涸びた腕に皮手袋のようになった手で石を拾い、拾った石をロバに曳かせた袋に詰めては地を均す。桶に酌んだ水は日が落ちた後も焼けた地には染み込む前に蒸発します。

 逃げてしまった開拓民たちを責めることなどできません。

 過酷な地を国の命に従い私たちの何倍もの時を掛けて開墾した彼等を思うと、私には涙を流すことしかできませんでした。

 あの日の事が今でも忘れられません。

 私が犯した過ちの大きさに気が付いたのは、実はこの地に来ての事でした。

 私に恩があるからと付いて来てくれた者達の中には、私が犯した罪の意味が解らず父上や姉上を恨む者がいましたが、最初は私も覚悟が足りずにやってきたこの地に入り同じ様に思い恨みもしました。けれど、側近の一人が私の罪の恐ろしさを語り、処刑されてもおかしくはなかったその時の現状を語ってくれやっと目が覚めたのです。

 奴隷にまで落とされた大神官の息子のシリウスや、離縁された母親と共に母方の実家のある隣国へ旅立ったアレン。騎士団長である父親に片腕を切り落とされ永久蟄居となったダルナシス。

 皆、己の立場ゆえに周囲の期待と過重(プレッシャー)に押しつぶされそうになっていたあの頃。ミュレルという少女に救いを見てしまったのです。

 ミュレルが悪い訳では無いのです。ただ、私たちの認識や覚悟の足りなさが、あの悪夢を呼び寄せてしまったのです。

 王国だけではなくこの大陸全土をも脅かした魔人に漬け込ませる原因となってしまった私に、父上と姉上には温情を掛けて戴いたのですから、これからも辺境の地から王国の礎の欠片になるべく、私は生きて参ります。

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 どうか、これからもお健やかに偉大なる女王として姉上がこの国を導いてくださることを遠きこの地より祈っております。





 フレドには言葉に尽くせないほどの謝意と感謝しかありません。お二人の上に幸運の冠輝くことを祈ります。


























「~~~~~~~長っ」

 溜めた息を吐き出すように我が君は叫ぶと、苛立ちのままに投げ捨てようとした紙束を持つ手を反され、ぐいと突き付けてこられる。

 びっしりと書かれた手紙を渡してくる繊手はそのまま私の首に巻き付いてくる。

 渡された手紙を読んでいる私の髪をいじりながら、殿下はうんざりとした顔で手紙の内容について意見を求められているのだ。

 きっちりと最後まで読み終わり、手紙をサイドテーブルに置くと、私は抱き着いている殿下の腰に手を回し抱えなおす。


 今現在私フレド・アルシア=ミュレンフォードと、イリギウス王国現王太子リシア・パレモ・デル=イリギウス殿下は、殿下の私室の二人掛けソファで絶賛イチャイチャ中です。

 ソファの中央で世間では磁器のお人形のようだと称される美少女な態の私の膝上に、燃えるような赤いドレスにキラキラと輝く瞳の魅力的な少女の殿下が横向きに腰掛け抱き着いているのですから。妄想逞しい方々からは『至福』やら『眼福』やらと喜ばれていることには忸怩たる思いがありますが、何か?

 婚約中の二人の事、イチャイチャも双方の親から公認を受けていますが何故いまだに私は女装中なのでしょうか。

「で、どう?」


 至近距離で唇を尖らせ問うてくる殿下に、思わずその唇を味わいたくなるが、私の側近の額に血管が浮いているね。自重しましょう。

「どうと言われましても…『お姉ちゃん助けて?』でしょうか?」

 率直にお答えしたが、殿下は大きく息を吐き出し『だよねえ~』と零される。

 落ち着かなくなったのか私の膝から下りると、愛らしいお尻で私の移動を促し隣に収まると、

「本当に解ってないよね。

 大変なこと仕出かしたってことは理解してるけど、あの時『あれくらいの事』呼ばわりしたあの事がどういう結果を引き起こすかまた起こしたのか、そしてこの国がどういう立場に置かれてしまうか今現在置かれてしまったか。

 全く解っていない。

 国王になる資質が無いって残酷だわあ」


 しみじみと語られるが、これは諦観でも嘲りでもない、そこには同情も無ければ怒りすらない。純粋に呆れているのだな。

 元王太子の仕出かした事にはなっているが、人の身が魔の手を察知しうることは難しい。お前のせいだと言われても理不尽としか言えないだろう。

 しかし、魔の復活はこの大陸では各国が兆候が発覚した時点で消滅させるという共通意識を持っている。

 それが防ぎようのない事案だったとしても、過去3回の魔物の大反乱の原因となった国は現存しない。魔に滅ぼされたのではなく大陸中から攻め込まれ消滅したのだ。

 かくいう我がの創国史も、人族が文字を残した最古の記録である第一回目の大反乱を生き残った人族を統率した初代様であるカエサル始祖王の伝説的な話から始まっている。

 それだけ理不尽に踏みにじられた記憶は時を超えるのだ。

 元王太子の罪は、知らなかったこと、知ろうとしなかったこと、未だに知らないこと。彼は彼の知らぬところで自分の死刑判決文にサインをしていたというわけだ。


 それならば何故()の人は生きているのか。


 偏に彼の母の『善良』と親の盲目的な愛と懺悔故のこと。

 あれからげっそりとやつれられた母親である王妃殿下は、息子の起こした罪の重さに病まれ床に就かれた。

 細い息の下、絶命されるその瞬間まで息子の助命嘆願をされたお陰で、今彼は生きている。生きていることが狂おしいくらい苦痛であっても。

 事の次第が各国に報告されると、案の定彼の身柄の引き渡しと王国への宣戦布告が各国連盟でなされたが、未然に防いだこととそれを成したのも我が国の王族という事。その上、王妃の『善良の星』は国境を越えて多くの人々や国を救ってきたため、我が国に裁下は委ねられた。

 彼が万が一国王となっていたならばその側近として国を動かしていただろう面々に下された結果も含めて、彼が知らない話をしよう。


 大神官の孫であるシリウスは、声帯を切られ目を潰され性器を文字通り捥ぎ取られ最下層の汚泥収集施設へ落とされた。理由は『聖者の星』を保持していると虚偽の届けをしたから。彼は大神官の血を一滴も引いていなかった。母親は一族に腹を裂かれ絶命している。

 騎士科筆頭のダルナシス・ハルラン。少女の言葉に惑わされ多くの罪無き人々を打ち据え罵倒し、闇討ちまでして再起不能にしていた。

 罪状を読み上げ刑の執行(貴族籍の剥奪の上過酷な離島の炭鉱への永久追放)を言い渡そうとしていた執行官を切り殺し逃亡を図ろうとして、兄である騎士団長に両腕を落とされ炭鉱へと送られた。今でも口にくわえたロープでトロッコを引いている。

 筆頭宰相の子息アレン・ナルス=バレル。離婚した母親と母親の実家になどと聞いているのか。

 アレンは母親に縊り殺されていた。母親は息子の遺体を抱えて実家の所領地の湖に身を投げている。死ぬ前に夫である筆頭宰相家に責が行かぬように離婚してから。

 筆頭宰相は一連の混乱が収まったら自死することを王に願い、きっちりと後始末をしてから本家の館に火を放ち何もかも灰にして逝った。

 彼等を惑わし王国を乗っ取ろうとしていた元凶の魔人アウザの『革袋』エルランド・カリス。勿論本人は存在しない。だが、かの異常な誕生を知りつつも隠し通したカリス家は一族全員が死刑。本家であるギレン公爵家はその情報を掴んでいたにも拘らず、後に発覚するまで隠していたことが徒となり閉門、3等内の親族は公爵本人も含め奴隷落ちとなっている。


 そしてミュレル。

 何というか、彼女は魔人の件では無実となった。だが、国税での奢侈や罪の無い人間を貶め、将来ある若者を誘惑し堕落させた。それが王国の王太子や高位貴族の子息達であったことから、王国に対する反逆罪にまでクラスアップしていた。

 王族の失態、しかも未来の王となる王太子の引き起こしたとされるこの騒動に、怒り心頭となった市民や農村から駆け付けた農夫たちが雲霞の様に犇めく大広場に少女は投げ入れられた。

 その罪状は王都の角々に掲げられた高札に記されており、群衆は彼女が奪われた理想の王太子を惑わした『魔女』だと知っていた。

 彼女は投げ入れられるその時ですらふわふわと何かを語っていたという。怒りに青褪める兵士が付き落とすその時まで。

 群衆が去った大広場に少女はいなかった。ただ、大きな血溜まりだけがあり、それは長い間消えなかったと聞いている。

 下された刑は重い。だが、それだけのことを彼らは罪悪感すらなく仕出かしてしまった。

 一国を統治する者が犯してはならない罪。

 我が君に隠す謂れは無い。包み隠さず語った彼らのその後を、我が君はじっと聞いておられる。

 吸い込まれそうな瞳は、初めて出会ったあの日の様に『王の星』を輝かせている。


「・・・お父様がね、退位を仄めかされているの」

 呟くような言葉に覗き込んだ瞳が瞬く。

 何を憂いておられるのか、解っているがそのお顔が余りにも愛おしくて、ただ見つめる。

 私の思いに気が付いたのか、さっとその(かんばせ)に朱を散らし口を尖らせる。

「真面目に聞いて!」

「聞いておりますよ。聞き逃すなんてもったいないことしません」

 にっこりと返すと、先ほどの緊張が霧散したとぼやきながら身を傾けてこられる。

「貴方、何だか男っぽくなったみたいよ。その恰好じゃおかしいわよ」

 おや、心の声が漏れていたものか。それも良い年頃男が好いたお方とこのように触れ合えば仕方ないと、どう伝えた物か。

 その時のお顔を思い浮かべ内心ほくそ笑む。

「また!もう、何だか恥ずかしいわよ」

 愛らしく訴えられるが、その小さな頭の中ではこの国の行く末と御身が歩まれる茨の道に毅然と立つそれだけの権謀術数に満ちている。しかし私達二人で歩くのだという事をお忘れではないか。

 愛情だけで二人の関係は割り切れない。そこに愛が無くとも、この方は私を選んだろう。それが『王の星』を持つ者の選択だからだ。

 それでも、私たちの間には情を交わすことのできる『心』がある。

 私に王太子と共に王国を支え得るだけの力量があること。陛下が妃殿下がお隠れ遊ばれたその夜私をお呼びになり王太子の王配になる条件として一つだけ挙げられた言葉だ。

 誰に言われなくとも当たり前のことと装飾華美な言葉に変換してお返しした。


 あの時、今生の苦しみから解放された妃殿下の穏やかな顔を撫でる陛下の、あの悲しみにも見える悦びの微笑みは忘れないでおく。

 愛した人と漸く二人きりになれたのだ。それ以上の喜びなぞ存在しない。

 私もその時が来るまで、殿下と共に征こう。

 死が二人を分かつまで。私も陛下の様に殿下より先には死なない。あの方が悲しむ姿を私以外に見せるなぞ許せないから。


「父上・・・嬉しそうに見えたわ。

 母上の手を取って、ずっと語り掛けているの。

 ・・・・・退位したら、お二人が初めて出会った離宮の湖に二人の墓を建てて、一緒に眠らせてほしいと頼まれたわ」

 私の首に抱き着きその顔を見せてはくれないのか。くぐもった声に湿り気は無いが、この方はあの時から立て続けに起こった難題や、処分や処刑と言った後始末の全てを溜息一つで飲み込んできた人だ。例え私にも見せる弱さは持ち得ない。

 今迄もこれからも、私たちはふたり。それさえ解っていれば充分ではあるけれど。


「素敵ですね」

 衒いなくそう反すと、一瞬上げたその顔には驚きと隠し切れない喜びがある。

 ・・・・・・・・あ~可愛いなあ。駄目かな、駄目?ああ、そう。厳しい側仕えなんぞ今は要らないのだけれど、ね?


「これからも息が抜けないわね。

 いまだに私が王位に就くことを阻止しようとする頭の悪い者たちがいるわ。

 ぐだぐだと『女王』に対する不安だとか、前例がないだとか」

 ごまかすように話題を変える愛しい人に素知らぬ風で同調する。

「後始末も他国との交渉や駆け引きも蚊帳の外に追いやられましたからね、それが面倒くさい方向に飛び火してしまいました」

 むうと唇を尖らせる。こんな愛らしい姿を見せるわけにはいかないなあ。あ?後ろ向いてくれるの?気が利くなあ、でもそんなに怯えなくてもいいのにね。


「民も全てを知らせるわけにはいかないから、キナ臭い連中に煽られている者も少なからずいると報告があったわ」

 似合わぬ溜息は必要ないですよと微笑むと、先を促してくる。その瞳の強さは小さな子の頭の中で恐ろしく早く算段が組み上がっていることだろう。


「夢を、見せようと思っています」

「夢って、夜見る夢の方?それとも空想妄想の方の夢?」 

 しっかり聞く体制となって、私を見上げてくる。

『頼られる男』が今週の目標ですから張り切りましょう。

「殿下も王族の歴史をお学びになられた時に、必ずお聞きになられた歴代の賢王が居られましたね」

 私の言葉に頷くと指折りその名を連ねていく。

「勿論よ。

 創国の英雄王カエサル、中興の祖アルマンド、二度目の大反乱を防いだクリストフ王よね?」

 良くできましたと褒めるが、頬を膨らませてしまった。

「これから真の王族史を学ばれることと思いますが、実は彼らはすべて女性だったのです」

 驚いた?とばかりに殿下を見ると、庭園にいるスリナイという魚の様に口をパクパク開閉している。そんな間の抜けた顔をしていても美人というのは絵になる。


「っっっっっっっ~~~!私が知らないことをなんで貴方が知っているのよ!!」

 返しが早いですね。しかもそこ?ですか。

「私の一族は守護の一族。始祖は創国の王の王配でしたので、それなりに伝わっておりますよ」

 揶揄うように伝えた内容が我ながら衝撃的な内容だったので、そっと殿下の二の腕を擦る。自分をそんな状態にした人間に縋っているのだと自覚しておられるのかな?

「何で秘されたのだろう」

 驚愕も過ぎると却って落ち着いたのか、冷静な口調で問われる。

「当時は戦続きで甲冑を脱ぐ間も無く、周囲も脳筋武将の武闘派集団でしたからね、色々交錯した結果、本当のことを言い出せなくなったというのが案外本当のところなのかなと、始祖の日記から推察しますね」

「ご、ご先祖様?」

 愕然と項垂れる殿下を抱き寄せる。


「カエサル王の真の名はカサンドラ。アルマンドはアルシア。そして、クリストフ王はクリスティーナ。彼女たちの治世が歴史的に見ても我が国が繁栄したと言える三大賢王の時代でした。

 そして、そんな彼女たちの王配としてその治世を助けたのが、我が一族でした」


「はああああああああ。

 と言いうことは、我が国の歴史上の英雄はすべて女性だった。けれど、我が国を含めこの世界の政治は男性優位の社会だから、『女王』の存在は外交内政上困った事案になるわけね」

 一を知り十を理解するですね。

 殿下の仰せの通り、女王の存在は侮られたり利用されたり政治上不利になると判断され、アルマンド王以降は女王を男装させ男王として認知させてきた。それを知る者は王家やその側近のごく限られた者ばかりで、場合によっては王族と言えど王太子以外の兄弟ですら知らぬまま生涯を終えている。

 項垂れてように見えて殿下の闘志(・・・闘志?)のような揺らぎが沸々と湧き上がってくるのが視得る(・・・)

 歪んでいない純粋な王の星が、薄桃色の炎のような揺らぎを纏いとても美しい。これは視得る自分だけの特権。これから先愛する人から男としての寵愛を失っても、この特権だけは奪われないで済むのだ。私は何という幸せ者だろうか。


「繁栄をもたらすのは格下と見られている女王だけ。

 これで公表できる者ならば溜飲も下げられるというものだけれど。

 父も前例(・・)の無い女性王族の王太子を強行したのはこの史実があったからなのね。

 貴族院も騒いでいるのは『真実』を知らされていない者?」

 爆ぜる炎のような煌きに満ちた瞳が射抜いてくる。

「そういうことになりますね」

 是と首肯する私に、すうっと瞳が絞られるのが見える。

「今迄もこれからもそう変わりは無いけれど、ご先祖様の偉業と思い図ることのできない艱難辛苦を想えば、初めての(・・・・)女王の役は役者冥利に尽きるわね。

 彼女たちに恥じない国にするわ。

 共に・・・お願いするわね」

 嗚呼、何という恩寵。御使いの神琴の音色も斯くの如し。勿論この手を取るのは私一人なのですよ。星はそう歌い続けているのだから。


「そこで私からの提案として、殿下が王位を御継ぎになられる前に露払いとして件の夢を見せるという話になるのです」

「そうだったわ!

 貴方今迄も少々人間離れしていると思っていたんだけれど」

 そんな風に・・・?

「夢を見せるなんて、王立の魔導院でも成功していなかったでしょう?

 確か研究だけは継続しているとは聞いていたけれど」

 王城の隅々まで目を配っているようですね。しかしその分野では後天的な才能は開花しないという結論に至って頓挫しているのが事実で、研究費が不正に収賄されている可能性が出てきました。

 私の顔色に察したのか、殿下の目が細められる。

「・・・調査させるわ」

「御意」

「気が早いわよ」


「こほん。

 当家が一族ごとその身柄を預かりとしている、ミスラという半精霊族の一族が居ります。

 魔力溜り(ウルスラ)という自然界の魔力が溜まる地域に隠れ里を作り、ひっそりと暮らしておりましたところ、今回の大反乱寸前の魔力場の乱れ(彼らは嵐と呼んでおります)に半分村が飲み込まれ、多くの同族が途方もない苦しみの中息絶えたのでございます」

 知らされていなかった事案に、驚きと怒りが綯い交ぜになった輝きが瞳で爆発している。責めるような責められているような視線は、相反して彼女の中で混ざり合う。

「生き残った彼らを保護し、事が終わってから安定したウルスラに新しい村を建設中です。

 私達人族の無知蒙昧と傲慢が引き起こした大反乱未遂だというのに、大いに感謝し、力になると申し出てくれたのです」

 彼らの現状に痛ましくはあっても、現実的に王太子にできることは無い。それを飲み込み私の話を聞いている。


「彼らはウルスラの魔力に満ちた大地に生る黄林檎(テテ)の実しか食べられなません。他に移住することもできずにいたので、当家が封印し安定したウルスラに村を作ったのです。

 それに感謝し、是非自分たちの力でよければ提供したいと申し出てくれたのが彼らの『夢を見せる』能力でした」

「・・・狙った?」

 おやおや心外です。当家は謝意と賠償を込めての提案でしたよ。偶々です偶々。


「何のことでしょう?」

「も、もういいわ。それで?夢を見せるということで、何が良くなるの」

 もういいのですか?オカシナ殿下デスネ。

「歴代の秘された女王を女王として公表します。

 国の公式発表から始まり、国内外に知らしめ、辻々に吟遊詩人を配し英雄たちの偉業と秘された恋の物語を流布し、あらゆる媒体で彼女たちの真実を語るのです」

 あ?頭がおかしくなったと思われてますか、そうですか。

「そこでさらに、懸念である少々お痛が過ぎる面々に是非ともご退場頂けるように何故か不正が発覚し、浮動層や我が国に駐留されている各国大使御方々は()を見られるのです」

「夢」

 そう夢です。


「秘された英雄王の真実を。

 大反乱を未然に防ぎ自国や大陸全土を救った英雄が王座を得る。『王の星』額に輝かせる女王は、実は女王だった英雄王の再来だと。

 そして、事の発端となった若者たちがもし大反乱が未然に防げたとしても国の根幹を握る為政者となってしまった未来を夢として見てもらうのです」

 どうです?と言っても、夢見の長老の提案に色を載せただけなのですがね。


「え、えげつないわあ」

 ああ、まあ、そうですよね。

 夢が現実にどう反映するのか予想はつきますがどう転ぶかは運次第。

 希代の英雄王となるか、詐称の王となるかは未来の話です。


「フレド」

「はい」

 その声に甘さは無いけれど、しっかりと握られた手は誰のものでもなく私のもの。

 どうか私に怯えないでください。側にいることを許してください。

「私から離れることを禁じます。それからあまり偽悪的に振る舞わないでね。

 貴方を悪くいう人間を縊り殺したくなるから」

 嗚呼、王よ。今ここでは私だけの愛しい人。離れることなぞできません。





「一緒に、一緒によ?」

「御意」


読んで戴き感謝感激です。


これ以降の続編はリクエストがあったらですが、無いと思いますのでこれにてバッハハ~イ

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