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ひな祭り。

入学する前の話です。

「ヒナ、…マツリ?」


「ひな祭りよ!」


春の休みで久しぶりに家に帰ってみると、いつもと変わりない様子の妹に会った。

シアンとアリアに懸命に説明してるのを見ると、何かに夢中になっているみたいだが。


黒の髪の人形を階段上に置く?

階段に赤い絨毯を敷いて、一番上に二つ、その下に三つ、その下に五つ、そしてその下に二つに一番下に三つ。

それぞれをオダイリサマ、オヒナサマ、サンニンカンジョ、ゴニンバヤシなどなどと言うらしい。


…よく分からないが、女の子の祭典だそうだ。


「違うわね…アリア、なんか…そう、服が違うのよ。」


「こ、こう、ですか?」


異国の慣習や祭典などには詳しくないので、自分には分からない。

決められた本しか読んでこなかったセイルがそんなものに詳しい筈がないから…これはセイルの創作かな?


そうだとすれば微笑ましい光景だ。

このキモノとか言う服装も面白いし、特徴的な顔も、それからわざわざ階段状の台を作って、そこに飾りつけるという発想も、常人には浮かばないから妹は天才だと思うし。


人形と聞いて手芸も得意なアリアが作ろうとしてるものの、キモノとやらが一向に上手くいかないらしい。

クマのぬいぐるみのようなものかとシアンが尋ねたら妹は笑いながら違うと答えた。


その他の令嬢方は階段状の台を造るのに必死で、それと妹に目を掛けて貰うために、それとなくアリアに話し掛けている。

成る程、アリアが話していたら顔にも見向きするからな、良く考えられている。


もっとも、肝心のセイルはひな祭りに夢中になっているからあまり覚えては貰えないと思うが。


「あとは菱餅ね!これは本物再現は期待してないから今回はムースで行きましょうか。」


「っ!?ダメ、セイル様に料理をさせる訳には参りません!!」


「やっぱり…そう?」


「そうですよ、何かあっては困ります。」


セイルは何か菓子を作りたいようだが、許可が降りない。

こればかりは仕方ないな、料理は一流のシェフが作るものだ、アリアも料理の勉強をして、調理場を見てはいても実際にしたことはないし。

伯爵家の令嬢にそんなことはさせられないからね。


セイルなんて尚更駄目だ、調理場に見学だってさせたくない。この兄が見たこともないような所に妹を連れてなど行ける訳がないから。

聞いた限りだと、公爵家の者が調理場に行くと何やら爆発が起こるらしい。

これは母上からの情報だが、これが確かならなんて危険な場所なのだろう。


話が逸れたな。


「ムースなんですよね?なら簡単です!

想像図をお描き下さい!それを持っていけばシェフが徹夜で会議を開いて何とかしてくれるはずです!」


アリアが下の使用人から紙と色鉛筆を受け取ると、セイルの前の机に置いた。

妹はその、色の種類が豊富すぎて逆に分からなくなってくる色鉛筆から、黒と薄い桃色と白と緑を出して菱形のものを描き出した。


そして下に材料を書こうとしたところで…手が止まった。


「…しまった…」


「どうされました?」


「ムースの作り方がサラッと紙に書ける程…女子力無かった…。。」


どうやらジョシリョクというものが無いそうだ。


ペンを持って項垂れるセイルに、アリアがピンクと白と緑のムースなら材料を書かなくても大丈夫と言った。

しかし我が妹は粘るらしい。


「卵とか砂糖とかバターとか牛乳はまず入るわよね、それから…生クリームとか、ピンクは苺は決まり…白は…無味で、緑は抹茶?抹茶ってこの世界あったかしら?」


ラピスラズリはニホンのゲームだから云々と宝石の名を呟いて、そして、


「ほうれん草…いや、ないわー…め、メロンにしましょう!」


「無味…のところはヨーグルトムースとかいかがですか!?あと、ゼラチンとか、レモン果汁も少し入れて…薄力粉も必要ですね。あ、お砂糖はグラニュー糖の方が」


「その通りねアリア!」


二人が菓子の話で盛り上がっているのについて行けなかったのか、シアンは途中から必要なものを下の者に伝えることに専念していた。

その気持ちはよく分かる、私も妹の話でなければ聞き流していたところだ。


そしてその菱形の菓子の上に桜の花を置くらしい。

そして食べる…食べる?花を?

塩っぽい味が美味しいそうだ、菓子の話は本当によく分からない。

そして食べる桜とは別に、枝ごとの桜も階段状の台に飾り付けるそうだ。


前々からセイルが描いていたらしいヒナマツリの大体の完成図に桜も描き加える。

茶の色鉛筆で棒を描いてピンクでその上に丸を…いや、それでいいのか。

枝に凝れとは言わない、せめて丸ではなく花を描くべきではないか。

どうやら妹は絵心は大して無いらしい。


それもそうか、大して絵にも触れさせていないからな。

これはリネンハイムのツテを使ってでも、見極める力を養わせるべきか…。


話が逸れたな。


「セイル様、え、枝からも取って召し上がるのですか?」


「こっちは飾り用よ馬鹿執事!本当にすみませんセイル様、どうしようもなく不甲斐ない情けない執事で」


「てめえ…」


いつもの問答があった後にアリアは髪から飾りを取ると、これが食べられるんですね〜と言っていた。

その装飾には桜が付いているらしく、セイルが良く似合うと褒めている。

何故かシアンが照れているが、まあいい。


「あっ!橘の木花を忘れていたわ!」


橘、白い花と小さな実をつける柑橘系の樹木か。

桜と違って柑橘系はこの国にもあるから早く調達出来そうだ。


「えっと、ひな人形に向かって右側に桜、左側には橘を飾るのよ。この真ん中の段にね。

左近の桜、右近の橘よ。」


「こちらは…左近と右近と言う名にされたのですか?」


「お内裏様とお雛様を守る護衛だから…」


「ああっ!近衛兵ですね!」


「そうね!」


そうしてまた描き加えている内にセイルはヒナアラレと言い出した。


小さく甘い揚げ物で色とりどりだそうで、こっちは本当に分からなかったのか、材料は書かずに絵だけ描いてシェフに渡すことにしたらしい。

…菱形の菓子より余程難易度が上がっていて、シェフの苦労するのは寧ろこちらだろう。

だって、想像出来ないし。

だが、セイルは気付いてはいないようだ。


「それでは私はシェフにこの紙を渡してきますね!」


「諸々の材料確認に行って参ります。」


シアンとアリア、二人が出払い、部屋は机に向かうセイルと黙々と作業を進める下の者だけとなる。

下の者は相変わらずセイルに覚えて貰いたいのか、士気を高めていたり、良く分からないが無駄にリーダーシップを取り始めたり、皆で頑張ろう的なことを言ったりして、そして皆が皆チラチラと妹を見ている。


だが、我が鈍感な妹は紙に集中して何にも気付いていない。

書くわけでもないのにペンは置かず、絵を描くわけでもなく豊富な色鉛筆を眺めている。


というよりは何をしたらいいのか分からないのだろう。

どこに何があるかさえ分からない妹は一人では何も出来ないし、かと言って作業中の忙しい使用人に話し掛ける勇気もないのかもしれない。

その作業がセイル自身の頼みだから余計に邪魔する気が起こらないのか、または名前も顔も覚えてないから話し掛け難いのか。


…仕方ないな、助けてやるか。


「久しぶりだね、何してるんだ?」


「兄様!?」


驚く姿もまた可愛い。

しょうがない妹だ。


「春ですので飾り付けをしています。お雛祭りと言うのですが、…このようにですね…」


知らない(はずの)私に懇切丁寧に一から説明するセイル。絵心の関係でよく分からないとは言わないでおく。

そういえば先程の菓子の紙はアリアが廊下で描き加えていたな。

まあ、菱形の立体すら崩れていたから仕方ないだろう。

上に置いた桃色の丸には桜と書き足している。


…彼らには少しボーナスでも出してやるとするか。


「あの、お兄様に頼みたいことがあります。」


「何だ?」


「ひな祭りは皆で楽しみたいのです。本当は皆でお菓子を食べたりしたいと思っています。

家族は勿論ですが、アリアやシアン、その他、お手伝いを頑張ってくれた者達とも…。」


「それは」


「しかし、公爵家の令嬢としては、これらの者と共に食卓を囲むことは相応しいとは言えないことは理解しています。

ですので、陰で出すように手配しては頂けないでしようか?」


「…。」


「アリアやシアンに頼んでも下の者への配慮は必要ないと返されてしまうのです。

誕生日プレゼントだって、気軽に手渡せば、シェンメイ、カネツザ伯爵家の当主が直々に返礼にいらして、、(かえ)って迷惑を掛けています。

おそらく、ですが、アリアがシアンに貰ったのだろう髪飾りとかを見ていると、その、気楽な関係に憧れてしまうのですよね、私の悪い癖です。

悪い癖だというのは分かっているのですが…ですから…その…。。」


”それは、公爵家の令嬢として相応しくない”、兄の言葉を掻き消して妹が紡いだ言葉は悲しいものだった。


公爵家の令息として相応しい行動をしている自分でも、他の令息とはそれなりにサロンなどでわちゃわちゃやっているのだ。

考えてみたら、同じ身分の友が居ない妹にそれは考えられないことで。

だから出来ることなら叶えてやりたい気持ちはあるが、しかし…。


「分かった、それは私が直々に厨房まで行って伝えてきてやる。」


「ありがとうございま…直々に?いえ、そのような必要は…」


「妹の大切な頼みを下の誰かに任せられるか。まあ、任せておけ。」


行ったら爆発が起こるとしても怖いものか、思いやりに溢れている可愛い妹のためなら厨房くらい行ってやるさ。


「ありがとうございます…!」





◇◆◇◆


その後。


「うぉおああああああ!!!!!!

私は!!!厨房に!!来たぞッッ!!!!!!」


「いかがされたのですシアン様…じゃ、ない?だ、誰だこの人」


「おま、っバカッッ、、シャ、シャルル様だよ!!」


「え?シャルル様って…え?シャルル・オスカル様!!?!?」


「おい!長は誰だ!?早く呼べ!!」


「はっ、はい!!」


「早く!!!早くしないと爆発する!!!!」


「ばっ、爆発ゥウッ!?!!?」


厨房に死ぬほどの混乱が起きた。

アリア&使用人「シャルル様なんでずっと部屋覗いてるんだろ…」


シアン「そういうご趣味なんだ、失礼なこと考えるな!」



セイル「上手く描けた!」


シアン&アリア「はい、大変お上手でございます、流石です。」



シャルル「何してるんだ?」


アリア&使用人「何してるんだ?」


シアン「だからそういうご趣味(ry」

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