支配し、そして君臨する
久々に更新したら総合PVが3万超えてて笑った。
ありがとうございます。
「はあ・・・はあ・・・」
全力で逃げた。
『彼につかまったら終わりだ』
その言葉が頭をぐるぐると回り続ける。
『彼につかまったら終わりだ』
伝えなくては・・・。
ここに住んでいる人や、これからここに住む人、そしてすべての人に。
彼と共に過ごせば人生を変えられる。
無理やりに、そしていびつに。
決して元には戻れないし、過去の自分さえも忘れる。
「はああ・・・はあ・・・」
体力の限界が来たのか、もう走ることができない。
もう少し運動していればこんなことには・・・。
ただの研究員である私がまさか走ることになろうとは・・・。
「リズー・・・こっちにおいでー・・・」
「!?」
彼がやってきたようだ。
『彼につかまったら終わりだ』
彼は徐々に私たちの日常に侵入してくる。
気が付かないうちに人生を壊されるのだ。
私もこれがなければ・・・。
「リズ、探したぞ」
「!?・・・クソッ!」
彼の背後には彼に付き従う三人の同僚がいた。
一人は皮肉屋、あとの二人はカップルだ。
いずれも以前の自分を忘れていて、今や別人だ。
「どうしたんだリズ。さあ、仕事に戻ろうじゃないか」
「・・・あなたは一体何なんだ。私たちをどうしたい!」
「どうって・・・。ひどいなー・・・まるで僕のことを化け物みたいに言うじゃないか」
魔法使いとかそういうものではない。
もっと異質なもの。
根本的に相いれない・・・たとえば悪魔のようなもの。
「『あなたにつかまったら終わりだ』」
「・・・そこまで嫌われちゃったのか。僕が何をした?なあ、一体・・・」
「触るな!」
法則性はわかっている。
触ること、それがスイッチになっている。
逆にいえば触られさえしなければ安全だ。
「仕方ないか。何も僕は君たちに危害を加えようとか思っているわけじゃないさ。生きるためなんだ、わかってくれよリズ」
「私に近づくな・・・早く消えろ!」
隠し持っていた銃を向ける。
こうなったら・・・殺してでも・・・。
「やめろよ、そういうのは・・・。僕を傷つけたら後悔することになるよ」
「・・・どうなるっていうんだよ」
今更脅しのつもりだろうか。
だが、このまま何も変わらなかったらお前に食い殺される。
そんなのは嫌だ。
「さあ、答えてみろ!」
「・・・僕の能力がバレちゃったのは予想外だけど、詳細までは分かってないようで安心したよ」
「何・・・?」
まだ何かあるというのか?
なんだ・・・記憶をたどるんだ、思い出せ・・・。
思い出せ・・・。
「無理だよ。僕が入れた記憶の分、もともとあった君の記憶は抜け落ちる。今回はたまたまその中に僕の能力に関する記憶があったみたいだね」
「いいから答えろ・・・生きるためになぜ人々の記憶を奪う」
「僕が存在しているという証を刻むためさ。それに奪っているんじゃない、あふれ出ちゃっているだけさ」
「なら、すぐ元の記憶を入れなおしなさい・・・早く!」
「無理だよ、君たちの記憶を覗いたけれども全部じゃない。あふれ出た部分を把握できているわけがないじゃないか」
クソッ・・・。
なんて自分勝手な奴・・・。
「・・・さて、そろそろいいかな。悪い子にはお仕置きが必要だってほとんどの記憶にあったしね」
「な、なにをするっていうの!?動かないで、動いたら撃つ!」
急に手を私のほうにむける。
・・・なんだか嫌な予感がする。
「さようならだ、リズ。君とはもっとうまくやっていけると思ったんだけどね」
自分の心の中に彼が侵入してくるのがわかる。
猛烈な不快感、違和感、そして激痛。
彼を払いのけようと必死にもがくが、無理やり押さえつけられる。
私の荒れ狂う感情をものともせずに彼は一つ一つ押さえつけて、別の感情を植え付けていく。
それは『信頼』
絶対的な信頼、そして同時に刻み込まれる彼の存在。
私が私でなくなっていく感覚・・・。
自己の消失というよりも、自己の書き換え。
今までの人生をまるっきり他人の人生とすり替えられたような感覚だ。
しかし、その過程で私は彼の一端を見た。
すべてではなく、ほんの切れ端に過ぎない。
だが、それで十分だった、彼がどういう存在かを知るには十分すぎた。
それを知った時点で私は抵抗をあきらめ、彼にすべてを任せることにした。




