6 可愛いにナンパは付き物
ヤグミ草を探しに草原まで戻ってきた。草原なんだから草は大量に生えている。
黄色や青の花が咲いている野草もたくさんあった。
私は目についた草という草に対して、どんどんプレートをかざして魔力を込めて探していく。
目当てのヤグミ草はすぐに見つかった、よかった……
このプレートに魔力を込めるとMPも消費するみたいだ。
MPはまだ少ないから貴重だしね。その内頑張って増やさないとだね。
ちなみに、小さな黄色い花が咲いている野草がヤグミ草だった。
見渡せばそこら中にたくさん生えている。
ヤグミ草を採取するために、邪魔になりそうなピンクスライムだけ適当に倒しておく。
昨日の今日だから手慣れたものだ。ちょっと筋肉痛が痛むけど。
以前までお金を入れていた袋に採取したヤグミ草をどんどん入れていく。
この調子なら結構簡単に集まりそうだなー。でもこれじゃあ報酬はあんまり期待できないかも。
あ、あれはブルースライムじゃないかな?
視線のさきにはブルースライムを見つけた。昨日とは違う今の私なら、苦戦することなく勝てると思う。
私は思い切ってブルースライムに挑戦することにした。
ブルースライムへと慎重に近づき、気づかれる前に真上からナイフを力いっぱい刺す。
ナイフはあっさりとブルースライムの体に突き刺さり大ダメージを与えた。
そのままブルースライムはHPが0になって力尽きてしまった。
あれ? 思っていたより弱くない?
ふふふ、それとも私が強くなりすぎちゃったのかな!
まあそれはないよね……強くなりすぎるのはこれからの予定だしね。
ヤグミ草採取をすぐに再開する。
それからあまり時間もかかることなく、袋いっぱいになるまで集まった。
よし。これでオーケーだ。早速ギルドに報告に行こうか。
報酬が私を待っているよ。
街まで戻ってきてギルドへ向かおうとした時に、私は城のある方角から歩いてくる数人の人影に気づいた。
私は気になったので目を凝らして見てみた。見覚えのある制服に見覚えのある顔、間違いなくクラスの人間だった。
しかも先頭を歩いているのはクラス委員の魔木蒼一であった。
私が魔木に気付いたころ、魔木も私のことを見つけたみたいだった。
笑顔で大きく手を振って、こちらに近づいてきた。
失敗した……立ち止まって誰かなんて確認するんじゃなかったよ。
「こんにちは、木藤さん。急に1人で旅なんかに出ちゃってみんな心配してたんだよ?」
魔木が本当に心配そうな声で私に声をかけてきた。
「ごめんねー。魔木君たちの足手まといになると思って……」
面倒な相手に捕まっちゃったなー。心配してくれるのはありがたいんだけど、みんなは心配してないと思う。
心配してくれるのは魔木1人くらいだろう。
それに折角1人自由にしていたのに、城に戻ってクラスのみんなと行動するなんて絶対に嫌だよ。
「大丈夫大丈夫! 木藤さんのことは僕たちみんなでちゃんと守るからさ。お城に戻らない?」
「えっと……」
なんて答えようか悩むな。
魔木が良い奴なのは分かっているんだけどね……
「ねえねえ、蒼一君。早く先に進まない? こんなところで油売ってる場合じゃないよ」
「そうだよ蒼一。早く強くなって魔王をぶっ倒してやろうぜ」
他のクラスメイト達(名前は忘れた)が言う。
どうやら他の人は私への興味0みたいだ。でもそれが正しい判断だよね。
「う、うーん。それも……そうだね。じゃあ悪いけど僕たちは急がないといけないから、木藤さんは安全なお城に戻ってるんだよ?」
そう言い残し、魔木たち一行は早足でいってしまった。
なんだ、意外とあっさりいなくなってくれたなー。
最初魔木たちを見た時は、てっきり私を連れ戻しに来たのかと思っちゃった。
あのお節介やきで、(女の子には特に)優しい魔木にしては珍しい。
普段の彼なら私をここに置いていくなんてことしないだろう。たぶん……
彼もこの世界に来たばかりだし、早く魔王を倒して元の世界に戻るために焦っているのかもしれない。
私はこのゲームのような世界を少しずつ気に入り始めている。
別に元の世界にどうしても戻りたいとは思っていないし。
最悪戻れなかったとしても悲しくはない。今のところはね。
いずれは勇者にでもなって強敵なんかと戦うのもいいかなー。
でも、まずは魔法が使えるようになりたい。空飛べたりも出来るのかな?
まあ勇者になれるかどうかはわからないけどね。
ギルドに着き、受付に薬草の詰まった袋を渡す。
「はい、ヤグミ草の採取ご苦労様です。えっと、この量だと報酬はこちらになりますね」
銀貨1枚と銅貨5枚をお姉さんから貰った。
移動時間も考えると時給800円もないか……ちょっと少ないね。
早いとこランクを上げなきゃね。
掲示板にはまだヤグミ草の依頼があったのでそれを受ける。
これをあと何回か繰り返す予定だ。効率はあんまりよくないけど最初は仕方がないかな。
ギルドを出た所で2人組の男に話しかけられる。
「ねえねえ、君昨日からここら辺ウロウロしてるみたいだけど1人? よかったら俺らと一緒に冒険しない? 女の子の1人旅は危ないしさ」
これはナンパなのかな? されたこと無いからわからないけど。
まあ私に仲間なんて必要ないけどね。
「いえ、街の外に仲間が待ってるので大丈夫ですよ。ごめんなさい」
こう言っておけば大丈夫だろう。それよりも依頼依頼!
会釈だけして横を通りすぎる。
「まあそう言わずにさ。仲間って女の子かな? だったらその子も一緒に冒険しようよ」
そう言って腕をつかまれる。しつこい男たちだな。
なんで仲間がいると分かると、女の子と決めつけるのか。もし男だったらこういう時どんな反応するんだろうか。
面倒だし悲鳴でもあげてやろうかなー、と考えていると別の男が近づいてくるのが見えた。
なかなかイケメンの男だった。
「その子が困ってるだろ。君たち手を離してあげなさい」
流石イケメン。行動もかっこいいなー。
「お前には関係ないだろ。あっち行ってろよ」
そう言ってナンパ組が、イケメン男のことを押してどかそうとするが簡単に避けられる。
逆にイケメン男がナンパ組1人の腕をひねって、拘束した。
「痛ててて、わかったよ。大人しくどっか行くから手を離してくれ!」
「これに懲りたら2度と強引に迫らないんだな」
イケメン男にあっさりとやられてしまったよ。ナンパ組いくらなんでも弱すぎるだろー。
あんなので引き下がるのか。もうちょっと粘って欲しかったかもな。
それともイケメン男が特別強いのかな?
「君大丈夫かい? 不運だったね。でも女の子が1人で歩くのは危ないから気をつけなよ? 特に冒険者ならもっと注意して、視野を広げないとね。トラブルは事前に回避できるものは、回避するに越したことはないからね」
「はい。ありがとうございました。これからはよく注意しようと思います。では私は用事があるのでこの辺で」
さあこれでやっと依頼に戻れるね。
さっさと歩き出そうとしたところを呼び止められる。
まだなんかあるの? 私そんなに暇そうに見えるのかな……
「もし良ければなんだけど、僕と一緒に冒険しないかい? さっきみたいなのがまた現れるかもしれないしさ」
イケメン男が照れくさそうに私に言ってきた。
「結構です」
結局こいつもナンパ野郎だった。
いくらイケメンでも、照れくさそうに言ったとしても仲間はいらない。
人に気を使いながら旅なんてしたくないしね。
男を無視して草原へ行き、今日だけで合計5回同じ依頼を繰り返して達成した。
お金もちょっとは稼げたかな!