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1 勇者召喚!

 

 目を開くと私たちは見知らぬ大広間にいた。

 周りにはクラスメイト達が倒れていて、誰も目を覚ましていないようだった。

 何? 何が起こったの? さっきまで確かに京都にいたよね?


「おお、召喚に成功したようだぞ!」


 ローブを着た男たち数人がそう言い、騒いでいる。

 召喚? 私たちのことを言っているのかな? しかし召喚とはいったい……?


 そんなことを考えていると、男たちの声で皆も起き上った。ほとんどの人が私と同じように困惑しているようだった。


「どうもはじめまして。まあ落ち着いてください。私たちは君たちに危害を加えることはないので、冷静になってもらえませんか?」

 ローブの男が両手を上にあげて話しかけてくる。

 敵意がないことをアピールしたいようだ。


「おい、おっさん。ここはどこなんだよ」

 西条和樹が男に掴みかかろうと近づくが、男はあっさりとかわし、逆に西条を押さえつけた。

「いてて、離せよ! おい!」

 いい気味だ。いつも威張り散らしている罰だよ。

 思わず笑ってしまいそうになるが堪える。我慢我慢。ここで笑ったりなんかしたら空気読めなさすぎだからね。



「えっと、西条君――彼を離してもらえませんか? 彼もここがどこだかわからなくて混乱しているようなので……」

 クラス委員の魔木蒼一がそう言うと、男はあっさりと西条を開放する。


「そうですね、混乱するのもしかたないでしょう。皆さん、私の後についてきてください。色々とご説明しますので」

 男の指示に従って私たちはしぶしぶ男の後ろを歩く。ずっとあの場所にいたって何もわからないんだ。

 今はこの男に付いていくしかないだろう。


 通路には高そうな壺や、気味の悪い絵が飾られており気持ち悪かった。

 ここの主の趣味を疑っちゃう。


 ふと、他のクラスメイトの顔を見ると不安そうな顔をしている。

 顔色も悪い。そりゃそうだよね。私だって不安でどうしようもないんだから。

 確かにさっきまで修学旅行がつまらなくて何か起こらないか期待はしていたけど、ここまでの珍事が起こるとは思っていなかった。



 大きな扉を開けて1つの部屋に入る。豪華で、無駄にキラキラした装飾品が目立つ部屋だ。

 男はまっすぐ進み、部屋の中央奥に座っている人の前でひざまずいた。


「お連れ致しました。王様」

 え、あの小太りの男が王様? 王様というよりは子悪党みたいな顔だ。

 ニヤニヤしていて気持ち悪いし。


「ご苦労。下がっていいぞ」

 王様がそう言うと部屋には私たちだけが残った。


「ここはどこなんですか? 僕たちはなんでここにいるんですか?」

 魔木が叫ぶように言った。

 いっつもクールにしてる魔木でも取り乱したりするんだ。

 そんなどうでもいいことを考えて、気分を落ち着かせる。私含めみんなが取り乱してもおかしくないんだ。


「まあまあ、落ち着きなさい。いきなりすまなかったね、君たち。まずはこの世界のことから話そうか。ここは君たちが暮らしていた世界とは別の世界で――」

 王様は長々と説明したがまとめるとこうだ。


 まず、今いるここは私たちが住んでいた世界とは違う異世界らしい。これだけでも泣きたくなってくるけど、魔法があり、魔物も住んでいる、魔物と戦うことだってあるファンタジー世界みたいだ。

 ゲームやアニメでしかなかった世界に、私たちは来たようだ。


 そんな世界の魔物の王様――魔王がいるんだけど、めちゃくちゃ強くて自分たちだけでは倒すことができない。そこで古い書物に書かれていた、勇者召喚の儀というのを試してみたら私たちが現れた。


 私たちに魔王を倒してほしい! 要はそういうことだった。


「お家に帰りたい……」

 近くの女の子が泣きながら、ボソッと言った。


「あのー、帰ることはできるんですか? できればすぐにでも帰りたいんですけど……。魔王を倒すと言っても僕たちには難しいんじゃないですか?」

 魔木が女の子を慰めながら言う。

 これだからコイツはモテるんだよなー。


「すまないがすぐには帰れんな。召喚のために溜め込んでいた魔力を全て使ってしまったからな。同じだけ魔力を溜めるのに、後何十年かかるやら……」

 王様は困ったように言う。白々しい人だ。こうなるとわかってて召喚したくせに。

「しかし、魔王の城に行けばそれに代わるものがあるはずだ! 城の周辺は魔力が濃いからな」


 この王様は卑怯な奴だけど、今は逆らっても何もいいことはない。


 私たちが絶望したような、落ち込んだ表情でいると、

「そうだ! とりあえず君たちのステータスでも確認しようかね。召喚の儀で召喚された者は特殊なようで、我々に比べて強くなるみたいなのだよ」

 王様は陽気な声でそんなことを言う。

 説明によると、心の中でステータスを見たいと念じるだけで見れるようだ。


「私、勇者だ……」「俺も勇者だぞ?」「俺もだ! しかもスキルに魔法があるぞ!」

 周りからは早速試したのか、そんな明るい声が聞こえた。この程度で喜ぶなんて、みんな意外に気持ちの切り替えが早いみたいだ。



 でも勇者か……かっこいい。しかも魔法だなんて、テンションが高くなってしまうのもわかる。私だって魔法を使ってみたいし、空を飛べたりもできるのかな?

 さっきまでの落ち込んだ表情はどこにもなく、みんな興奮しているみたいだった。


 私もわくわくしつつ、ステータスを見るために念じる。




 名前:アンナ・キドウ

 職業:高校生

 レベル:1

 能力:HP 20

    MP 5

    攻撃 5

    防御 3

    魔力 7

    俊敏 4

    運  10

 スキル:魔物博士1



 どこにも勇者という文字も、魔法という文字も見えない。

 魔物博士というわけのわからないスキルだけ。職業が高校生って何も変わってないじゃないか。


 どうやら、私だけハズレだったみたいだね……

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