天使の降臨
例の場所には彼女の友達がいた。
彼女から自分が死んだとき遺体を回収するよう言われていたらしい。
何かしらの罠かとも思ったが、どうやら本当に知り合いのようだ。
彼女のサイコペーパーの裏側に渡すよう書いてあった。
「・・・彼の名前はロイス・グレイというらしいわ。気の毒な役割よね」
「そうだな・・・だが、これでこの街は平和になった。尊い犠牲の一つなんだ、仕方ないさ」
犠牲・・・。
そんなものが尊いというのだろうか。
命を投げ捨てるのにはやはり反対だ。
なんというか・・・気に食わない。
「さて・・・次はパーティーの招待が来てるんでね・・・。それに参加しようと思う」
「あら?随分と楽しそうなことしてくれるじゃない」
パーティーといえばやはり、楽しい音楽が必要だろう。
ジャズにしようか、それとも上品にクラシックにしようか。
「何か音楽を持ってかないといけないわね。ジャズとクラシック、どっちがいいかしら?」
「クラシックが無難だろうな。下手に前衛的なジャズを選ぼうものなら品を疑われかねない」
それもそうね。
「で、その招いた人ってのはどんな人なの?」
「魔法協会って覚えてるか」
「あー、確か・・・魔王以上で構成された魔法使い全体を統治する組織だっけ?」
魔王といえば、一人で千人の魔法使いと同等の力があるという。
ちなみに私も持っている大魔導士の称号を与えられた魔法使いは一人で百人の魔法使いと同等の力があるらしい。
・・・もっとも、百対一をするのはごめんだけれども。
「そうだ。そして、その構成メンバーの一人だ。失礼のないようにな」
となると、相手は魔王というわけか。
・・・もってく曲が決まったわ。ちょうどぴったりのがあるし。
「ようこそ、大魔導士のコンビよ。心より歓迎するぞ」
「こちらこそ。お会いできて光栄です魔王バラレー」
どうやらこの爺さんはバラレーというらしい。
確かに来ている魔法使いっぽいローブにも豪華な装飾がしてある。
年齢とも相まってザ・魔法使いって感じだ。
「魔王バラレー、大魔導士クラリス・ジュリエットです。以後お見知りおきを」
ケリーがビビった顔しているけど、普通にこれぐらいできるからな。
なめんなよな。
「そうかそうか。今日は無礼講だ、心行くまで楽しんでくれ」
「だそうだ。とりあえず料理に手でもつけてみるか?」
「それもそうね。・・・?」
不意に会場の端に帽子を目深にかぶった男を見つける。
・・・なんだか一人だけ場違いな感じだ。
「・・・うっ・・・!?」
「ケリー、あいつ・・・」
「・・・ああ」
いきなり男が倒れたので、駆け寄ってみる。
男の顔は顔面蒼白・・・というより、色がそのままごっそり抜け落ちたような感じだった。
「・・・全身の色素が抜かれている。よくこんなんでさっきまで生きてられたわね」
「アルビノとは違うのか?」
「あれは先天的なもの。こっちは明らかに人為的に抜かれている」
「そんなことが可能なのか?」
「できるかできないかといえば、できるわ。ただ、莫大な電力や設備、近年まれにみる幸運などさまざまな不確定要素が混じってようやく実現できるかどうかってとこだけど」
「・・・つまり、不可能に近いと?」
「現在ある技術ではね。ただ、物事に始めというのは必ずある。誰かが全く新しい技術を開発したのかも」
「ただ、このあたりにそんな莫大な設備は見つかっていない。地下のケーブルの存在も疑ってみたけどもあるのは、ガスや水を送るものばかり。それに、この館に電気を使ったものは一つもない」
「そりゃそうだ。ここは魔王の館だぞ。立場上科学なんかに頼るわけにはいかないだろうさ」
それもそうだけど・・・。
となると、受信機の類の存在も疑うべきだろうか。
「・・・あら?受信機はあるみたいだけど?」
位置的には・・・屋上ね。
電気を使う道具もないのに受信機だけある。
随分と変な館ね。
「ちょっと屋上を見てくるわ。適当に足止めしといて」
「は?そんな危険な場所にお前ひとりだけ置いていけるかよ。こっちはお前に何かあったら上がうっさいんだよ」
まあ、いっか。
なんだかんだでいろいろお世話になるし。
「バラレー様、準備が完了しました」
「そうか。被検体の調子はどうだ」
「ピュア粒子に適合しています。天使化も順調に進行しています」
「・・・先ほど被検体の一人が脱走して、パーティ会場に紛れ込んだ。少し早いが計画を実行に移す時が来たようだ、即座に実行しろ」
「・・・ハッ」
「随分とバカデカい受信機ね。・・・それもすごく遠くから受信してる」
「おまけに高度な隠蔽魔法がかけられていた。並みの人間では触れない限り存在に気付くことはないだろうよ」
ここまで隠したいって何やってんのよ。
立場上こんなものが屋根に突き刺さっているのを隠したいのは分かるけど、それならこんなに人を招く意味も分からない。
「・・・なんだか中の様子がおかしい」
「どういうこと?」
「なんというか・・・逃げている」
逃げている?
おそらく遠視魔法の類で見ているのだろう。
私には見えないので何が起こっているのかはわからない。
「何からよ」
「妨害されて見えない」
「それなら直接確認しに行くわ」
「ダメだ!遠視魔法を妨害できるってことは相当の手練れだ。最低でも魔王の称号は得ていてもおかしくない」
魔王?
「それってつまり、この館の主が招待客全員を襲っているってこと?」
「・・・わからない。だが、この魔力は明らかに人間に許されたものじゃない。化け物といっても過言ではない」
「魔王っていうぐらいなんだからもともと人間離れしてるんじゃない?だって千人の魔法使いと同じ強さを持っているんでしょ?」
「魔力の密度が変わるだけで、魔力自体の質は変わらない。こんなの明らかに人間のものじゃない・・・!」
「私ああいうのなんて言うか知ってる」
「・・・奇遇だな、俺もだ」
「「天使」」
二人同時にハモってしまう。
白い純白の翼に、まとっている神聖な雰囲気。
明らかにあれは天使だ。
「体の一部が機械と融合している。生命維持装置ってところかしら?」
「いや、降臨させた天使を強引に縫いとめているのかもしれない。それも、かなり上位の・・・」
魔法界において、天使というのは儀式によって降臨、一時的に使役することのできる存在らしい。
で、目の前の天使は人と融合したような感じなわけで・・・。
「とりあえず、敵の正体は分かったわけだが・・・天使が相手では分が悪い」
「そうなの?」
「ああ、天使というのは超常の存在で、天使一人で魔神に相当するといわれている。普通、天使への対抗策は天使の存在を維持するために行われている儀式を破壊するか、契約したものを殺すか・・・」
真っ向勝負ではまず勝ち目がないと。
「可能かどうかは分からないが、この受信機を使って得た電力を魔力の代わりにしているのだろう」
「ちょ、ちょっと待って。魔力ってのは生命力と直結しているわけでしょ?電力とは根本的に違うはず」
「だから『可能かどうかは分からないが』なんだよ。この状況でこんな場違いなもの見つけてしまったらそう疑うのが普通だ」
しかし、天使は今も招待客たちを殺している。
こちらも放っておくわけにはいかない。
「・・・ケリー、二手に分かれましょう。あなたは儀式の現場を探し出して、破壊して」
「お前はどうするんだよ」
「私は・・・天使の相手をする」
「・・・無茶だ、天使一人は魔神一人と同じ。真っ向勝負で挑んでいったって返り討ちに会うだけだ」
「けど、あの天使はあの機会に依存しているみたいよ。こいつで妨害してやれば多少は効果があるかも」
倒せなくとも時間稼ぎぐらいはできるでしょうし。
それにこのドライバーは機械や回路といった電機関連においては最強だ。
まあ、やれるだけやってみるとしよう。




