新たなる。
「あっ!セイル様!アントワネット様が御手紙を預けられたとおっしゃいましたが、ご覧になりますか?
サロンや派閥の件について、何か書いてあるかもしれませんし!」
「…!そうね、手紙をここへ。」
手紙の件を忘れてた訳ではないけど、深刻なぼっち事件の解決に役立つとまでは考えられず、私はアリアの機転を利かしてくれたのを活かして、解決を祈りながら母からの一通の手紙を読んだ。
封を開けながら先程までの事を思い起こす。
妙に冷めたと略した父母との会話。
その中での一幕を。
「第一王女殿下の御学友として、リネンハイム公爵家の第一令嬢として、そして第一王子殿下の正妃筆頭候補として。
…このような肩書きは重圧となって、セイル自身に掛かって来るだろう。
それでも、それらに耐えなさい。
位に相応しい居振る舞いを心掛け、慣れる事がお前の未来の為になる。
良いな。」
「はい、お父様。」
「ふふ、私は貴女が誇らしいわ。
『政という大海に浮かぶ王家にて、立派な帆を広げられますように。』
…夏生まれの貴女に掛けてみたのだけど、貴女はそんな私達の細やかな願いを本当に叶えてしまいそうで。」
「…お母様。」
昼食会が終わった頃には既に夕暮れ。
各々が家族と別れを告げて寮に入る。
前日の大失態と違って、これは本当に別れと言ってもいいくらい離れることになるから、若干緊張して二人の話に耳を傾ける。
日本と違って少し直球な表し方には、照れるけど、二人の愛が伝わってきて暖かい気持ちになる。
「とても優秀な子ね。
兄様も…ふふ、何でもないのよ。」
「…。」
前言撤回。
ええ、撤回させて頂きましょう。
何ですかそれ、要らないでしょう。
今ザフナスの話をしないで欲しかった。
親への呆れを顔に出さないよう最大限心を配りながら、別れの挨拶は続く。
「ああ、セイル。
貴女にこれを渡しておきたいわ。」
「…。これは今開けるべきものですか?」
「いいえ、…そうね、通常授業の前に確認すればいいわ。」
「分かりました。
次にお会いするのは長期休みですね。」
「そういう事になるな。
成長したお前を待っているよ。」
「御二方のご期待に添えるよう、取り組んで参ります。」
「ええ。では、失礼するわ。」
「はい。」
以上。
こうして母から受け取った手紙を、何処の誰とも分からないけれども馬の骨では有り得ない側に仕える人に預け、私はフリチラリアの寮へと戻った。
そしてその手紙が、同じく家族との団欒を楽しんで帰ってきたアリアへと渡されたのだろう。
そして現在に至る。
「…予想、通りね。私の派閥の事が書かれてあったわ。」
高級な便箋に最上の質感で書かれたそこにあった名は、…殆どが私の知らない名であった。
○◇○◇
…足りない。
まだ、いえ、全然足らない。
どれだけの装飾を施せば、後ろに寄り添う価値が出るのかしら。
有り余る程の装飾を施しても、私に、彼女の格を高められる気がしない。
それなのに、彼女の派閥の全てを取り仕切れとは。
なんて、なんて、烏滸がましくて、理想的なの。
「ミュラ様。何と申せば宜しいのでしょうか…貴女様の笑顔は、その、もう少し柔かにされた方が良いのではないかと。」
「オデット。正直に言ってしまえばいいわ。…ニタっとしていて怪しい…と。」
「オディール!そのような事を言っては傷付いてしまわれるわ!せめて妖しい…ならばまだ、」
「貴女達失礼なのよ!」
半泣きの声が飛び交う。
ニヤケ顔が止まない少女、ミュラ・エストレ・ド・バダンテール侯爵第一令嬢。
そしてミュラに優しい言葉を掛けようと日々努力する心優しき少女、オデット・ド・ラ・フォンテーヌ辺境伯第一令嬢。
そんなオデットに姿形が激似ではあるものの可愛い性格はしていない少女、オディール・ド・ル・シャプリエ辺境伯第一令嬢。
彼女達はそれぞれ、今か今かと待ち望…ん?
「「遅れて申し訳ありませんミュラ様、オデット様、オディール様!」」
「もうっ!シルヴィが遅刻するからっ!」
「エメリナ…でも、朝が弱くて…は言い訳になりませんね。申し訳ありません。」
「サロンはいつも昼か夕方だものね。」
「構わないわ。ミュラ様も支度が整っていないから。…顔の。」
「だから失礼なのよ貴女!!」
使用人が居るにも関わらずそれらを払った結果寝坊した、シルヴィ・ド・カネツザ伯爵第一令嬢。
見た目だけならシルヴィよりも遥かに遅刻しそうなのに意外としっかり者かつ優しい、エメリナ・ド・シェンメイ伯爵第一令嬢。
…シアンとアリアの姉である彼女達の到着によってやっと言える。
彼女達はそれぞれ、今か今かと待ち望んでいた。
セイル・メルヴェイユ・ド・リネンハイムを。
ここで政治的な話をしよう。
リネンハイム公爵家の分家は複数ある。
その中でも一際本家に従い、その為に可愛がられて位を高いものにした家、それがバダンテール侯爵家だ。
そのバダンテール侯爵家第一令嬢であるミュラ・エストレを頂点に集まってサロンが日々行われていたのを、元より知っていた本家リネンハイムは、それをセイルの派閥とする事に決めたのである。
…とは言っても、決してミュラから派閥を取り上げる訳ではない。
あくまで派閥の頂点をセイルとするだけであり、内側の事はこれまでと変わらずミュラが取り仕切る。
これによりセイルは派閥の格を上げるだけの只のお飾りとなる。
派閥なんて大きな言葉を使うが、要は暇を持て余した令嬢達が舞踏会にて仲間内で集まったり、サロンを開くだけの話だ。
しかし、このラピスラズリの時代設定においては政治は踊りながら行われる。
つまり、日毎のパーティーの雑談で政策が決まっていく。
こんな世界なら舞踏会での雑談の影響力は侮ることなど出来ない。
当然政局にも影響を与えるものである。
公爵家令嬢がトップに君臨して話すならば尚更だ。
考えてみれば地図すら見せないザフナスが、政治権力に干渉出来るようなものの権限を、セイルに与える訳が無かった。
そしてバダンテール侯爵家としては、娘の入る派閥の格が誰にも負けないものとなったばかりか、娘に事実上のトップを務めさせられるのである。
元々からリネンハイム公爵家に逆らう気もないが、これほど美味しい話はない。
彼らは二つ返事でこの話を受け入れた。
割りを食したのはセイルだけ。
しかし不幸中の幸いか、ミュラはその為に喜んでいるわけではないようだ。
「セイル様よ、セイル様がいらっしゃるのよ、握手出来るかしら、抱き締められるかしら、いいえ…ふっ、へへ、髪、御髪だけでもサラッと、スッと触れたら」
「…変態ここに極まれり。」
「あー…その、何ですか、うん。そうですね。」
「シルヴィったら!もっと丁寧に!」
「ミュラ様の御髪もセイル様を真似られましたものね。」
「そうよ…ふわふわの白に染めた筈なのにどうしてか燻んだ銀色になったわ…こんな筈ではなかったのに…」
「別に良いのではないかと。私、銀髪好きです。」
「…シルヴィは元から銀髪だしね…」
「でももういいのよそんな事より覗きたいあの素肌」
「もう収拾つきませんっ!!」
彼女達ならセイルの意見も飲んでくれるだろう。
新たな仲間を手に入れて、気楽な関係を得て進むことが出来そうだ。
あ、うん。…セイルが彼らを勘違いしなければ。
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い致します。
去年は12部〜21部を書いたので…。
…えー、その、
…強烈な更新速度の中、応援して頂き誠にありがとうございます。
冷や汗出てきた。




