謎時計
例にもれず私たちの基地も祝勝会ムードだった。
あのメタルヒューマンの暴走も科学者たちの強力な兵器に勝利したという事実には物足りないらしい。
だが、一時的だったとはいえ仲間が目の前で悲惨な死をとげ、自分の手で人を苦しめて殺したという事実が重く私の肩に寄りかかっていた。
「なあ、クラリス。これお前のだろ?」
そういって渡してきたのは懐中時計だった。
・・・そういえばこれ。
「あの基地の中で見つけたんだ。オフィスの机の中に入っていたよ。なにか記憶を取り戻すカギになればいいんだけどな」
「・・・ありがとう」
「気にするな。それよりその時計の模様綺麗だよな」
私を元気づけようとしてくれるのだろう。
それはうれしいのだが・・・そういう気分にはなれない。
「ええ・・・。?」
なんだろう。
この時計。
確かこれって・・・。
「これは・・・!・・・まさか隠蔽魔法だと!?」
「え?ケリー・・・これ魔法が・・・?」
「ああ・・・それもすさまじく高度なものだ。表向きはただの時計に過ぎないが、今の一瞬だけだが、莫大なエネルギーをその中から感じた。開けるのはやめておけ、危険すぎる」
「・・・そうね」
にしてもこの時計なんなのかしら。
元は私の持ち物のくせに魔法なんてかけられているなんて。
・・・もしかすると記憶をなくす前の私は魔法が使えたのかもしれない。
「それほどのエネルギーを隠せるほどの隠蔽魔法。もしお前が書けたのだとすると相当だな」
「・・・」
『マダだ・・・マダ開けるトキではない・・・」
「!?ケリー、この時計いま!」
しゃべった!?
やはりこの時計、ただの時計なんかじゃない!
「・・・?どうした?」
「え・・・今しゃべったじゃない」
「これがか?・・・もしかすると持ち主であるお前にテレパシーで話しかけたのかもな」
だとすると、この時計事態に意思があるということになる。
本当になんなのよ、この時計!
「時計の形をした生き物・・・とか?」
「・・・考えすぎだ。条件付きで発動する魔法というのも中にはある。おそらくそれの類だろう」
そうだといいのだけれど・・・。
どうもそれでは腑に落ちない。
「なんだ?それなら俺がジョージに頼んで解析班に回しておくよ」
「え、ええ・・・ありがとう」
「じゃあな。まあ、せっかくのパーティだ。楽しみな」
翌日。
パーティムードもおわり、普段通りの日常が返ってきた。
一日寝たらある程度気持ちにゆとりができ、単純に科学者たちの兵器を倒した、という事実に喜びが芽生えてきた。
・・・わたしもここの色に染まってきたな。
「よ!」
「どうしたの?ケリー。随分と期限がいいじゃない」
「ん?ちょっと、な。それより俺たち全員に魔法協会が大魔導士の称号をくれるみたいだぞ」
大魔導士といえば一人で百人に相当する魔法使いのことだっけ?
今まで科学者たちに煮え湯を飲まされてきたため、魔法協会も浮かれているようだ。
それと、ロンナーは魔王の称号を与えられた。
あの中で一番の立役者はロンナーだったし、名誉の死ということもあるのだろう。
・・・もっとも、あんな死に方では名誉も減ったくれもないだろうが。
ロンナーの死体はアリシアの基地で丁寧に埋葬されたらしい。
火葬はアリシア自身で行ったのだとか。
これで自分の気持ちにけじめをつけてくれると嬉しいのだが・・・。
「へえ・・・。すごいじゃない」
「まあ、あの支部長さんが大魔導士だったらしいしな。その大魔導士が全く歯が立たなかった相手を倒した俺たち全員はそれより上、って判断されたんだろうよ。最も士気をあげるとか言った思惑があるんだろうけどもさ」
ちなみに魔法協会というのは魔法使いたちをまとめ上げる組織みたいなものだ。
魔法使いには魔法使いのルールがあり、それを決めたりルール違反をさばいたりするのも魔法使いの仕事らしい。
また、今のように称号を与えるのも魔法協会の役目なんだとか。
全員が魔王以上の強力な魔法使いで構成されているため武力、権力ともに優れたまさに魔法使いたちにとって絶対的な存在なのだ。
「こんな簡単に与えてくれたが実際相当高位の魔法使いになれたってことだ。下手したらそれこそジョージと立場が変わるぐらいな」
「おいおい、まさか僕の職場を奪うつもりなのかい?大魔導士君」
と、そこでジョージが出てくる。
いつも支部長室にいるから出歩くところを見るのは初めてだ。
「なんだい?僕があの部屋から出るのがそんなに珍しいかい?」
「え、ええ・・・いつもこもりっきりだから」
「いやー、それが秘書の一人に後片付けを任されちゃってさ。人手が足りないんだとさ」
「ん?ならなんで俺たちにその話が回ってこないんだ?」
「ああ、それなら疲れている君たちにこんな重労働を頼むのはお門違いかと思って僕が止めておいたよ。おかげでゆっくり休めたみたいだしね」
ここは粋な計らいという奴だろう。
実際それで気持ちの整理も何とかつけれたのだ。
純粋に感謝しなくては。
「ありがとう、ジョージ」
「ハハ、美少女の微笑みというのは男である僕らにとっては最高のご褒美だね。そう思わないか?ケリー」
「・・・お前も浮かれているみたいだなジョージ」
「昨日はずいぶん飲んだからね」
どうやら、支部長も相当羽目を外したらしい。
そういえば、特設ステージみたいな場所で相当騒いでいたし。
「あ、それとよかったら手伝ってくれないかな?少し話したいこともあるしね」
「?ええ、かまわないけど・・・」
「・・・今更だけど、随分フレンドリーになったよな。俺たち」
「いやー、君たちの仲もよくなったみたいで上司として僕はうれしいね」
「まあ・・・あんだけ修羅場を乗り越えれば」
自然と仲間意識も強まり、いやでも結束が強まる。
アリシアとは離れ離れになってしまったが、今でも私たち三人は仲間であると信じている。
「で、話ってなんだよ」
「あー、君たちの実力を見込んでちょっと遠出をしてもらいたいんだ」
「よし、わかったわ。とりあえず座標と青い箱用意して」
「・・・あんな便利ボックスがそうそうあってたまるかよ」
どうやら行先は砂漠を超えて、山を越えて、海を越えたとこにある町らしい。
てか、ぶっちゃけると科学者たちの本拠地だ。
道中で魔王の人たちも合流してくれるとのこと。
つまり大勝利したこのノリに乗って本拠地もぶっどばしちゃおうというわけだ。
「・・・軽すぎだろ」
「いやー、実際そろそろ限界なんだよね。ここらで攻めにまわらないといい加減向こうも大規模殲滅作戦を展開してくるかもしれないし。その前に手を打っておきたいんだよ」
「・・・にしたって、軽すぎだろ。もっと考えろよ」
「僕の苦労も考えろよ!上からの圧力がすごいんだよ!!」
「いいから座標と青い箱よこしなさいよ!」
「だから無理だっての!!」
チッ。
あれさえあればすべてが解決するのに。
・・・その辺にないかな。
「それじゃあ、クラリス。気を付けてね」
「ええ、あなたも元気でねエテラーレ」
短い間だったが、共に過ごした仲間との別れを告げる。
魔法協会は相当焦っているらしい。
「それじゃあね。またいつでも連絡してくれたら助けになるよ」
「なら、青い箱・・・」
「まだいうか!」
だってほしいじゃないあれ。
私が知っている中で一、二を争う便利アイテムよ。
ある意味一番ヤバイ兵器にもなりうるし。
・・・科学者の中で作っている人いないかな。
「ケリー、涼しい風」
「ほいよ」
さて、砂漠だとか山だとか海だとかかなり険しいたびになりそうだったが、実際かなり快適だ。
それもこれもケリーが便利すぎるためだ。
私のスクリュードライバー並みに便利だ。
「・・・便利ね」
「なら、お前も魔法を極めな。そうすれば簡単にできるようになるさ」
けど、あれって命削ってるわけじゃん。
すんごくそれ嫌な気持ちになるんだけど。
みんな無害無害っていうけど、気持ち的にどうしても使わなければいけない状況でしか使いたくない。
それに、たいていのことはスクリュードライバーで済むのだ。
「私はごめんだわ。それに役割分担はしっかりしてるほうがいいわ」
「・・・一応聞いとくが、まさかお前俺を便利な召使とか思ってないよな?」
・・・。
「そ、そんなことないわよー」
「やっぱりそう思ってたのか!ああ、もう決めた!もうお前には使ってやらないからな!」
「な!?この先砂漠なのよ!?水とかほとんど持ってきてないから私死んじゃうじゃない!」
「へーそれは大変だなー」
「ちょ・・・!?ケ、ケリー・・・私が悪かったわ。何もそんなひどいこと思っていたわけじゃないのよ。こう・・・えーと・・・なんというか・・・」
必死に言い訳を考えるものの実際ただのエアコン兼日除け兼給水器ぐらいにしか思っていなかったため、なかなか言葉が思いつかない。
ていうか、もうすぐで人間だということさえ忘れるとこだった。
「・・・で、俺は何なんだ?」
「えーと・・・そう、偉大な魔法使いってさ、人を助けるっていうじゃない!ほら、とーっても困った少女がここにいますよー助けてくださーい」
「へーんじゃ、ほかの魔法使いに何とかしてもらえ」
「鬼畜!外道!バーカバーカ!アーホアーホ!!」
「・・・罵倒のボキャブラリ少なすぎだろ。ガキかよ」
・・・。
ハッ、別にもっとすごいの思いつくし!
そこまで言いすぎたらへこみすぎてもう再起不能になっちゃうだろうから?
そうなったら私も困るから言わなかっただけだし!
「・・・って思ってるんだろうけど、顔はめっちゃ焦ってる顔だぞ。鏡見るか?」
「!?・・・フッそれはわたしのポーカーフェイスよ」
「どこの世界にそんな正直なポーカーフェイスがあるんだよ」
「私はね、小学校のころ友達と『今日は一緒に帰ろうね!』って約束したら夜の8時ぐらいまで待ってるぐらい素直なのよ!純真なのよ!」
「それただバカなだけだろうが!」
「めっちゃ泣いたわよ!その前の日にガスマスクのゾンビが出てくるドラマ見てたせいでめっちゃ怖かったわよ!!どうしてくれんのよ!」
「そんなの知らねえよ!」
あー、疲れた。
こいつの相手をまともにしているとかなり疲れるな。
やはり、バカの話は適当に流すべきね。
うん、わたしってばとっても賢い選択をしているわ。
ちなみにガスマスクのゾンビが出てくるドラマですが、あれはめちゃくちゃ怖かったです。
こう・・・口と目のあたりからガスマスクが生えてきてですね・・・それはもう・・・グロイとかいう次元を超えてかなりホラーでした。
気合い入れすぎだっての軽くトラウマになってんだよバカ野郎。