28 上手な魔法の使い方
起きて身支度を整えると早速、セオルの西にあるスライム草原へと歩いて向かう。
昨日特に苦労することなくCランクに上がることができたけど、今朝起きるまですっかり忘れていた。
セラさんも特に何も言ってくれかったし、もしかして話しに夢中で忘れてたのかな?
道中、自分のプレートを取り出して魔力を少し込めてみる。
プレートにはCという文字が浮かび上がってきた。どうやらランク自体は上がっていたみたいだ。
このプレートは冒険者にとっては必須のアイテムなんだろうけど、私には必要ないんじゃないかな?
実際に今まで使ったのは最初だけだし。初めての街でのギルドでは、依頼を受けるときに見せる必要があるかもしれないけど……
今までセラさん以外から依頼を受けたことはないしなー。
今後、遠出した先でそんな機会があるかもしれない。
私はしばらく使わないであろう可哀想なプレートを、腕輪の中にそっと仕舞った。
それから少しして、私はスライム草原に着いた。前回来た時よりも魔物に遭遇する回数が少なかったおかげで、思っていたよりも早く来ることができた。
草原を見渡すと前回と同じく、大量のスライムたちがうごめいている。正直ちょっと気持ち悪い。
私は早速、昨日寝る前に思いついたことを試してみることにする。
トルネードの魔法だ。威力は前回に比べてかなり抑え気味に、範囲は前回と同じくらいに調整して魔法を放つ。
その結果、広範囲に竜巻が発生したものの勢いがあまりなくこの魔法により倒れたスライムは1体もいなかった。
うーんちょっと威力弱すぎたかな? スライムとの距離が遠すぎてどれくらいHPが減ったのか確認できない。
魔法をくらったスライムのほとんどが何事もなかったかのようにしているが、私から近い位置にいるスライムは私の方へと近づいてきた。
坂を登ってくるスライムのステータスを確認すると、HPが8割程削れていた。
もう少し威力を上げれば1撃で倒せそうだね。
近づいてくるスライムたちはMPがもったいないので、ナイフで攻撃してとどめを刺す。
先ほど狙った所とは別の広範囲に対して、威力を少し強めたトルネードを放つ。
同様に竜巻が発生し、魔法が消えた後には生きているスライムは1体もいなかった。
こんどは少し威力が強すぎた。これじゃあ意味がない。
魔力の調整は思っていたよりも難しい。今までは威力とかは特に考えずに、適当に魔力を込めて魔法を使っていた。
それでも私の高い魔力のおかげでほとんどの魔物は1撃だったのだ。
そりゃあ、魔力調整なんてする必要がないよね。
3度目の挑戦だ。また別の範囲を指定して、込める魔力も少し抑えてトルネードを放つ。
魔法が発生する場所と私の場所が離れすぎていたせいで、竜巻が発生した位置が少しずれてしまった。
この辺の細かい調整が本当に難しい。でも、とりあえず私がしたかったことは成功したかな?
確認するために私は坂を下り、最後にトルネードを使用した位置へと小走りで向かう。
そこでは大半のスライムが倒れているが、生き残っているスライムが10体以上はいた。
色は統一されていなくカラフルな色合いだったけど、ステータスを確認すると見事にすべてがプルスライムだった。
私は残ったプルスライムをナイフを使い、瞬殺して死体をすぐに回収する。
よしよし、間違いなく成功していたね。プルスライム以外を倒すことにだ。
1体ずつスライムを確認しながら倒すのは、ぶっちゃけ面倒臭かった。私の集中力はそこまで持たない。
かといって、トルネードで一掃した後にプレートを使って1体1体確認するなんて拷問みたいなもので、私は絶対にやりたくない。
でも今やった方法なら、最初のトルネードを使うときだけ集中すればいい。生き残ったスライムのステータスは一応確認するけど、数も少ないし全然苦にはならない。
プルスライムだけHPが高くて本当によかったー。他のスライムと同じくらいのHPだったらこの方法は使えないしね。
でもさっきまで調整ができなかったせいでMPを無駄に消費してしまった。前回みたいな1発でMP500は使ったりしないけど、100以上はどうしても使う必要があるみたいだ。
たぶん威力を抑えても広範囲に魔法を使っているせいだとは思うけど、まあこれはそのままでいいかな。
どうせこれだけ1度にスライムを倒したら、またスライムがたくさん生まれて集まるまでしばらく時間もかかるみたいだし。
今回は気長にやって行こう。別に急ぐような用事もないんだしね。
――あれからスライム草原での生活が今日で5日目となった。
相変わらずトルネードでのプルスライム集めは順調だった。
2日目の最初の1発を放った時、プルスライムごとスライムを倒してしまったときは焦ったけどね。
よく考えたら私は魔物倒したら強くなっちゃうんだから、威力をほんの少しずつ抑える必要があったみたいだ。
スライムたちの魔力は微々たるものだから1発放つごとに抑えていたら、次第にスライムたちが倒れなくなっちゃうだろうけどね。
この方法の欠点といえば、この調整に少し手間取ったことくらいだった。
スライムたちは1時間程でまたいつものように、大量に集まってきてくれた。
その1時間待つ間は、釣りで獲物がかかるのを待つような気持ちでぼんやりとしていた。
まあ釣りしたことないから釣り人の気持ちは分からないけどね。
プレートで魔物のステータスが本当に分かるかどうかも試してみた。結果分かったのは、名前、種族、レベルだけだった。
その他の能力値や、スキルまでは分からないみたい。倒した後にしか確認できないんだし、能力値やスキルが分かったところで意味がないからかな?
プルスライムの素材の数はもうすぐで300体程集まる。これをまたセラさんに見せたらきっと驚くんだろうなー。
前回の数ですらちょっと驚いていたしね。
それからお昼前には300体分の素材が手に入ったのでそろそろ切り上げることにする。
これだけあれば報酬も前回の6倍は貰えるはず。金貨60枚だ。
私はルコールのギルドへと小走りで移動を始めた。
ギルドに着きセラさんに、集めた素材を見せると予想以上の驚きようだった。
「アンナちゃん、最近見ないと思ったらずっとあそこでプルスライム倒していたのね……」
驚きを通り越して、少し呆れているようにも見えたけど。
「はい、結構頑張りましたよ」
「頑張りすぎでしょう……。まあね、こちらとしても非常に助かるから嬉しいんだけどさ」
セラさんはそれから1体ずつプルスライムにプレートを使っていった。
なるほど、あんまりに数が多いからこの作業が面倒くさいのか。確かにこの数を1人で確認するのはなかなか骨が折れそうだね。
私が手伝うわけにもいかないので、しばらく部屋の隅の方でじっと待つ。
ふと、自分の髪が目に入った。そういえばしばらく髪切ってないなー。
この世界に来たときは肩くらいまでの髪が、少し伸びていた。
気付いた時にはセラさんの作業も終わっていたみたいで、私の方に近づいてくる。
「やっと終わったわ……。305体いたみたいね。じゃあ報酬を渡しに戻りましょうか」
どこか疲れているように見えるセラさんに付いて行って、受付まで戻る。
「はい、これが報酬よ」
セラさんから受け取った袋には大量の金貨が入っていた。
ふふふ、期待通りかなりの額みたい。パッと見、何枚入っているかわからないくらいある。
報酬の計算をするのに少し時間がかかったみたいだけど、今まであんなに持ってきた人がいないみたいだし仕方がない。
「70枚入っているから、一応後で確認しておいてね。後その袋、マジックアイテムの中にしまっておいた方がいいよ。流石に大金だからね」
セラさんが私にだけ聞こえる声で言ってきた。
言われなくてもすぐに袋を腕輪の中にしまう。私みたいな小娘がこんな大金持っていたら何言われるか分かったもんじゃないしね。
「ありがとうございました。色々教えてもらっちゃって」
「いいのよ。アンナちゃん見てると妹を思い出すからね」
セラさんが少し悲しげな表情をしている。もしかして妹さんはすでに亡くなっていたりするのかもしれない。
ちょっと気まずくなっちゃたな。
「じゃあまた今度来ますね。遠出する予定なのでいつになるかわからないですけど」私は逃げるようにして言った。
「気を付けてね! アンナちゃん強いけどまだ子供なんだからさ、いつでも頼ってね」
セラさんはすごく優しい。この世界で唯一信じられる人だろう。
私はセラさんに手を振って、ギルドの扉を出た――




