出会い。
王族、それも第一王女や大臣の第一令嬢が豪華な階段を下りてきているのに、そんな素晴らしい二人がまるで共に降りるもう一人の引き立て役みたいに思えてならない。
バレたら只では済まない失礼なことを思いながら、ミュラ・エストレはセイルだけを見ていた。
見て見て、見続けて、オディールの『ダメだこりゃ』という視線にも気付かないでいる内に、ミュラの視界に唯一人いる少女は他の二人と別れてミュラ達の元に歩いてきた。
手を震わせて喜んでいる場合ではないと切り替えて、ミュラはわなわなと震える自分を叱咤して、一息で言い切る。
「バダンテール侯爵家第一令嬢、ミュラ・エストレと申します。
貴女様との末永き縁の下に生まれし事を、心より神に感謝しております。
セイル・メルヴェイユ様、同派閥の”御友達”として、宜しくお願い致しますね。」
目の前の令嬢を真似た暗めの銀髪をなびかせて、目の前の令嬢と同じだと喜んだ翠の瞳で真っ直ぐに相手を見つめる。
言葉を発したその様子は、位に相応しい立ち居振る舞いから挨拶まで、どこを取り出してみても非の打ち所がない。
こんな大事な場面で非を打たれるような挨拶をしてたまるかと、極度の緊張の中で発した声は、近くにある噴水の音と混ざりながら、相手に伝わった。
ミュラは目の前の令嬢が、挨拶を聞いて目をゆっくりと瞬くのも、口を開いて言葉を放とうとするのも、何もかも、見逃さない。
いや、目を離せなかった。
彼女の白い肌、睫毛、髪に、自分と同じ色の翠の瞳と、紫の瞳のオッドアイ。
顔に表情はなく、どこのサロンにも通わないものだから分からないのだろうか、流行というものを度外視した独特の白いドレスを着させられて、ただ静かに清らかな感情の浮かばない目で話す相手を見定める。
その様子は誰の目にも綺麗に見えている。
だけどミュラの目には、もっと、より一層どうしようもなく綺麗に映り込んでいるのだと、自分とその他では目の前の人物への愛情の度合いが違うのだと、ミュラはセイルを見て思った。
その瞬間、オデット達とセイルについて語り合った、昔から今までのこと全てを、ミュラは心から後悔した。
そして、これからは二度とオデット達とセイルについて語らないと心に決めた。
それは初めて近くに本物を目の前にして、ミュラの言いようのない愛情が産んだ…うん、簡単に言うと同担拒否の感情だった。
「私からも改めてご挨拶を。
リネンハイム公爵家第一令嬢、セイル・メルヴェイユよ。
貴女とは、私の派閥の”極めて大事な御友達”として、良好で円満な関係を保ち、これより始まる私の派閥を共に成長させていきたいわ。
宜しくお願いするわね。」
今はミュラ一人を見つめ、貴族の挨拶の定型文を垂れ流す令嬢の、細やかな所作の一つ一つをも見逃さないように、食い入るように、ミュラはセイルを見つめ続けた。
◇◆◇◆
視線が痛い。
何だろうか、私は何かやってしまったのだろうか?
あれか?
私がさっき階段でずっこけそうになってたの見られたとか?
それとも顔合わせの時もドレスだと知らずに、てっきり制服だろうと直前まで思ってたから、入学式の次の日用ドレスなんて新しく作ってなくて、気分一新させられない真っ白なドレス着てきたの見て、
『あぁ…同じドレスしか持ってないのね。』
とか思われ…いやぁぁぁあああ!?!?
だ、だってしょうがないじゃない!
ドレスをお作りになりますかっ!?って弾けた笑顔でこの前アリアに訊かれたけど、ヘイゼルの御夫人がちょっと苦手ですっ飛ばし…た…ん、ですから…。。
まさか、この日のこと言ってたとは思わないじゃない!?
まあ、それでもこのドレスもいいんだけどね。
私のドレスはロングスリーブ…と呼ばれる手首までの長さがあるレースの袖で、上品な透け感がどうのこうのってアリアが言っていたし、タッキングスカート…と呼ばれる、スカートの生地にタックを寄せて、ボリュームを出したデザインだ。
ふんわりとしたシルエットになってるからお肉も気にならな…こほん。
薄いオレンジの薔薇を真ん中に入れた大きなリボンも二つ付けていて、華やかな印象になっていてエレガント(笑)に着飾られているし、だ大丈夫な…はず?
それにしてもこのミュラ・エストレ・ド・バダンテールという人。
銀に黒い髪が混ざっているおしゃれな髪に、それにキツめの翠の瞳が良く合っていて、それにアシンメトリーなワンショルダーにバッスルライン…と呼ばれるスカートのヒップ部分を大きく膨らませたデザインのドレスで、もう、将来スーパーモデルにでも成長するのではないかと思う位で。
あ、綺麗系とはこのことか。
lapis lazuliの原作に登場してたら一発で覚えるだろうし、恐らく登場はしてないと思う。
出てたら人気出るんじゃないかな?
…ああ、うん、分かってる。ちゃんと集中しなくちゃね。
「ラ・フォンテーヌ辺境伯第一令嬢、オデットと申します。」
「ル・シャプリエ辺境伯第一令嬢、オディールと申します。」
覚えにくい苗字ととても覚えやすい名前の二人がミュラ・エストレと入れ替わりで前に出てきて挨拶をした。
オデットは眩しいブロンドの髪に桃色の瞳の子。
その瞳に似合う可憐な花の模様の付いた白やピンクのグラデーションのあるパフスリーブ…と呼ばれる袖部分を膨らませたデザイン付きの、オーバースカート…スカートの部分が二重に重ねてるデザインで、まるで物語の主人公のような…いえ、主人公は、いや主人公なんだけどこほん。
オディールはオデットと全く瓜二つの顔で同じブロンドの髪だけど黄緑の瞳の子。
その瞳とオデットとは違う雰囲気に似合う、黄緑の全体に黒や金の装飾の施されたアメリカンスリーブ…と呼ばれる首から大きく斜めにカットされて肩を大きく露出させたデザイン付きの、ドレープ…と呼ばれる布を垂らして出来るタックで優雅さや大人っぽさを演出するデザインで、小悪魔チックな印象が伝わってくる。
「カネツザ伯爵家第一令嬢、シルヴィと申します。」
「シェンメイ伯爵家第一令嬢、エメリナと申します。」
こっちの二人はよく知ってる。シアンとアリアの姉達だ。…いや、会ったの初だけども。
シルヴィは何でも卒なくこなすシアンに似た白に近い銀髪に青に近い紫の瞳の人。
雰囲気もシアンに似ていて、ベアトップにマーメイドライン…と呼ばれる、膝までがスレンダー、膝下から人魚の尾ひれみたいにスカートが広がっているデザインのドレスで、オディールみたいに可愛さの中に大人っぽさがあるのとはまた違う魅力で、少し憧れてしまう。
エメリナはドジっ子のアリアに似た山桜の髪にアメリカンチェリーのような少し濃い紅い瞳の人。
雰囲気もアリアに似ていて、フレンチスリーブ…と呼ばれる肩の先が隠れるくらいのの短い袖に、ギャザーで広がったタックでボリュームをアップさせていて、優しくてほんわかしたお姉さんという感じがひしひしと伝わってくる。
あとはもう全然皆覚えられなくて、取り敢えずええっと、うん、もう、いいかな…?
…あ。
「シェンメイ伯爵家第三令嬢、アリア・シアーテと申します。」
全然挨拶する必要なんか無いくらいお互いのことを知ってるけれど、ここは形式を守る。
アリアは若草色に白の桜の花が散りばめられて、ボートネック…と呼ばれるネックラインが横に浅く広く広がっていて、デコルテと言うらしい鎖骨辺りの露出を抑えていて、バルーンスカート…と呼ばれる風船みたいに丸いシルエットを持ったデザインのドレスを着ている。
ゴージャスで華やかなのに上品で可愛らしいとっておきのドレスは、アリアが着ると本当にさくらんぼみたい。
そうして挨拶が終わるとすぐに、アリアはエメリナの後ろに隠れてしまった。
どうやら派閥の中でも位別ににしっかりと分かれているようで、伯爵家第三令嬢のアリアは後ろの後ろの後ろの順位。
そのため、私がアリアに過度に話し掛けてはいけないらしい。
勿論、それは派閥でサロンを開いたりした時の話で、日常なら何の問題もない。
でもちょっと寂しいかな、他の皆と仲良く出来なかったら付き合って貰おうと思っていたのに。




