それぞれの苦難
活動報告にもうすぐ出すと書いて…半月。
すみませんでした。混乱してしまった方には申し訳ない気持ちで一杯です。
そして、そこまで確認するわけないと思った方、お聞き流し下さい。
少し長めです。
相容れないものがある。
王においてそれは保身と民意を汲むことだとロディアは父から教わった。
保身とはつまり自身の命を守ること。
自身の命の危険すら省みずに犠牲にしてまで民意を反映させようとする王が、歴史上どれ程しか居ないかをロディアは学んでいる。
豪奢な王宮はこの国の大貴族でさえ驚く程の見栄えだ。
それはこの国を牛耳る高爵位の者達に舐めてかかられない為とも言えるし、他国の使者に国庫の豊かさを知らしめる為とも言える。
しかし、外面だけではない。
内に威風堂々と入り込む貴族の刺客、つまり妃達にもそのゆとりを示さなければならず、内面の催し物は年々費用が嵩む。
妃達もそれぞれがライバル同士であり失脚すれば自身の命の危機にさえ転じるという状況で、国の為を思い自粛をする事など無い。
例え華やかに華やかを掛けて合わせ過ぎた王宮内だとしても、例え妃自身や王が清廉で質素な物を好むとしても、隠し通して国が望む格好をする。
…まぁ、権力を手に入れた大貴族の令嬢が清廉を好むなんて妄想でもあり得ないけれど。
また、王から使い過ぎだと注意でもすれば、この国の国庫の足元を見られ掬われる。
結果として放漫な財政は留まるところを知らない。
この国において王の保身とは、華やかな文化を人生全てを使って国費を使い込んで育て、それを会を通じて他国に発信する事だ。
実は財政に苦しむ王自身が望む望まないに関わらず、勿論圧迫された民達が望むかどうかなど頭の片隅にも置かないで。
「ロディア、リネンハイムの公爵令嬢と仲を深めますなと、母様はあれ程申し上げたではありませんの!」
愚痴を零せば長くなるが、要は何を言いたいのかと問われれば…国の根幹にこんな正妃が居るのは駄目だということだ。
そもそも国庫の資金は王宮だけに使うものではない。
正規の兵を維持し続けることは大国の威厳を保つ上で、それこそ宮廷文化を花開かせることよりも余程大切だ。
小国が金が掛かり過ぎる正規兵を持てないのも頷けるくらいの膨大な維持費が必要だというのに、国防に必須なそれを王宮のサロンの為に年々減額しつつある。
兵を減額しているというのに民へ還元すべき金がその通りに動いているわけもない。
当然搾取されている…のだろう。
ロディアも民の様子を一度でも見た事がない為に、その想像は事実よりも緩和されたものだ。
しかし、それが分かっていても想像する事に時を1秒も使わない目の前の母親よりはずっとマシだろうとロディアは思っている。
現王は善政を敷いていると言うが、この国において政の善し悪しは貴族が決めるものなのだからこの際何もかも信用出来ないと言った方が良い。
それでも父の密かな苦悩、主にエスメラルダの大臣の自分達だけへの放漫さは聞いている為、何とかしなければならないと思い悩んでいるのだ。
「これでリネンハイムは益々つけ上がりますわね!ああもう!どうして貴方はそうなのです!私達は貴方の為を思って心からの進言をしているというのに!これならばフレデリクの方が頼り甲斐があるというものでしょう!」
で、これ。
どうしよう本当に昔から考える事は一族の事のみであり、一族に娘が生まれないからと真っ当な理由で正妃の座にまで登り詰める公爵家に危機感を抱いているのだ。
王としてはそんな事よりも国が傾くのを避ける手立てを講じなければならないというのに、日夜サロンを開いてはその都度新しいドレスに袖を通すこの正妃は、はっきり言ってセイルより余程正妃にしてはならない人物だろう。
寧ろ、大人しくサロンにも出ずサロンも開かずと言った女ではその他で豪遊していたとしても限りがある。
だからその点ではロディアはセイルを好ましく思っているのだ。
いや、その点だけでは無いのかもしれないが。
「全く貴方ときたら、」
「今の時点で、正妃の座に最も近い…とされている、それも王族の血筋を引いた名家リネンハイムの第一令嬢です。無下にすれば私の品位を落としかねないと…思いました。」
「た、確かにそうですが…しかし!」
「私が相手をしたのは他の家ではなく、王族の血筋を引く由緒ある家です。母上、先程増長と仰いましたがこれ以上の最上など無い家だと言うのに何を仰るのです?」
女のヒステリーは聞くだけ聞いて喋り倒させた後静かに反論するのが良い、なんて事まで父から聞いたロディアは早速実践をしてみた。
若干ではなく堂々とリネンハイムを支持したロディアに正妃メリル・ルメディは不快感を露わにしたが、これ以上は礼も品位も欠くとなると確かに何も言えないと口籠る。
普段何かにつけてフレデリクの方が王位に相応しいと責め立てられるロディアは、珍しく口を閉ざす母に勝気な笑みを浮かべた。
実の弟が嫌いなわけは決してないが、こうも当てつけられる回数が増えると心境は微妙なものになる。
フレデリクがロディアに対し何かをするというわけでもないのに、ただ母親に好かれているという理由だけで。
そんな子供らしい感情が浮かぶのを嫌うロディアは、自分には信念があるのだと言い聞かせて正妃の部屋を出た。
廊下から見える庭は美しい。
綺麗に形取られた計算の行き届く正妃の為の個人用の庭だ。
白く細くか弱くそれでいて本物の笑みを自身に向け愛をはっきりと口にした少女をロディアは思い出す。
次代の正妃に最も近いとされる彼女はこのような豪奢な、世界各地の薔薇を植えるだけ植える庭をきっと好まないだろう。
生粋の名家の出自であってあの様ならば豪華に絢爛を合わせた品位のない宮廷文化に同調する事もきっと無い。
あの初めて見た種類の笑みがどうにも頭から離れないのは、自分の経験が少ないからなのだとロディアは一人思った。
「…愛妾、はぁ…」
初めて見た種類の笑みだったから。
そんな理由だけで自身の頭に残るのであればこれから先一体どうなってしまうのだろう。
父のように経験を積むべきなのだろうか。
自身の父の宮廷が文字通り妃だらけで放蕩してしまっている状況を見ると気は乗らない。
だが、無くすことも出来ないだろうと独りごちる。
その頭の中にはシャルルの言葉が響いていた。
○◇○◇
「明日ですね」
「明日ですよ!」
「あっ、明日、ですね」
「明日です」
「あっ、…っぁ、ああああ明日、明日ぁあああああ!!!!!」
その頃。
セイルは発狂していた。
「あああああ、どうしまっ、嫌です、とても、引き篭もっていたい」
「お覚悟をお決め下さい」
「そうですよ!泣いても転んでも明日は来るのですから!」
「ああああぁ…」
明日。
そう、入学式が終わり昼食会が終わり、やけにニヤけた優しい両親との…その反応に下心しかなくて妙に冷めてしまった邂逅とを終えて、いよいよ、明日。
そう、通常授業の始まりだ。
「この馬鹿っ!セイル様、気分を落ち着かせるハーブティーです。」
「わっ、私からも!春を匂わせる桜色のカヌレです。パリッと香ばしくてプリン味の…兎に角新作です!」
そもそも。
セイル・メルヴェイユという人は社交界を避けていた。
低位の階級ならば視界に入れることも叶わない高貴に高貴を重ねた公爵令嬢、それも王族のように大々的には出てこない、つまり見るだけで物珍しいといった、所謂珍獣だ。
珍獣は見るだけで珍しく、人目に出るだけでその物の気を紛らわせ話の種に困らなくさせるが、だからと言って友が居るわけではないのだ。
そう、友が居るわけではないのだ。
気の置けない仲の中にリリアンヌやアンネリーゼ様などを…含むのだとしたらもうそれがセイルにとって間違いようのなく一番の友達だ。
その一番の友達がつい少し前に出会ったばかりだというのだから笑うしかないのだが、笑えもしない。
学校において友達が出来ないのに無駄に目立つなどどのような苦行だろうか。
というかもうそれ学校なのだろうか。
「ありがとう。…はぁ」
目立つことは間違い無しだが腹をくくるしかない。
どうせ、自分は高貴過ぎて面と向かって話せるのはあの二人以外には居ないのだ。
気安いかどうかは別にしても…というか、あの二人がセイル以外と関わりを持とうとするだろうか?
一人は言わずと知れたリリアンヌ。
気位高過ぎて、自分を持ち上げる者としか会話を楽しまないサロンを開いては居るそうだが。
もう一人はロディア殿下の妹君、アンネリーゼ様。
相応しい、相応しくないの基準で友を明確に区別しては居るが、第一王女殿下なこともあり目下ともよく話す。
…あれ?ダメじゃんこれ?
もし二人が私以外とそれぞれお話になるとしましょう。ね?私、ボッチ確定ではありませんか?
「いやぁぁぁああああああ!!!!!」
セイルの悲鳴は部屋中に響き渡った。




