変異
『今こそ私は約束を果たす』
すると私の脳の入っている試験管みたいな・・・ていうか、もうチューブが淡く輝きだす。それと少し遅れて脇にある三本のチューブも輝きだす。
「・・・何をする気」
『クク・・・蘇生さ。私の家族たちは適合しなかったようでね、今ではほぼ死人と変わらない植物人間さ。見たまえ!』
チューブの前面に裂け目が入り、左右に開いていく。
中にはやはりシルビア・・・いや、シルビアの面影を残した何かがいた。
「ひどい・・・」
『・・・』
見るも痛々しい電極やコード類などごちゃごちゃと機械をつけられ、もはや地肌が露出しているところなどごくわずかだ。
『さあ、シルビアよ!もう一度私に微笑みかけてくれ!その女神の微笑みを私に・・・!!』
今度はオービットの開いた胸の接続部からコードが伸び、シルビアの入っているチューブから伸びた計器類と接続した。
この方法は・・・。
「自分の命を削ってまで妻を復活なんて泣かせてくれるじゃない」
『クク・・・なんとでもいうがいい。オービット1!』
するとどこからか最初のほうに出会ったロボットのような奴が現れる。
『何の御用でしょうか』
そのロボットが手に持っていたパネルに文字が表示される。
もしかしてこいつ。
『見たまえ。私の意識を複製し転送したのだ。天才たる私のすべてを引き継いだ最強のロボット軍団を作るためのまずは第一歩というわけだ』
「何・・・」
『妻を、いや家族を復活させたら今度は誰にも命令されない私たちだけの帝国を築く。そのためには強力な軍隊が必要だ。・・・そのための戦力というわけだよ』
どこまでもふざけた真似を。
もしその軍隊が完成していたとしたら非常に厄介なことになる。
さすがに武器とも言えないこのドライバーだけではどうにもならない。
ちなみに魔法は再生した段階で体質が変わったのか使えなくなっている。・・・いや、本当にあれ便利だったのに何で前の私は使わなかったんだろ。
『オービット1!こいつを抹殺しろ』
『わかりました』
オービット1とか呼ばれたそのロボットはサーベルを取り出す。
幸いアームは既にドライバーの分子カッター機能を使って切り離している。ので、身動きは自由だが・・・そんなに運動苦手なのよね。
「あ、もしかしてあなたあの時のオービット?」
『あの時とはどの時ですか』
オービット1と呼ばれたロボットはパネルで会話をしていた。
ここに入る前のオービット、つまり探査機の外部からコンタクトを取ろうと私が試みていた相手もオービットで同じくパネルで会話をしている。
こいつは確か一応いくつかの質問には答えていた。現に今も答えている。
きっとさして重要ではない質問なら答えてくれるのだろう。もちろん上位命令となるオービット本人からの命令があれば別だろうが今はシルビアの蘇生に集中しているのかこちらには意識を向けていない。
「えーと・・・そうね、いつか覚えてないのよ。あなたはどう?」
『・・・私も覚えていません』
オービット1は質問が終わったとみなしたのかすぐにこちらに向かってくる。
これ途切れなく質問を浴びせないといけないのか。
「えーとえーと・・・そうだ!円周率!円周率πの値を数値化しなさい」
『計算中…』
人類では円周率は無限に続くものだと信じられていた。
なら、無限に時間を稼ぐことができるというわけだ。つまり、こいつの動きはオービットが上位命令を下さない限り封じることができる。
『計算中…計算中…』
ちなみに人類の学問とは根本的に異なる別の惑星の計算方法を用いると割と簡単に求めることができる。100世紀にはそれが宇宙全体の標準的な学問として扱われている。100世紀当時に残っているすべての学問においてその学問が最も真理に近いという結論に至ったのだ。
・・・ちなみに私の故郷のは既に残っていないため議題にすら上らなかった。ていうか、伝説扱いされてる。存在すらも疑われている始末だ。
『あ…』
『お、おお・・・おお!シ、シルビア・・・!!』
「チッ、もう終わったのか」
さすが私の脳を使っただけあってなかなか早い。
さすが私の・・・って今はそれどころじゃない。
「オービット、強化人間の適合に失敗した人間には激痛が伴う。脳が焼け死んでいくのを生きながら感じるといわれている。・・・そのまま死なせてやりなさい」
『黙れ・・・。これで成功すれば私の研究結果が証明され・・・人類で初の死人をよみがえらせた男に私はなれるのだ!』
どこまでも腐ったか。
やはり最低の男だ。
「恥を知りなさいこの・・・!」
『う・・・オ、オー・・・ビット・・・?』
『シルビア!』
その時シルビアが目覚めたのかオービットの名前を呼ぶ。
・・・だが、この方法では脳が焼け死ぬ。
生きながらその苦痛を味わわなければならないのだ。それはまさに生き地獄でしかない。
『オー・・・ビット・・・』
『シルビア・・・』
オービットは接続されていた配線が一か所に集まったおそらくこの探査機のメインコンピューターと思わしき台座から立ち上がる。そのとき、パーツを切り離すようにしていたのでおそらく今まで本当にメインコンピューターとつながっていたのだろう。
『シルビア・・・私はついに成し遂げたのだ』
『オービット・・・私・・・ぁ…』
シルビアは最初機会にまみれながらも確かに微笑みを浮かべていた。
しかし、その時が来たのだろう。不意に苦しみだした。
『ぁぁぁぁあああああああああああああああああ!!!!』
やはりシルビアの声も機械のせいでゆがんでいたため、およそ人間が出すものではないまさに怪物のような声となっていた。
オービット1はまだ円周率を計算しているのか身動きするそぶりはない。今なら逃げれるが・・・そうなったらこの後オービットがどんな狂行に出るかわからない。
・・・ここで止めなくてはならない。
『オービット・・・よくも・・・よくもぉぉぉぉぉぉ!!!』
『シ、シルビア!こうなればアレを使うしか・・・』
オービットは壁の一部に手を伸ばす。
するとその部分がスライドしてその中から注射器のようなものが出てくる。
あれは何だろうか。
『シルビア・・・これで・・・』
『オービットォ・・・オービットォ・・・!!!』
オービットが注射器の中身をシルビアに注入すると一時的にシルビアの動きが弱まっていった。
しかし次の瞬間には肉が膨れ上がり、体に張り付いた機会を吹き飛ばしたりちぎったりしながらどんどん肥大化していく。
最終的にはなかなかの広さを誇るこの部屋の天井に届きそうなほど巨大になっていた。
「何をしたの!?」
『遺伝子変異剤さ。この状況に適応できる体に変異させたのだ』
なんて無茶なことを・・・。
脳が破壊されている最中に強引に体を作り変えなんてしたら脳がなくても動ける肉人形ができるだけだ。現に膨れ上がった肉でできたシルビアは既に人間の姿からは大きく逸脱している。
『うぅぅぅぅぅぅぅぐぅぅぅぅぅぅぅ!!』
あとは遺伝子に刻まれた本能の通りに動くだけだ。
すなわち無差別に食い、ひたすら子を残し、あとはただ死ぬだけだ。
当然今も変異は続いている。脳の破壊を防ごうと、それに順応しようとしている。しかしそれに順応することはない。
ただひたすら肉体の崩壊と再生を繰り返すだけだ。
あとは時期に全身の細胞が悲鳴を上げて死に至る。
『し、シルビア!何をする!?』
『ぐぅぅぅぅぅぅ・・・・・・』
・・・どうやら『食事』の時間のようだ。
だが、これは自業自得だ。
自分がまいた罪なら自分で受けてもらう。それに・・・。
『ぐぁぁああああああああ!!』
それに、もう助からないだろう。
なんでこうも気色悪いゲテモノばっかなんですかnオロロロロロロロ・・・。




