別行動
さて、あのあと私はこっぽどく怒られたわけだけど。
いやー、いくらなんでも殴るのはいけないと思うんだうん。
たんこぶできただろうがバカ野郎。
微妙にぼこってしてるから、結構髪盛らないとなんか違和感あるぐらいになっちゃったし。
と、いうわけでセッティングしている最中なわけですよ。
こういう時は長いのがウザったく感じる。
自分の重さでぺたーってなるから、こう・・・うまいことやらないといけないし。
「おい、まだか?」
「うっせえ、入ってくんな変態!」
着替えでなくてよかったな変態。
これが着替えだったらお前は生きてないぞ変態。
「クソ・・・遅いお前のほうが悪いのになんで俺が・・・」
文句言ってんじゃねえよ変態。
今の私は結構不機嫌なんだよ。
「と、いうわけで今の私は不機嫌なんだ、なんかおごれ」
「なんで俺たかられてんの・・・?」
「それもこれも貴様が私を殴るからだ」
「ただのげんこつだっての!それに結構加減してるし」
加減してこれとか・・・。
どんだけ野蛮人なんだか。
まあ、喜んで自分の寿命削るような人ですし?それも当然か。
「なんで俺そんなバカにするような目で見られてんだ?」
「・・・」
「かわいそうなものを見る目もダメだ」
「・・・」
「そこでなぜ引いた目をする!?」
忙しいやつね。
これで私の怒りが伝わっただろう。
結構ヘアスタイル考えるの面倒くさかったし。
ただ盛っただけだとただの不思議ちゃんになってしまったので、うまいことおしゃれにまとめてみた。
というか、服買おうよ服。
合わせる服が四着しかないから、大変だったんだよ。
「まあ、今日は服を買いに行きましょうよ」
「・・・おい、この二日間の遅れを取り戻すんじゃなかったのか?」
「あのね・・・こっちにとっては死活問題なの!たったの四着よ!?四着しかないのよ!?」
「そんだけあれば十分だろ」
何言ってんのこいつ。
まず、動きやすい恰好が必要になる。
あとは、おしゃれ用。
それに部屋着。
そして、出かける場所に応じて変えるためなどなど・・・。
これをすべて四着でこなせというのは無理だ。
「説明するのがだるいぐらい用途が多すぎるから省くけど、とにかく足りなすぎるのよ。あ、あと衣装ダンスもほしいわね」
「どうやって持ち運ぶんだよそんなもん」
「そこは・・・頼もしい男手があるじゃない」
「・・・俺に運べと?」
「もちろん。やってくれるわよね?」
「無理」
「なんでよ!」
まさかかよわい私に持たせると?
鬼畜!鬼!卑劣漢!!
「というか、いざ戦闘になってみろ。邪魔になるだろ」
「補強して武器にすればいいじゃない」
「衣装ダンス振り回して戦うのか?・・・無理があるだろ」
「鋼鉄製とかなら十分鈍器になると思うけど。いざとなったら盾にもなるじゃない」
「それだと重くなりすぎて運べないだろ」
いやいや、リアカーで運ぶとか宅配便に詰めてもらうとかいろいろあるし。
とりあえず買っておくのは十分ありだと思う。
で、そのあと宅配便で次の町の宿屋に送り付け、その宿屋の部屋を予約しておけばバッチリだ。
服もその時一緒に送ってもらえば問題ない。
「いい?まず次の町の宿屋を調べるのよ」
「・・・急にどうしたんだ」
「いや、時間は無駄にしたくないし」
「ほう・・・ようやくわかってくれたか」
いや、最初からわかってるし。
とりあえず今はこの完璧すぎる私の計画を聞かせてあげるとしよう。
「まず、ケリーは次の町の宿屋を探して。わたしは・・・服を買うわ」
「・・・いやいやいや、なんでそうなる?」
「いやいや、これであってるから。分担って大事じゃない?」
「そうだが・・・お前だけ遊ぶ気だろ」
「え?これは必要なことなのよ。適材適所って言葉に従うなら私が服を買い、ケリーが次の町の宿屋を調べるのが一番なのよ」
「・・・仕方ないか」
なんで今『あ、もうこいつダメだわ』みたいな目をしたのよ。
完璧じゃないの。
「で、あとはサイタード宅配サービスステーション前に集合ね」
「・・・お前が何しようとしてるかだいたい分かったが・・・金はあるのか?」
「昨日の晩こっそり稼いできました」
ケリーに気付かれないようにカジノに行ってきました。
全額つぎ込んだかいあって、世界の裏側に宅配頼んでも大丈夫なぐらいの金ができた。
「・・・お前何やってんの?」
「資金は大事じゃない。大丈夫よ、私にかかればあんなのカモでしかないわ」
スロットマシンだろうがブラックジャックだろうがなんだろうがとにかく荒稼ぎ状態だった。
たまに負けもしたが、それでも勝って稼いだ金のほうが多く、まさに大勝利といえる結果に終わった。
ちなみにさっきの不機嫌な理由には寝不足というのもある。
「・・・半分俺がもらってもいいか?」
「1割ならあげるわ」
「そこは半々だろうが!」
「なら、2割で許しましょう」
「いいや、半分だ。ここは平等にいこう」
「稼いだのは私よ?特別に3割で勘弁してあげるわ」
「・・・わかった、4割よこせ。お前に金を預けるのは不安で仕方ない」
「無理よ。3割以上は譲れないわ」
甘いわね。
最初から無理な要求を吹っかけて、最後の最後で少し下げたラインで妥協させようとする。
その手には引っかからないわ。
それに、おそらくケリーも四割というのが本命だったのだろう。
少し下ならまあいいかな?と妥協させるのがこちらの作戦だ。
「・・・3.5割」
「言ったでしょ?3割以上は無理よ」
しつこいやつね。
それから(無意味な)話し合いが続いた。
お互い譲る気はなく話し合いはそこで拮抗、最終的には罵声飛び交う喧嘩に発展した。
で、お互い疲れ切ったところでおとなしく半々で妥協することに。
そして、翌日のこと。
「そういえば、ここから先は科学者側の町になるっぽいな」
「へー、ってことはなんかビル群とか車とかがすごいの?」
「あまり見たことはないんだが、おそらくそんな感じだろ」
例の基地は見るからに軍事基地といった感じだった。
見掛け倒しだったものの、メタルヒューマンがいるあたり相当進んでいるのだろう。
「とりあえず、これが偽造通行証だ。これで通行料を免除して、ある程度は優遇される」
随分と準備がいいことで。
しっかし、なんで幸福アドバイザーなわけ?
もっとまともな職業なかったのかしら。
これじゃあ、ただの胡散臭い詐欺師じゃない。
「なんだよ・・・言っとくが、幸福アドバイザーは今最も需要の高い職業の一つだからな。だから、ある程度練習しとけよ」
幸福アドバイザーっていうと、たぶん幸せに過ごすためにはどうするかっていうのをアドバイスする職業のことだろう。
そもそも、そんなの知るかよって話だし人の話聞くのとか面倒くさいしだるいし、やりたくない。
もっと別のにしよ。
「・・・おい、何やってんだよ」
「というか、インクなんて使ってんのね。スクリュードライバーで簡単にかえれたわよ」
「なっ・・・何やってんだよ!しかも、市長のサイン付きで・・・」
「こっちのほうが待遇よくなるでしょ?あんたが馬車馬のように働いてる間、私は権力者の紹介付きってことで優雅に過ごさせてもらうわ」
「遊びに行ってるわけじゃないんだぞ!?俺たちの目的は魔法使いたちの待遇改善、そのためには科学者たちに俺たちの力を示す必要があるんだ。だから・・・」
「っていうか、そんなのテロじゃないの。私は暴力でなんでもやろうとするの嫌いだし。そっちがそうしたいなら好きにやれば?」
「・・・面白いじゃないか。いいさ、あとで吠えずらかくんじゃねーぞ!」
と、いうことで今回は別行動することになった。
ちなみにこいつさえあれば自在に文字を変えることができる。
ただ、インク内の粒子を操作してるだけなので劣化することもない。
まっさらの紙に戻すこともできる。
やはり、最強の便利アイテムの一つだろう。
移動するための交通機関だって、この紙を市長の紹介状に変えてしまえば無料で乗り放題である。
別にこの紙である必要はないので、紙の媒体で通用する相手である限りそうそう屈することはない。
やはり、最強である。