鋼の世代
「・・・アリシア、やつらが探知で来たらすぐに知らせてくれ」
「ええ、わかったわ」
「ロンナー、電撃を使ったら周りにどれぐらいの被害が出る?」
「さーてね・・・ただ、これだけ密閉された場所で使ったら間違いなく誰かは感電するだろうな」
高さにして6メートル、幅4メートルほどと結構広めの通路なのだが、やはりその中で電撃を放とうものならこちらも感電してしまうらしい。
まさに諸刃の剣という奴だろう。
「!?近いわ、やつらよ!」
「どっちからくる!」
「右よ!右から一体来るわ!」
そういった瞬間右の通路やつが現れる。
こちらを認識するよりも前に私のバリスタ砲攻撃する。
「・・・やっぱりまるで効いてないみたい」
「よし、撤退だ」
こちらに気付いたやつがレーザー光線を放ってくる。
ただ火力が強いだけで普通のレーザーらしく、当たった壁が分解された形跡はない。
「のんきにみている場合か!早くいくぞ!」
「ええ、でもその前に・・・!」
私は緊急隔壁を作動するためのパネルにスクリュードライバーのパルスをあてる。
すかさず隔壁が作動し、やつと私たちの間に壁ができた。
・・・これなら多少は時間を稼げるでしょう。
「へえ・・・やるじゃん」
「よし、今のうちにオフィスに急ぐぞ!」
「ようやく一息、といった感じだな」
「そうね・・・。なーんか久しぶりに走ったわ」
ずっと施設にこもりっきりだったしね。
基地内でも多少の運動はしていたけど、そんなのとは比べようもないぐらいは知ったわ。
「ここがオフィスね」
「ロンナー、警戒してくれ」
「任せときな」
「私も行くことにしますか」
「悪いな、アリシア」
「ぜーんぜん。私がいたほうが対処しやすいでしょ?」
ケリーたちの会話をBGMに基地の構造に関するデータを取り出す。
これを印刷して・・・っと。
「はい、これが地図」
「助かるよ。ロンナー、アリシア!来てくれ!」
地図を各々に配り、次に行くべき場所・・・兵器庫を探す。
「ここだな・・・どうやら俺が潜伏していた時に知ったのはごく一部だったらしい」
ケリーも工作員として潜伏していて、私を救出する以外にもこの基地の探索を命じられていたらしい。
その時に兵器庫らしきものが見つからなかったため、一般の兵士は立ち寄れない場所にあるといっていたが・・・ここまで厳重だったとはね。
「扉は私のスクリュードライバーで開けることができるわ」
「それはどんな扉でもか?」
「機械で制御された扉なら大抵のものは開けれるわ。よっぽど厳重なプロテクトが施されてなければね。あ、それとこれ」
ついで、とばかりに私はポータブルデバイスを取り出す。
オフィスの机の幾つかに入っていたものだ。
「全部で六つあったから一人一個持っていきましょう。地図や万が一はぐれたときのための通信手段にもなるわ」
「電波は探知されるんじゃなかったのか?」
「このポータブルデバイスからの通信なら傍受されないようプロテクトを施してあるわ。・・・まあ、やつらが探知するのは電波じゃなくて特定の周波数とかだけ。抜け道ならいくらでもあるわ」
「それならなんでさっき・・・」
「それも微弱なものだけでは、ってだけよ。あんな遠距離用の通信機だったら簡単に傍受されてしまうわ」
「じゃあ、あまり離れすぎたら使えないのか?」
「・・・そうね、だいたい半径50メートル程度でギリギリ使えるぐらいかしらね」
こればっかりはないよりかはマシってだけね。
それにアリシアの探知魔法ならこれよりはるかに高性能だし。
「万が一アリシアがはぐれてしまったときや、探知魔法が使えないような状況になった時を見越してのまあ・・・付け焼刃みたいなものね。あまり期待しないほうがいいわよ」
「だが、地図として使えるのはなかなか優秀だな。それに半径50メートル以内なら分担行動もできるんじゃないか?」
確かにそれも考えたけど・・・。
ロンナーの提案は普通なら了承されるとこだが、今は危険すぎる。
一人では逃げ切れる可能性が低い。
それほどまでにやつらは驚異的な存在なのだ。
「いいや、分担するとけって危険が高まる。ここはまとまって行動すべきだろう」
「とりあえず、ここでやつらに対抗する作戦を立てましょう」
「そうだな」
まず、あいつらは固い装甲におおわれている。
いかに電子制御された体であろうとも、あの装甲はスクリュードライバーのパルスを跳ね返してしまうだろう。
かといって、普通の銃弾や魔法攻撃も通用しない。
それどころか、魔法の威力を下げる力場を常時展開しているらしい。
だから、探知魔法も近づかれなければ機能しないし、魔法攻撃も通用しない。
「この中で一番の対抗策はロンナーの電撃よ。あの装甲の下に絶縁処理がなされていなければ多少は効果があるはずだわ」
「あいつらの人数は合計で四体だったなアリシア」
「ええ、探知できたのは四体だったわ。・・・もっとも、アップグレードされた犠牲者がいなければだけど」
「・・・少し気になったんだがいいか」
と、そこでロンナーが質問しようとする。
そういえばさっきから考え込んでいたようだが。
「アップグレードされたらやつらと同じになり、記憶を消される。それはいいんだが、それならどうやって俺たちを敵と認識させるんだ?わざわざ教えるのか?」
「・・・確かに。言葉も発していない割には統率が取れすぎていたわ」
・・・そうか。
あいつらがもし、固有の周波数を持っていたとしたら?
あれぐらいなんでもありなのだから、各個体との通信機能ぐらい備えているはずだ。
どうしてそれに気づかなかったんだ!
「・・・突破口が見えたわ。おそらく、やつらは各個体と通信することができる手段を持っている。そして、その大本となるリーダー的存在がいるはずよ」
「なるほどな。しかし、通信機で仲間のふりをするとかしても意味ないと思うが」
「違う違う!いい?まず各個体はおそらく常時リーダー個体との通信を行っている。だから、どれか適当に一体を捕まえて、そこからハッキングするの」
「ほお・・・リーダーを乗っ取るわけか」
あら、魔法使いにも多少は知識があるやつがいたのね。
まあ、敵を知れともいうし。
このロンナーというやつはなかなか優秀ね。
「その通り。あとは、リーダー個体から武装解除のコマンドを送り、一網打尽ってわけ」
「もしくは自爆・・・だな」
本当にこの男は優秀ね。
あとで、わたしの補佐にスカウトしようかしら。
「わかってるじゃないの。とにかく今後の方針は一体を生け捕りにすること。ケリー、各班と連絡はとれる?」
「・・・かなり危険だがな。一応連絡を取ってみる」
今は各班との通信は極力控えるように言明されている。
双方の理由は居場所が特定されてしまうからだ。
だが、この突破口は伝えるに値する内容だろう。
「こちら探索班A、ケリーチームだ。突破口を見つけた。だからなんとしても一体でもいいからやつらを生け捕りにしてほしい」
『おいおい、無茶を言うなよ!そんなの無理に決まっている!だいいち有効な攻撃手段もないんだぞ!?」
「そこはなんとかしてくれ!」
『悪いが付き合ってられねえよ。まあ、余裕があったら考えておくさ。通信終わり』
「な・・・!お、おい、ちょっと・・・!・・・クソッ、切れた」
「無理もないわ。うちは血の気の多い連中が多いから」
「かくいう俺らもその一人・・・ってわけだがね。けど、どうすんだ?確かにあれを生け捕りにするのはいささか難易度が高すぎるんでないか?」
今最も有効な策はおそらくロンナーの電撃。
しかも、超至近距離・・・それこそゼロ距離からの電撃が必要だ。
もちろんロンナー自体もタダではすまないだろうし、そこまで肉薄できる可能性も低い。
取りつかれた瞬間に即座にアップグレードに移行される可能性さえある。
「・・・俺が行く」
「ケリー、お前の実力は知っているがすでに前線から引いたお前より俺のほうが可能性は高い。それに俺の魔法はあいつら機械と相性がいい」
できれば、破壊するのではなく本来の記憶を取り戻させてやりたい。
だから、行うのは自爆コマンドではなく、武装解除と記憶制御装置の停止だけにしたい。
しかし・・・それをやるにもまずは一体を生け捕りにしなければならない。
「いいや、だからこそお前は必要なんだ。お前は切り札なんだ。失敗は許されない」
「しかし、あなたはリーダーなのよ!?統率役がいなくなったらまともに行動することもできないじゃない!」
「そんなのはただの肩書きさ。俺よりあいつのほうが立派に指揮を執ってるよアリシア」
といって、私を指さす。
しかし、何も犠牲になるような真似をする必要はない。
それなら、多少は生き残る可能性の高いロンナーに・・・。
「・・・お前ならわかってくれるはずだ。お前が一番現状を理解している。この中で一番失っても被害の少ないのは誰だ?」
・・・ひどすぎる。
そんな質問をするなんてひどすぎる。
「・・・あなたよケリー」
「な・・・!てめえ!」
「やめなさい!ロンナー!・・・彼らのいう通りよ。残念だけど失敗の許されないこの状況では即座に実行に移すよりも事前にデータを取るほうが成功率は格段に上がる」
「だからってケリーを!」
「わかってるわよ!そんなの!!」
思わず私は声を荒げてしまう。
そんなのはわかっている。
しかし、失敗は許されない。
ケリーはロンナーほどではないが、電撃魔法を扱うことができる。
おそらくやつらを行動不能にするには十分すぎるほどの電撃魔法を使えるだろう。
探知役のアリシアと制圧役のロンナーは絶対に必要だ。
次にやつらを一番知り、罠にかける作戦を考案するためにも私も必要になってくる。
ケリーができることは何もない。
だから・・・それをケリー自身が一番知っているからその役を買って出たのだろう。
「いいんだ、ロンナー、アリシア。リーダーである俺が決めたんだ。みんなは命令に従ってくれ」
それは命令などではなくただの願望でしかなかった。
仲間を見捨てろなどという命令をするリーダーはいない。
だが、私たち三人は命令という言葉を聞いた瞬間にケリーの覚悟を知った。
だから引き留めることなんてもうできるはずもなかった。
「・・・そう暗い顔をするなよ。万が一にも俺が生き残るかもしれないだろ?」
「・・・そうね。確かに可能性はゼロではないわ。でも・・・」
「クソッ!」
ロンナーが机を蹴り飛ばす。
その行動は今の全員の気持ちを代弁していた。
「・・・ロンナー」
「・・・それで、具体的な作戦は何なんだ?俺は何をすればいい」
「・・・え、ええ・・・作戦は簡単よ。あいつに肉薄してゼロ距離から心臓部であるこの後頭部の装甲に向かって電撃を流す。確かここだけ装甲が薄くなっていたはずだから最も制御回路の大本となった脳に近いはずよ」
「・・・今更だがこれって人殺し・・・なんだな。俺、人を殺すのは初めてなんだ」
「殺すんじゃないわ。無力化するのよ」
「そうだな・・・。みんな、可能な限りやつの目を俺から引き離してくれ。しかし、一番は自分の命を優先しろ。まずくなったら何が何でも逃げろ」
それはあなたも同じよ。
そういいたいのをぐっとこらえる。
肉薄するということは失敗したらアップグレードされるということだ。
すなわち、もう元には戻れない可能性が高い。
元いた場所でやつらから生身の人間に戻れるという話を聞いたことはない。
もともとそれが完成形だと思い込んでいたため、戻る必要性を感じなかったのだろう。
結果的にはただの殺人マシンにしかなれなかったのだが。
「いたわ。ロンナー、ケリー。足止めを!アリシアは防御結界を!」
まず、通路に敷き詰められた配線に向かってロンナーが電撃を流し込み、足止めを行う。
そして、ケリーも地属性の魔法で足止めを行い即座にやつの後頭部に肉薄、電撃を流し込んで生け捕りにするという流れだ。
「行け、プラズマボルト!」
すさまじい電撃が配線を通してやつの体に浴びせられる。
しかし、案の定きいていない。
以前高圧電流を流し込んだ水の中を平気で歩いているところを記憶の中で思い出したからだ。
「アースバインド!」
ケリーが地属性の魔法で床を変形させて、やつを閉じ込める。
もちろん後頭部などは露出させている。
「ケリー!」
「ああ!」
すかさずケリーが飛び出し、やつとの距離を縮める。
ケリーは身体強化の魔法も使えるため、ものの数秒で距離を詰めれたのだ。
・・・行ける!
「・・・!ケリー、よけて!」
「え・・・?な・・・!?」
しかし、やつのパワーはケリーの生み出した拘束をたやすく凌駕していた。
もともと魔法を無力化、または弱体化する力場のせいで大幅に強度が落ちていたこともあったが。
「チッ!何してんだよ、リーダー・・・!!」
「ロ、ロンナー・・・お前・・・」
「もともとこいつを無力化するのは俺の役割なんだ。だから・・・!」
「ロンナー、やめなさい!!」
ロンナーがすかさず飛び出していたらしく、ケリーをかばってやつの電撃をまともに受ける。
それは誰が見ても明らかな致命傷だった。
「へへ・・・俺と電撃で勝負するなんざ・・・百年はええんだよ!このクソ野郎が!」
やつに抱き着くようにして肉薄し、電撃を流す。
しかし、そこは特に分厚い胴体装甲。
「ぐぅああああああああああ!!ま・・・負けるかよ、クソやろおおおおおお!!」
ロンナーの捨て身の一撃もよほど高性能の絶縁処理が施されていたのか、全く奴に聞いている様子はない。
『|お前を抹消する(Exclude)』
「っ!!」
自身の身さえも焼く電撃に加えて、やつの放ったレーザー光線がロンナーを打ち抜く。
「ぐぅ・・・がぁ・・・あああ・・・ま、まけ・・・る・・・」
『|お前を抹消する(Exclude)』
とどめの一撃とばかりに心臓を打ち抜かれ、崩れ落ちる。
・・・この次に待っているのは。
『お前をアップグレードする』
大型の鋸を取り出し、ロンナーの頭部を切り裂き、脳を取り出そうとする。
「させるかよ!!」
すかさず、ケリーが飛びつき後頭部に電撃を流す。
『ビ・・・ビビビ・・・オ・・・オマ、オマエヲ抹消・・・抹消』
「あばよ、ガラクタ!」
最後にひときわ強烈な電撃魔法を流し込み、やつは倒れる。
・・・おそらく大半の回路は焼き切れただろう。
しかし、この状況を報告するため通信回路だけは最優先で保護されているから無事なはずだ。
「ロンナー!」
「・・・無駄よ。頭の大半が切り裂かれてる。ただでさえ全身大やけどに加えて心臓まで打ち抜かれているのに・・・」
「カ・・・はっ・・・ア・・・リシ・・・」
「!?ロンナー、しゃべらないで!ロンナー、しっかりして!」
あんな状況でも生きている。
それを喜ばしいと思うか、悲惨だと思うか。
「・・・ロンナー、お前のおかげでやつらを倒すことができた。・・・基地に帰ったらお前は英雄さ」
「・・・そう・・・か・・・はっ・・・」
「ロンナー!・・・ロン・・・ナー・・・?ねえ、うそでしょ?ロンナー!ロンナー!!」
最後はとてもあっけなかった。
ロンナーの死もやつらの無力化も。
ロンナーは別れの言葉を言う前に死んだ。
しかし、彼は紛れもなく英雄だった。
アリシアは仲間が死んだ事実を認めたくないのか、必死にロンナーに治癒魔法を使っていた。
「・・・無駄だ。死んでしまっては治癒能力を促進するその魔法じゃ・・・」
「・・・何も言わないで。それぐらいわかってるから」
「それなら・・・!」
「ケリー。そっとしてあげましょう。もうやつらの武装解除は済ませて、リーダーも無力化してある。・・・私たちの勝ちよ」
あとで知ったことなのだが、ロンナーとアリシアは付き合っていたらしい。
結婚話なんて逆立ちしても出ないほどの中だったらしいが、それでも互いに愛し合っていた。
だから、愛する人を失った悲しみを・・・それも目の前でこんな悲惨に死んでいった悲しみをアリシアは受け止める術を知らなかったのだ。
え?サイOーマンだって?
そんなの知らないなハッハッハ・・・。