魅惑の王女
「本当に、いつ見ても大きいのね……」
「そうですね!」
「はい、本当に。」
私の率直な感想に従者二人は当然かつ当たり前といった普通の返事を返す。
王城内庭園から見ているのはこのオーフェルヴェーク王国の中枢であるケールリング王城だというのに。
馬車から見える景色には限りがあったけれど、今はそんな窓の囲いやカーテンも、私をやけに窮屈にさせる公爵家専属護衛もいない。
王室近衛兵が居るから必要がないのだ。
あまりに目の前過ぎて全体像が把握出来ないけれど、真上に聳え立つ高い城の数々の塔、そして真横に広がる広大な庭、奥に広がる先の見えない広い廊下。
廊下に度々飾り付けられた絵画はオーディン教の神話の世界や現王、またもう少し前の王など厳かに統一されており、現世の博物館よりも重厚感がある。
置いてある壺に焼かれ、或いは描かれた様々な色彩も大変豪華で格調高い。
しかしこの世界に公爵令嬢として生を受けて10年の私に、前世の感覚がそのまま残っているかと言われればそれは微妙な所だ。
というか残っていると私は重圧に押し潰されてしまう。
バイトをし終え賃貸アパートに帰り、コンビニで買ったハンバーグ弁当に舌鼓を打ちながらがっついた後、狭い風呂に入りそしてシングルベッドに寝転びながらいつものように攻略対象とにやにやしていたあの頃の感覚など残っていてはいけない。
私が今居るのは風呂や着替えを手伝われる世界だ、毎日の食事も阿保みたいな時間とお金を掛けて執り行なうことが日常なのだ。
そして何より私が毛嫌いしているのは国家の中枢である大臣であり、攻略対象は次期王である。
私は少しずつ慣れ始めていた。
見慣れた光景を突き進んでいくと一際荘厳な扉と先に到着していたもう一人が目に映る。
「ご機嫌麗しゅう。セイル、待ち兼ねていました。」
「ごきげんよう、待たせたわね。では、参りましょうか。…リリアンヌ。」
いつものドリルは形を潜め、可愛らしい薄桃ののドレスに身を包み、ドレスより少し濃いリボンをあしらった髪飾りを付けたほんのりとした巻き髪のリリアンヌ。
爽やかな深窓の令嬢然とした格好は、以前の私の助言を受けて新しく新調したのだろう。
とても可愛らしい。
少しの雑談を終え、目で確認してくる王女付きの女中に合図を送ると、それを見た衛兵が自身の身の丈の二倍以上ある大きな扉を開けた。
いよいよご対面の時だ。
「殿下、御学友の御二方が到着なさいました。」
「開けよ」
「はっ!」
女中の声の後聞こえた威厳の中に軽やかな色香の混ざる声。
扉が開かれ、白と黒に紫の飾りを散りばめた美しい中に荘厳さも併せ持つドレスに身を包み、真紅の後ろで一つに結わいても長い髪を、弄ぶ薔薇のような少女が現れた。
その深海のような限りなく群青に近い瞳は此方を静かに見つめている。
「ごきげんよう、殿下。此の度は御学友に選出され、誠に光栄でございます。ついては改めて挨拶申し上げます。リネンハイム公爵令嬢セイル・メルヴェイユです。」
「同じく選出されました、エスメラルダ侯爵令嬢リリアンヌ・リンドホルムです。どうぞ、末長く宜しくお願い申し上げます。」
正直あまり話した事がない為に、令嬢風のスカートの裾を少し上げる挨拶を完璧にこなしながら、私は適度に緊張していた。
一挙手一投足どころか眉や口角、目の動きにまで着目し相手の機嫌を読み取って動かなければならない、第一王女殿下とはこれから長い付き合いになるのだから。
「…成る程、ね。」
私達のことをじっとりと見る殿下。
心まで見透かし見定めんとしているのか、優しげなのにどこか射抜くような視線を直に浴びて微笑むのは辛いが止むを得ない。
しかしそんな心配を他所に、彼女は温かい声色で私達を出迎えた。
「白幻の令嬢とエスメラルダの令嬢、、貴女方ならば、私の学友にも相応しいわね。陛下の御提案、喜んで受け入れましょう。セイル・メルヴェイユ、リリアンヌ・リンドホルム、これから宜しくお願いするわね。」
両手を少し広げて抱き締めるジェスチャーをしつつ、私達に近付いてくる。
未だ成長途中だというのにドレスから溢れそうな巨乳がふにふにと揺らめく事に、敗北感を憶えながら私は安堵しつつ抱擁を受け入れた。
「ところで貴女達、服の趣味変えたのかしら?」
「お気付きでしたか」
「勿論よ。セイルはいつもの白は形を潜めてオレンジの、可愛らしさの中に元気さもあって…いつもとは明らかに違うわ。リリアンヌは……」
そうなのだ。
あの後ヘイゼルからグレテッラ夫人お手製の発注してあったドレスの一式が届き、今私はそれを着ている。
流石としか言いようがない。
清廉潔白や物静かを売りにしてきた私が突然着ても、驚かれはしてもそれは負の感情の起きない程度のイメチェンになっているからだ。
アリアが褒めちぎり、シアンが恥ずかしそうに褒めたよのだから不恰好でないことは確かである。
主人公に対抗した衣装だが、果たして吉と出るか凶と出るか。
「私もイメージチェンジすべきだったかしら」
「殿下は何を着てもお似合いですから。私達は合うドレスを模索する所から始めないといけないので、」
イメージチェンジの前に元のイメージを知らない為、もししていてもそれを褒められるのはリリアンヌだけとなってしまう。
それを踏まえればしなかったのは僥倖だ。
因みに逆はない。
私のイメージはかなりの人に固定されてしまっているからだ。
決して殿下の印象が薄いというわけではないのだが。
「殿下、は堅苦しいわね…私の学友には距離が有り過ぎるわ。特別な貴女達には相応しくない。そうね…特別に名で呼ぶことを許可してあげましょう。」
「「ありがとうございます、アンネリーゼ様」」
そう言って得意げに笑う。
アンネリーゼ様はどうやら権力やネームバリューなどにはかなり固執なさっているらしい。
先程も私達を特別な貴女達と呼んだ。
この辺りが似通うのはリリアンヌと同じなので少し心配だが…王女故に適度に気を配れるのではないかと期待している。
何を隠そう原作では存在しか出てきて居らず、TRUE endを迎えた後日談のような会話で「そんな可愛らしい妹さんがいらっしゃるんですね!」と主人公が王子と会話するくらいなのだ。
それもあって、私はここから先が全く読めない。
兎に角、悪役が2人になることだけは避けたい。
「そう言えばお兄様がこちらにいらっしゃるそうよ。挨拶なさってね。」
…来た。
私達は顔を見合わせ目の色を変える。
何の為に面倒なイメチェンをしたかと言われれば、それは無論攻略対象、そして将来の伴侶であるロディア第一王子殿下と対面するからである。
アンネリーゼ様もそれが分かっていたのかクスリと笑うと、奥のテラスに私達を案内した。
王国最高峰のメイド達は既に温かい紅茶と焼き菓子を用意済みで、白く柔らかなテラスに暖かい光が降り注ぐ中、私達はそれぞれの席に着く。
「殿下、第一王子殿下がいらっしゃいました。」
「お通ししなさい」
「はっ!」
あの扉の向こうに、このドレスをお好みの王子がいる。
私は、主人公に似せているかな?
ドレスの裾を丁寧に確認し、私達はそっと立った。
緊張の瞬間の始まりだ。
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いつも読んで下さり誠にありがとうございます。
次回攻略対象出てきます。
…やっとですね!




