天使の覚醒
「ク、クラリスさん・・・」
天使が最終プロトコルというのへと移行を完了したらしい。
それと同時に天使たちが倒れる。
「接続が完全に途切れている。・・・まさか」
まさか思念リンク上のすべての天使の力をあの一体に集約したというの?
・・・そんなことして耐えれるはずないじゃない!
『天使に祝福を』
突如携帯電話から機械的な音声が流れてくる。
どうなってんのよ。
「それどうしたんですか?」
「念のためもらっておいたの、でもなんかおかしいのよねー・・・」
携帯電話自体には何の細工もされていない。
となると・・・。
「ああ、これか」
回線の一か所に不自然な点を見つける。
なんでこんな場所経由してんのよ。
しかも、そこから催眠術に似たもの信号が出されてるし。
「すべての携帯電話の回線がいったんある一つの場所に集約されてるの。そこで携帯電話にある一つの暗示を載せているの」
「暗示・・・。でもそれとこれと何の関係が?」
おおありよ。
まず、携帯電話を持つ人数は・・・まあ、具体的な数はわからないけど相当な人数なのは間違いない。その人数を携帯電話に載せた信号を利用して一時的なトランス状態にする。
そうして、空白になった精神を思念リンクと同じ要領でつなぎ、人々の思考をある一か所へと送る。その送り先がこの場所・・・いや、あの天使になっている。
「で、でもそんなことしたらパンクするんじゃ」
「たった一つの感情を送るぐらいなら別にどうってことないわ。まあ、媒体となった携帯電話は死ぬでしょうけど」
おそらく、その強い感情を餌としているのだろう。
ここから先は魔法的な要素になるため、私にはよくわからないけども。
「ねえ、人間の祝福の意思って儀式に使う場面ある?」
「祝福・・・ですか?それならいくつか」
やっぱりそうか。
何億何十億という人々の祝福の意思を利用して、儀式を行うつもりなのだろう。
けど、それが天使にとってどんな力になるのかがわからない。
「まず、祝福の意思というのは天界から天使を呼び寄せるのに必要な条件です。その数が多ければ多いほどより高位の天使を呼び寄せることができるとされています」
「じゃあ、何億って祝福の意思があったらどうなるの?」
「そうですね・・・最上位の天使どころか下手な神さえも呼び寄せることができると思います。・・・これって」
「おそらく敵さんがやったのはそれね。・・・まったくご苦労なことよ」
その瞬間、館から一本の光の柱が現れる。
・・・おそらく出どころはあいつ。
『これより最終プロトコル全世界への粛清を開始します』
やっぱりあいつか。
見るからに先ほどとは違う圧倒的な力、そしてその身にまとった神々しい気配。
あいつだけ神話の中から抜け出してきたといわれても納得するぐらいだ。
『対象を確認。粛清を開始します』
「・・・『封鎖結界展開』」
「ミゼル・・・?あんた何してんのよ、あれは絶対受け止めれないって!ただでさえ別格だったのに最上位の天使かそれ以上の力を身に着けてんのよ!?」
「『虚空結界展開』『封神結界展開』」
三つの結界を張るミゼル。
おそらく、本気で受け止めるということなのだろう。
「このまま逃げてもいずれ殺されます。それなら耐えて見せます・・・!」
「無茶よ、そんなので防げるわけないじゃない!」
魔法に詳しくはないものの明らかにあれは無理だとわかる。
それほどまでに力が集まっている。そして、濃縮されている。
「私には守ることしかできません。・・・だから守らせてください」
ミゼルの結界に天使の放った槍がぶつかる。
最初は耐えているが、次第に一枚、また一枚と割れていく。
『対象、破壊できず。第二段階へと移行します』
天使の背後に槍が次々と現れる。
その数10や100ではきかない。おそらく、1000は超える。
『無限錬成』
「っ・・・!」
100を超える槍がミゼルの結界に突き刺さる。
とうとう結界は最後の一枚になってしまった。
「ぐぅっ・・・!っ・・・」
「ミゼル・・・!」
ついに結界が破壊される。
槍はそのままミゼルに・・・。
・・・仕方ないか。
屋上から異様な魔力の気配を感じる。これはもはや大天使クラスだ。
屋上へと続く廊下への扉は閉鎖されていた。
・・・時間がない、強行突破させてもらう。
「業火よ、すべての敵を焼き払え『フレイムエクスプロージョン』!」
扉を魔法で吹き飛ばす。
あたりに天使の気配はない。
さっきまではこの館全域が先ほどまで天使の気配しかなかったが、いまはそれすらない。まさに静まり返っている。
・・・何が起きた?
ついに屋上に到達する。
上空には一体の天使。・・・最初に見たあいつだ。異様な魔力の正体もあいつらしい。
そして、信じられない数の槍を射出している。概念魔法による武器の生産、そしてそれを加速して射出しているのか。
槍の向かった先には結界。結構耐えているようだが、ひび割れていて破壊されるのは時間の問題だ。
「・・・クラリス!」
あいつ何してんだよ!
このままじゃ、あの天使に殺される。それだけは避けないと・・・。
「クソッ!」
急いで、結界に駆け寄る。
そういえば、送信機を破壊するとか言っていたが送信機はいまだ健在だ。おそらく、破壊しようとしたらあいつがやってきたのだろう。
そんなことを考えているうちに、結界が破壊される。
「あ・・・」
結界の術者をかばおうとしたのだろう。
クラリスが術者の前に立って槍を受ける。
「ぐ・・・ふっ・・・」
槍を自分の体ですべて受け切り、そのまま地面に倒れる。
といっても、槍にささえられ地面に倒れ伏したわけではないが。
「クラ・・・リス・・・」
・・・畜生。
俺たちの希望が・・・唯一の対抗策が・・・。
『彼女はこの状況をひっくり返せるだけの武器の鍵を握っている』
俺はその鍵を殺してしまった。
もう・・・俺たちに希望はない。
「ミゼ・・・ル、無事だった?」
「は、はい・・・」
「どけ!クソッ!こんなところで死なせるかよ・・・」
すぐに回復促進魔法をかける。
・・・即時回復が使えていたら助かったのに!
クソッ!
「・・・魔法って温かいのね」
「バカが・・・なんでかばったんだよ」
「単なる恩返しよ。どーせあのままだと二人とも死んでた。死人が半分になるって・・・素敵なことじゃない」
お前が死んだら意味ねーんだよ・・・。
お前には大事な役割があるんだよ!
「そう必死な顔しないでさ・・・。最後に一つ頼まれてほしいんだけど・・・」
「・・・なんだよ」
何が最後だふざけやがって。
お前をこんなところで死ねせるかよ。お前には生きてもらわなくちゃ困るんだ。
「これを・・・あの送信機に向かって・・・」
そういって、いつも愛用しているドライバーを渡してくる。
・・・命の次に大事なものって言ってたじゃねーかよ。そんなもの渡してくるなよ・・・。
「その緑のボタンを押すだけで作動するようになっている。それであの天使・・・」
「・・・おい、回復魔法は使えるか?」
「え、えと・・・結界術を応用したものなら」
「なんでもいい、俺があの天使を倒してくるからお前はそいつの命をつないどけ」
とにかく、クラリスを一刻も早く治療しなくてはならない。
そのためにはあの天使を倒さないといけない。
そして、クラリスは天使を倒す方法を思いついたようだ。
それを俺に託した。
「上等だっての」
『対象の粛清を確認。残り個体数2体。直ちに粛清を開始します』
粛清・・・ねえ・・・。
俺としては科学なんかに身を売ったお前らを粛清してやりたいよ。
「『身体強化』」
あまりやりたくなかったが、あの天使の猛攻をかいくぐるためには必要なことだ。
「『反応強化』『思考速度強化』『耐性強化』」
今できるすべての強化系魔法を自分にかける。
・・・こりゃあ、明日は動けねーな。
「行くぞ、天使!」
踏み込んで、一気に加速する。
それと同時に、右わきを天使の槍がかすめる。かと思えば、正面にもまた槍。
「おせーんだよ!」
飛んでくる槍の下をかいくぐって、さらに天使との距離を詰める。まあ、目的はあの送信機だが。
『対象の脅威を確認。第三段階へ移行します』
今度は天使の羽が二枚から八枚に増える。・・・正真正銘大天使ってか。
それに伴い、槍の速度や質も急激に増加する。
だが、なんとかついていける。
『時空支配」
今度はこちらの速度が低下される。面倒くさい魔法を使いやがる。
「『法則切断』」
クリスタルに残ったすべての魔力を使い切り、魔法を発動させる。こいつなら、あの面倒くさい魔法の効果を受けない。
もっとも発動できて十数秒だが、それだけあれば十分だ。
「よし、こいつで・・・!」
『対象の脅威を確認。最終段階へ移行します』
「今更おせーんだよ」
やるなら出し惜しみなんてせずに最初からやってろ。
クラリスに言われた通り、ドライバーを送信機に向けて緑のボタンを押す。・・・特に何も起こらないんだが。
『・・・!?拒絶を確認。パワー低下中』
天使の力がみるみる下がっていく。
・・・あいつ何しやがったんだ。




