勇者2 西条和樹
「おいおい和樹、もう飲むのやめとけよ。最近ちょっと飲みすぎだぞ」
「うるせえよ。どっかいってろ」
健人が和樹に向かって忠告するが、和樹はそっけなくあしらった。
和樹は今日も酒場で安酒ばかり飲んでいた。テーブルの向かいには昔からつるんでいる健人が座っている。
ここのところは2人して毎日入り浸っている。
和樹たち高校生がこの世界に召喚されてすでに20日経とうとしていた。
皆は数人のグループに分かれて、それぞれが別の場所を冒険しながら魔王を倒すための力を付けているようだ。
しかし未だに和樹と健人だけはセオルの街にいた。
このグループには他にも3人がいたが、酒場に入り浸るようになってからいつの間にか姿が消えていた。
おそらく呆れて3人だけで出て行ってしまったのだろう。
「和樹、そろそろ俺たちも魔王倒すために強くならねーか? 俺らの歳でも酒飲めるのはいいけどよ、やっぱり元の世界に戻りたいしよ。ここ遊べる場所とかもないしよー」
健人は先ほどから愚痴愚痴とうるさかった。
確かにこの世界には娯楽というものがなかった。
(あー、タバコ吸いてえなー)
和樹はそんなことを考えていた。もちろん健人の言うことは無視である。
「あ、そうだ。最近ここらで盗賊が出るらしいから、そいつらでも取っちめに行かないか? 一応俺たち勇者だしよ」
「めんどくせえ」
「お前な……何でもかんでも面倒だなんて言うなよ……」
健人は呆れてため息をつき、安酒をあおった。
「そういや木藤杏奈だっけか? あのかわいい子、数日前に街で見かけたぞ」
(木藤杏奈? 誰だっけそいつ)
健人は思い出したように言うが、和樹は興味なさげに話を聞く。
「後はそうだな、そろそろ王様から貰った金もなくなるぞ?」
それなりに大金を貰っていたのだが働かずにずっと飲み食いしていたら、なくなるのは当たり前だった。
「金か。そこいらにいる雑魚から奪えばいいだろ?」
「雑魚って……ゲームと違って魔物は金落とさないぞ?」
「ちげーよ。ここらにはギルドの依頼で稼いでいる奴らがいるんだろ? そいつらを殺して奪っちまえばいいんだよ」
和樹はつまらなさそうな顔をして言う。
「おいおい。それって盗賊と変わらねーじゃねえか? 流石にそれは……」
「何言ってんだ? 俺たちは魔王を倒す勇者だろ? 勇者様の役に立つんだから奪われる奴は幸せ者だろうが」
健人は和樹の言葉に絶句していた。
和樹は健人がなぜここまで狼狽えているのか不思議だった。
和樹はテーブルから立ち上がる。
「おい、行くぞ。ここの酒には飽きた。魔王でもぶっ倒しにいくか」
「お、おう。待ってくれよ」
健人も立ち上がり、慌てて和樹に付いて酒場を出ていく。
「まずは金からだな」
「本当にやるのかよ……」
和樹は街から出ていく1人の冒険者の男に狙いをつけて、後ろから気づかれないように付いていく。
冒険者は森に入っていった。木の陰に隠れながら様子を窺う。
「お前武器は?」
「俺はロングソードだな。和樹は刀だっけか? かっこいいけどよ、使いづらいんじゃないのか?」
健人は心配しているが、和樹の親は剣道の師範だ。和樹もそこそこ剣道の腕が立つ。
冒険者がキツネと戦い始めた。
「なあ、やっぱりやめないか? 流石に殺して奪うのはやりすぎだと思うんだが」
健人の制止も聞かず、和樹は冒険者の背後に静かに近づく。刀は鞘から抜いていた。
「ん? なんだ君は?」
「死ね」
和樹が冒険者に切りかかる。
冒険者は躱すのが遅れて、脇腹に傷を負った。いっせき
「ぐっ、お前盗賊か。お前が死ねー!」
冒険者が剣を持っていない手を和樹に向けて叫ぶが何も起こらない。
「なんでだ。なんで魔法が発動しないんだ――!」
言葉を言い切る前に和樹が刀を冒険者の胸に突き刺した。
和樹は冒険者の死体から荷物を漁っていた。
「お前本当にやっちまいやがったな。こんなの誰かに見つかったらどうすんだよ!」
「見たやつも殺せばいいだろ。そうすりゃ金もさらに増える。一石二鳥だ」
健人は和樹に対して怯えているように見えた。
それも無理はない。和樹の体は返り血で赤く染まっていたのだから。
「さあもう少し金集めるか。魔王を倒すためなんだ。仕方ないだろ?」
和樹は笑いながら言った。
健人は和樹に逆らうわけにもいかず、和樹の後を付いて行った――
名前:カズキ・サイジョウ
職業:勇者
レベル:5
能力:HP 78/78
MP 26/46
攻撃 128
防御 67
魔力 32
俊敏 87
運 34
スキル:剣技術2,封印,攻撃強化
封印:自らが攻撃して相手に傷を負わせた場合、相手のスキルはしばらくの間発動できなくなる
攻撃強化:攻撃を1.5倍にする使用中は常にMPを消費する