犠牲
「ほら、来たー・・・」
ドアに何かが激しくぶつかる音がする。
「警備員がなんとかしてくれないかしら?」
「たぶん今頃は向かった警備員は全員殺されてる。それよりなんとか時間を稼いで、調整にもう少し時間がかかる」
「どうやってよ!」
「なんか適当に話をしてなさい。あ、例のあんたが作ったもののプレゼンなんてしてたらどう?意外と食いつくかもよ」
「無理に決まってるでしょ!・・・まあ、なんとかするわ」
しかし、どうしたものか。
ドアは鉄でできているもののあまり長く持ちそうにない。
ところどころねじが抜けてきている。
てか、ここの部屋なんの部屋なのよ。
「そういえば、ここって何の部屋なの?当然調べてるんでしょ?」
「敵に勝つにはまず敵を知れ。そのためには・・・ん?ああ、ちょっと待って待って待って!なんなのよこの異常な思念波は!」
「どうしたの?」
何か問題でも起きたのかしら。
今日はたくさん情報がもらえたな。
しかし・・・。
「なんだこいつら」
「言っただろ?最近よく見かけるっていう噂の不審者だよ」
「・・・丸焼けにするのはさすがにまずかったか」
「噂じゃあ奴さんたちは銃で撃たれても死なないらしい。これぐらいがちょうどいいのかもな」
『復活を祝え』
「!?」
まだ生きてんのかよこいつ!
『我らはすべて糧。ひれ伏せ、そして汝の罪を』
・・・首を切り落とされてもまだ生きてんのか。
上位魔法で頭を塵にしてようやく・・・ってとこか。
「さすがは大魔導士様。無詠唱で上位魔法を扱えるとはね・・・。それとも首を切り落とされても死ななかった奴さんのしぶとさをほめるべきか」
「・・・ここまで来たらおまえにも協力してもらうぞ」
「おっと!?ま、死なばもろともだ。仕方ねえ、これが最後の出血大サービスでっせ」
『力ガ集マル・・・。全テヲ私ニ差シ出セ、我ガ眷属タチヨ!!」
「あー・・・これまずいやつだわー・・・。でも・・・マルチパルス完成!|私って天才(I am Genius)!さあ、早く逃げるわよ!」
せかさなくても逃げるっての。
けど、どうやって逃げんのよ。
入口は一つしかないはずなのに。
「どうやって逃げんのよ!」
「あいつの思念波は特定済みよ。少しの間だけなら麻痺させることができる」
「神経系の電気を遮断したら?それって遮断することに関しては私のドライバーより高性能でしょ」
「残念だけど、思念波を体を覆うようにしてバリアにしている。さっきは油断していたから効いたけれども、ほぼ確定でもう効かないわ」
「んじゃ、どうやって動きを止めんのよ。効かないんでしょ?」
「パルスコントローラーで無効にする。その一瞬のスキをついて、ドライバーで無効にするわ。ただ、こんだけ使いまくってたら周波数を特定されるでしょうね。だから本当に一瞬よ。準備はいい?」
扉がそろそろ限界だ。
勝負は一瞬だという。
「合図をしたらドライバーで扉を吹き飛ばして」
「どうやってよ!扉を開けることしかできないわ!」
「あー、もう!ドライバーで空気中の分子で吹き飛ばすのよ!」
なにそれ!?
そんな芸当ができるわけないでしょ!
「できるわけないでしょ!」
「ソフトウェアはSH_0098、周波数は88.9!」
それってただのスタンガンじゃない。
そんなのでできるわけないでしょ。
『いいからやるのよ!』
扉ももうそろそろ限界だ。
こうなれば賭けるしかない。
「さあ、|行くぞ(Andiamo)!」
言われた通りやってみると確かに扉は吹き飛んだ。
しかし、微妙な感じに残ってしまった。
『邪魔ダ・・・!』
「上出来よお利口さん」
即座にコントローラーとドライバーの両方を使って動きを封じさせる。
その隙にゆがんだ扉とエイリアンの股をスライディングで華麗に抜け出る。
『ご協力感謝するわ。・・・あんたのお友達がこの建物の中に入った。あとは私に任せて逃げなさい』
そういったかと思うと、エイリアンが部屋の中へ突撃する。
中では激しい物音がした。
『・・・今私とこいつがいる部屋はいわば時間の檻の中よ。内部から外部へ出ることはできず、内部から外部へ侵入することも不可能。思念波も飛ばすことさえできない』
んじゃあ、あんたのテレパシーはどうやってんのよ!
そんなの嘘だってバレてんのよ。
・・・それにそこにいたらマルチパルスとやらであんたも死ぬんじゃないの?
『ふふ・・・脳が焼き切れたぐらいで死ぬとでも?残念ながら私はしぶといのよ』
「・・・クソッ!!」
『そう怒らないの。まあ、幸いあいつは私を殺したと思っている』
そういえば静かに・・・。
というか、殺したと思い込んでるって・・・!
『ええ、まあ・・・瀕死の重傷ってやつね。まあ、でもそれなら心配ないわ。私の死が確認された瞬間、パルスデバイスが起動して、マルチパルスを発射する。それでホルダーは死ぬわ』
時間の檻だか何だか知らないけど・・・開け方が必ずあるはず!
だって、時間の檻と聞いた瞬間その時間の檻から抜け出したイメージがあふれ出てきているのだから。
『・・・それがあなたの失われた記憶の一部。いい兆候よ、記憶が戻ろうとしている。でも、その記憶通りにはいかない。それをするにはとある装置が必要なんだけど・・・それが今この場にはない。だから脱出は不可能よ』
テレパシーが次第に弱弱しくなっていくのを感じる。
直に死ぬということなのだろう。
『でも大丈夫よ。私とこいつ・・・つまりこの中にいる二人が死ねば、この檻は解除される。いわばこれは緊急措置ってわけ。だから安全が確認されたら解除される』
つまり死ぬってことじゃないの!
・・・どうしてそんな命を投げ捨てようとするのよ。
『投げ捨てる?違うわ・・・生まれ変わるのよ』
・・・こんな時に輪廻転生の話?
・・・短い時間だったけどあんたっていう人間がよく分かったわ。
『ま、好きに解釈してちょうだい。あ、このエイリアンの死体は上位魔法で完全に焼き払って。あと私の死体はこの建物の近くにある物置があるでしょ?その近くに運んでおいて。・・・それが今の私に残された唯一の持ち物だし』
路上に打ち捨てろってこと・・・?
『ま、考えようによってはそうなるわね。・・・なんなら、その近くに埋めてくれてもいいのよ。できれば、放置がいいんだけども』
変わってるのね。
『今更それ言う?』
それもそうか・・・。
もう途切れそうだけど・・・そろそろかしら?
『そうね。楽しかったわ、クラリス。幸運を祈ってる』
そう最後に言い残して、テレパシーが完全に切断される。
その数秒後、時間の檻とやらは解除された。
思ったよりもきれいなものね。
運がよかったのかしら。
八つ裂きとかそういうものを想像していたが、特に目立った外傷はない。
そういえば、記憶を注入しすぎると脳がパンクしてしまうとか言ってたっけ。
・・・きっと苦しかったでしょうね。
「・・・私も楽しかった。できればもっと旅をしたいと思うぐらいに・・・ね」




