スーパーハイパーウルトラエクストリームダンサー
「ケリーから話は聞いたと思うが、君をやつらに渡すわけにはいかないんだ」
「あー、質問」
「なんだい?」
「そのー、やつらとか言ってるけどなんか戦ってんの?敵なのは分かるけどそもそもなんなのよ」
さっきも魔法と科学がどーのこーの。
圧迫されているだのなんだのとよくわからない。
「そうか、ケリー・・・さては面倒くさがって説明していないな?」
「時間がなかったんですよ。安全第一ですし」
そういって肩をすくめているが、私は知っている。
説明がかなり雑だったのを知っている。
たぶん本当に面倒だったのだろう。
「では、改めて説明すると・・・我々は一般的に魔法使いというものでね。何もないところから火を出したり、極端な例でいうと爆弾なんかに頼らなくても大爆発の嵐を起こしたりもできる」
私の知っている魔法とそのへんはだいたい同じなようだ。
中世よろしく人形に針をブスブスさしたり、水に沈めて溺死させたりとかいうのが魔法と言われても反応に困るし。
まずそんな陰険な連中と一緒にいたくない。
「魔法がこの世界にやってきた起源はさすがに説明しただろうから省くが・・・」
ケリーの反応をうかがっているらしく、チラ見したがケリーは涼しい顔で口笛を吹き始める。
あれじゃあ説明していないと思われるだろうに。
あいつバカだな。
「そのあとは科学者たちは未知の魔法についてすさまじい興味を示した。それこそ非人道的なことをするのも戸惑わないほどにね。それに私たち魔法使いが抵抗すると科学者たちは魔法を迫害し始めた。・・・所詮科学が正義の世界だ。魔法なんて異質のものを受け入れることはそもそも不可能だったのだろうな」
「でも、私がとらえられていたところには魔法使いもいたらしいわよ」
結界がどーのこーのいってたし。
そもそも魔法使いと魔術師が違うものなのかもしれないけど。
「それは科学者たちの側についたものたちさ。彼らは魔法使いとしての誇りを捨てた裏切り者さ」
やっぱりそういうやつもいるのね。
ていうか、誇りとかよりまず命だと思うけど。
「魔法使いは確かに脅威ではあるが、科学者たちの開発した対魔法兵器の前には我々は無力に等しい。しかし、そこに君というジョーカーが加わったらどうなるだろうか。戦況は瞬く間に大逆転、我々魔法使いは科学者たちとの戦いに勝利する!」
「あー・・・盛り上がってるところ悪いけどさ」
「なんだ?」
そこでケリーが割り込んでくる。
何か衝撃の事実でも入っていたのだろうか。
ちなみに私は色が隣り合わないように配置するゲームをやりながら聞いていたから若干聞きそびれているところもある。
「こいつは魔法を使えない。そもそも戦う意思があるとすら思えないんだがな」
「・・・そうだな。処刑者、君に頼みがあるんだが」
「言っとくけど、わたしは戦いってのはあんまり好きじゃないの。見るのもそうだけど、参加するのはもっと嫌い。私を戦力に数えるのはやめておいたほうがいいわ」
「しかし、君は命を狙われている。直に君の存在が科学者たちに知れ渡るだろう。その間に私たちから贈り物をしたいんだ。それをどう使うかは君の自由だ」
確かに魔法に興味はある。
使ってみたら楽しいんだろうな、とは思うがそれが原因で戦いに巻き込まれるのは嫌だ。
そもそも、私には記憶がない。
だからまずはその記憶を取り戻すのが先決だろうに。
「私は記憶探しの旅をしたいの。これでも記憶喪失だしね・・・でも、何らかの身を守る手段は必要になるんでしょ?あんまり気分が乗らないことではあるんだけども・・・仕方ないか」
「助かるよ。では、ケリー。彼女をエテラーレのところへ連れて行ってくれ」
「はいはい、わかりましたよ」
そのエテラーレというのが私に魔法だかなんだかを教えてくれるのだろうか。
ぶっちゃけると、かなり楽しみなのでなんだかわくわくしてきた。
「・・・ってわけなんですよ」
「オーケー。みんな混乱してると思うからちょっとそこのホワイトボード借りるわね」
で、例のごとく今の状況をまとめるとこうなる。
・まず、私はそのエテラーレという魔法に超絶スーパーハイパーウルトラエクストリーム詳しい人のところに連れていかれた。
・いろいろ魔法に関する講義を受けた。
・魔力とか魔法の発動概念とかその他いろいろに関するクッソ長くてつまらないことだったので省略した。
「軽く今までの内容をまとめますと魔力というのは人間が誰しもが持つ生命としての力のことです。魔力の量や質などは人によってさまざまです。なので、魔法に関しても一概にこれはこう、と断言することはできないんです」
「えーと、それは魔法は発動者の魔力に強く依存するからなんだっけ?」
「はい。ですから、魔法使いにも得意不得意や、絶対に使えない魔法もあります」
いろいろ不便なのね。
私の知ってるのはその辺の店で魔導書買って読んだら勝手に魔法を覚えてたりしてたのに。
「あなたの魔力を計測してみたところ量も質も最高クラスでした。・・・あなたがこの戦いの切り札と呼ばれている理由がなんとなくですがわかった気がします」
あ、私ってそんなすごいんだ。
適当に言ってたのに・・・これが主人公補正ってやつか。
「ですが、発動できる魔法が大きく制限されていますね。これでは宝の持ち腐れです・・・」
うわ、なにそれひっど。
誰だよそんなことにしたやつ。
「使えるのは基本的な加速と射出、あとは応用性の高い作成ですね」
「その作成ってのがいまいちわからないのよね。感覚的には分かるんだけどどうなってるのかしら?」
手のひらに少しばかりの金塊を生み出してみる。
これで私も大金持ち・・・なんだけど、どうも使う気になれないのよね。
なんかこういうのって後で痛い目見るのが定番じゃない。
「自分の魔力をそのまま物質に変換しているんです。あなたの魔力量なら全く問題ないでしょうが、使いすぎると命にかかわるといわれています」
「うっそマジ!?」
それって超危険じゃん。
これ使わないほうがいいかな。
「あくまで、魔力が枯渇するほど使ったら、という意味です。あなたの魔力の質は魔法の発動に最適で、少量の魔力で十分な魔法を使うことができます。くわえて、それだけ莫大な魔力量があるなら丸一日魔法を使っても全く問題ないでしょうね」
「へー、私スゲー」
って言われても、そんなこと言われたら使う気もうせるんだけど・・・。
・・・使うの控えよ。
「それで、処刑者。魔法は使えるようになったのかな?」
「なんか杭作ってどっかんばっこんできるようになったわ」
やろうと思えばマシンガン的なこともできるっぽい。
どちらかというとバリスタ砲に近いんだけど。
「ほう、それは面白いな。聞いたところだとかなり広範囲に対して攻撃可能だと聞いたが」
「杭を高速で作成、加速して射出っていうのを繰り返してるんだっけ。で、さらにそれと同じことを別の場所でもやってるのかな」
「面白い・・・。では参考程度に魔法使いの間での強さに関する呼び名について話しておこうか」
なにそれ。
二つ名的な奴?
めっちゃカッコいいんだけど。
「一人で百人に相当する魔法使いを一般的に大魔導士、千人で魔王、一万人で魔神と呼んでいる。君の魔法は下手をすると大魔導士に匹敵するのかもしれないな」
「あ、もう一つあるのよ」
かなり地味ではあるんだけど、こっちもなかなかカッコいいと思うのよね。
「これ、こうやって攻撃的な概念を武器にするの」
「ほう・・・概念武装か」
そういえば、エテラーレもそういってたような。
これは作成系統の魔法の基本ではあるらしい。
十分カッコいいと思うんだけどな。
「その魔法は君が言った通り発動者の攻撃的な概念を形にするものだ。だから人によって武器の種類が異なるらしい」
私の場合は剣・・・っていうより、なんかいろいろごちゃごちゃしてるわね。
鋸と剣を足して二で割ったような感じで、刃にぎざぎざがついている。
・・・微妙にかっこ悪い。
「随分と君の概念はいたそうだな。君を敵に回さないで正解だったようだ」
「・・・もしかして、私を捕らえようとかおもってた?」
「まあ・・・この基地内での自由は保障するが、外に出す気はなかった」
そういえば最初軟禁とか言ってたしね。
ちなみになんだかんだであれから結構時間がたっている。
私があの場所から脱出してから二週間、この基地についてからは五日経っている。
「そういえば、君は記憶喪失だったかな。名前は本当に覚えていないのか?」
「覚えていたのは自分の好みだけ。それも音楽とワイン、食事とか・・・そんなぐらいよ」
前の生活風景とかはある程度過ごしていたらわかるのだが・・・以前自分がいつどこで何をしていたのかなどは全く分からない。以前の自分を知る人ともあったことはない。
ケリーは私は別の次元から来たともいう。
それはたぶんあっているのだろうが、そうなるとなおさら以前の自分を知る人はいないだろう。
今まであってきた人がほとんどこの基地の中だけというのもあるが、別次元からやってきた・・・しかも、無数にある次元の中から私と同じ次元からやってきた人と会えるとも思えない。
正直思いだすことはあきらめかけている。
「それは災難だったな。直に思い出すことを願っているよ」
「それはどうも」
「さて、話は変わるが」
仕切り直し、って感じかしら。
あと、さっきから後ろで携帯ゲームやってるやつらがいるんだけど。
ちなみに、さっきからレベル上げダンジョンを周回機能で回してる。
「例の基地が突然壊滅したそうだ」
「例の基地?」
「お前がとらわれていた基地だよ。偵察に行かせていた魔法使いが中はほぼ全滅状態だと数時間前報告された」
ここに来る道中、追手の集団を何度か見かけた。
一度、見つかり危うく捕まりそうにもなった。
それが、この基地に来る直前になると全く追っ手を見かけなくなった。
最初は罠か、と私たちも警戒したがそれらしい気配もなく結局ここに来たというわけだ。
もし、そのときに例の基地が襲撃を受けていたとしたら私たちを追うどころではないだろう。
そうすると、少なくとも何日かは経っていることになる。
「で、それに関する調査を行おうと思う。もちろん処刑者、君も同行してもらう」
「えー」
「ここにいる大半の戦力を集中させるんだ。必然的に個々の防衛力は落ちてしまうから、ここに残るよりはお前も一緒に来たほうがかえって安全ってわけさ」
・・・携帯ゲームやりながら言われても説得力ないんだけど。
「あー、はいはい!わかりましたよ!」
「その言葉を待っていた。出発は明日の早朝だ。ちゃんと準備をしておけよ」
このあと、結構な間処刑者はほとんど魔法を使わない予定です。