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Rosmiua Fellnerd Phonebrayne  作者: U.O.T.E
衝突する二つの意思
6/25

おいうち

 やつらはすべて無力化されていた。

 今は一時的なスリープ状態なので、武装を破壊し、二度と抵抗するコマンドを選択できないようにした。

 各個体との通信機能も消去し、情報を引き出し、最低限人間的な生活を・・・元のこんな狂った人生とは無縁の生活を送れるように調整した。

 当然記憶も取り戻させたが、みんな混乱するだろう。

 だから、一人一人に腕利きのカウンセラーが付くことになった。



 魔法使いにも心理関連の魔法があり、それを使って患者の心理を前向きにしたり、時には抑制したりして回復を促していくのだという。

 当然普通のカウンセラーとしての腕も一流だ。



 「・・・」



 「・・・」



 「・・・」



 みんなが勝利ムードに染まる中、私たち三人の雰囲気は終始暗かった。

 最初はケリーやわたしがアリシアを元気付けようとしたが、彼女にはすべて無駄だった。

 それも当然だろう。

 あんな形で愛する人を奪われたのだから。

 また、アリシアとロンナーの仲を知っているものがロンナーのことをしきりに彼女の前でほめたたえたのも原因の一つだろう。

 彼女は終始微笑みを崩さず、涙一つさえ流さずにその言葉を受け止めていた。

 いや、ある意味聞き流していたのかもしれない。



 「・・・なあ、お前の名前思い出したか」



 今聞くべきことではないだろうに。

 いや、逆にそういう話題でもなければこの雰囲気に耐え切れなくなってしまうのだろう。



 「いや・・・でも呼ばれていた名前の一つなら思い出したわ」



 「んじゃ、いくつも名前があったってことか?偽名みたいな」



 「そうね」



 以前の私は相当ヤバイ立場にいたのか、いくつも名前を持っていたらしい。

 具体的に何かと聞かれても今思い出した一つしか答えれないのだが。



 「なんていうんだ?」



 「クラリス・ジュリエット・パントリーニ。書くときはクラリス・J・パントリーニね」



 「そうか、んじゃこれからはクラリスって呼べばいいか?」



 「ええ・・・綴りも教えましょうか?」



 「いや、そこまではいいよ」



 そこで会話が終わる。

 そのあとは基地につくまで終始無言だった。

 こうして、私の最初の戦いが終わった。



























 「君の名前は複数あるらしいね」



 かえって報告するなりいきなりそんなことを言われた。

 ちなみにこの人今更だがジョージというらしい。

 決して格闘術とか得意なわけではないらしい。



 「まあ、偽名だけどね。本名は分からずじまいよ」



 「しかし、いつまでも処刑者と呼ぶわけにもいくまい。さて、普通にファーストネームで呼んでいいのかな?」



 「もちろん。こっちもジョージでいいかしら?」



 「ああ、部下との交流は大事にしたいからね。かまわないよクラリス」



 いつから私がお前の部下になったのやら。

 


 あの後アリシアたちはそれぞれの基地に帰って行った。

 今頃アリシアたちの基地はパーティー並みの雰囲気だろう。

 そんななか、アリシアがたえれるとは思えないが・・・。



 「・・・大丈夫、アリシアは強い女性だ。すぐに克服して立ち直るさ」



 と、ケリーが私に耳打ちしてくる。

 てか、いたのね。



 「で、俺もファーストネームで呼んでいいのか?」



 「前から許可しているつもりだったが・・・言ってなかったかい?」



 「なら、遠慮なく・・・。で、ジョージ。うちの解析班の見解はどうなんだ?あれは一体何なんだ」



 「ほとんどクラリスのいう通りだったよ。人間の脳が埋め込まれた機械の体に、アップグレード装置、それに人間の脳を最大で五つまで最大に時間は保管できる容器まで。彼女の話との相違点としては魔力弱体化装置程度だろう」



 正直、あれらを解析することに関してはあまり意味がないと思っている。

 私からの希望であれらをあまり弄繰り回すような真似はしないようにと言っておいてもらってる。

 最低限傷つけないように調べ、本当に安全かどうか確認したら起動するそうだ。



 「君は見に行かなくてよかったのかな?」



 「・・・ええ、人間を解剖するのと同じことなのよ?それに私はあれについてはほとんど熟知しているといっても過言ではないわ」



 以前設計図を見たことがあったしね。

 もっとも、装甲については宇宙から降ってきたものを流用しただけなので、詳しいことは分からずじまいだったが。



 「あれを私たちはメタルヒューマンと名付けた。完全に武器を所有していないことが判明したため、直に自由にする予定だ。・・・もっとも、この基地内だけだがね」



 この基地のなかだけとはいえ、メタルヒューマンたちの人間としての権利や自由などは保障してある。

 もちろん私たちに害を加えない間だけだが。



 『ボス、緊急事態です!メタルヒューマンたちを起動したら急に・・・!!』



 「よし、すぐ行く。悪いがクラリス、君も一緒に来てくれ。何か問題が発生したようだ」























 「起動した瞬間急にこいつらが暴れだして!」



 「なんだと?何をした」



 「私たちはなにも!ただ、武器を持っていないかなどを調べて起動しただけです!」



 『わたしの彼は・・・彼はどこ!?』



 彼・・・。

 メタルヒューマンになる前の彼氏だろうか。

 このメタルヒューマンは女性らしい。



 「私に任せて。どうしたの?」



 『彼はどこ?わたし、明日結婚する予定なの。式には魔王のかたも来られて盛大に行うのよ』



 「なに!?ま・・・魔王だと・・・?」



 「・・・それはいつ、どこで行われた結婚式なの?あなたの名前は?」



 『彼は・・・どこ・・・?とても・・・寒いの』



 「カウンセラーを連れてこい!このままでは彼女が危ない!」



 どうなっているの?

 全く分からない。

 こうなるはずじゃなかったのに・・・。



 『私の名前は・・・エミリア。エミリア・ポーネイ。8月26日にオールレイの丘で結婚式を行う予定だったの』



 「エミリア・ポーネイだと?・・・まさか、お前はあのエミリア・ポーレイなのか!?」



 「知っているの?」



 「ああ・・・この人は魔力の圧縮に関する論文を提出し、魔法界でいちやく注目を浴びた若き新人魔法使いのエミリア・ポーレイだろう。多くの駆け出し魔法使いたちの憧れとなり、熟練の魔法使いも一目置く存在、それが彼女だったんだ。その結婚式となれば魔王クラスの人物も立ち会う。そして、彼女は結婚式の前日に行方不明となって、かなりのビッグニュースになった。・・・間違いない」



 随分と詳しいのね。

 それもそのはずか。

 そんなビッグネームの消失、まして結婚式前日ともなれば誰もが知る内容といってもおかしくないだろう。



 『寒い・・・の・・・。式を挙げて・・・彼と・・・』



 「・・・ごめんなさい。本当にごめんなさい。今・・・楽にしてあげる」



 「クラリス・・・?お前、何を・・・」



 『立派なウェディングドレスをママに買ってもらったの。彼も張り切ってたわ。私と彼で二人で・・・』



 「・・・」



 『ここはどこ・・・?わたしはなんでこんな・・・どうして・・・?』



 「っ・・・!」



 彼女にかけて上げれる言葉はなかった。

 私はカウンセラーでも何でもない。

 ・・・いや、そのカウンセラーですらかける言葉もないだろう。

 まして彼女を生きる活力に導くこと言葉なんて・・・。



 『・・・彼はどこ?私・・・彼に会いたいわ・・・』



 「・・・エミリアが結婚する予定だった相手はすでに死んでいる」



 彼女に聞こえないよう細心の注意を払ってケリーが耳打ちしてくる。

 ・・・そういうこと。

 あなたもなかなかに残酷ね。

 私にこんな役目を押し付けるなんて。



 「眠りなさい、エミリア。この悪い夢が覚めて無事あなたが幸せに結ばれる未来を祈っているわ」



 脳をシャットダウンする、すなわち彼女を殺すためにスクリュードライバーのパルスを回路にあてる。

 これであと三秒後に脳の機能は停止し、それに伴って彼女の体は永久にシャットダウンされる。



 『ありがとう・・・。おやすみなさい・・・名前も知らない素敵な人たち・・・』



 「・・・私たちは別に素敵でも何でもない。何も知らないからと言ってあなたにこんなひどい仕打ちをしてしまったただの外道よ」



 肩にポン、と手を置かれる。

 ケリーだ。



 「ごめんなさい、ケリー。今あなたにものすごくハグしたい気分なの」



 「知っているか?クラリス。男の胸ってのはこう・・・泣くためにあるもんなんだ」



 ケリーの少しキザだが、優しいセリフを聞いて私は彼の胸に飛び込む。

 そして、静かに泣いた。
























 「もっと調べてみたら記憶制御装置の後遺症か知らないけど、記憶が戻ったらすさまじい寒さと精神的苦痛が与えられることが分かったわ」



 なぜもっと詳細に調べなかったのだろうか。

 いや、そこまでやるとその人の記憶自体も読んでしまう。 

 だから、制御装置は調べる気がどうしても起きなかったのだ。

 ・・・もっともそんな道徳的な考えなんて言い訳に過ぎないが。

 知らなかったから、道徳的に考えて非常識だからと言ってあのような思いをさせるのはただの鬼畜でしかない。

 だから、私はすべてのメタルヒューマンの脳をシャットダウンすることにした。



 遺体と呼べるかどうかはわからないものの、彼らの脳は魔法使いたちによって償却され、そのボディは棺に納められて、埋められた。

 半ば嫌悪感を伴う行為だったが、各個人の記憶を除き名前を調べ上げた。

 極力他の部分は見ないようにしたが、どうしてもその人がどういった人なのか、どのような家族や友人関係を持ってしまったのかなどのプライベートな部分も知ってしまった。

 


 「・・・そう気を病むことはない。なかにはボディを平気に流用すべきだ、とかまた記憶を消去して科学者に対する秘密兵器にしようというような意見もあるぐらいなんだ。・・・君は責められるべきではないよ」



 「でも・・・ジョージ、私は彼女にあんなひどいことを・・・」



 「・・・単なる施行放棄や逃げの一種に過ぎないかもしれないが、こう思うことにしたよ。悪いのは我々ではない、あんな目に合わせた元凶である科学者たちである、とね」



 確かにそれは施行放棄かつ、逃げの一種だろう。

 しかし、世の中には割り切るという言葉もある。

 いや、そう思わなければ実際やっていけないのが人間という奴だろう。



 

効果はバツグンだ!

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