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20/26

息をするように

お待たせ致しましたぁああ

少し長めです



感想を開放させて頂きました!

より良い創作活動のため評価と共に読者の皆様の感想を是非よろしくお願いします。

 主役であるアンネリーゼ様への視線を奪わぬよう、敢えて次の曲を待つ私とロディア殿下。

 踊り方、ステップからしてアンネリーゼ様に若干振り回されているような気もしなくはないフレデリク殿下を見つつ軽やかな曲が終わると次は私達の番だ。


「殿下。」


 令嬢らしさを溢れさせるアリアデザインのドレスの裾を掴み、気品を漂わせる一礼をしてロディア殿下の御手を取る。


「宜しくお願い致しますね」

「ああ。…少し待て」

「…?はい」


 私を制止するとアイコンタクトでロディア殿下はお兄様に何かを伝えた。

 伝えられた兄の方は準備は既にしてあったようで、殿下の視線の意味を察すると直ぐに箱を持ってきた。

 兄の持つ白く光沢のある高級感を全身で演出した箱を殿下が受け取り、そして私へと渡される。

 品のあるブルーのリボンを解くと中に入っていたのは、靴だった。


「今日のこの時の為に用意した品だ」

「まあ…」

「履き替えて踊ってはくれないか、セイル」

「そのように致します」


 そう、殿下が仰った時には既に私の後ろに椅子と靴べらが用意されていて、用意の良い王宮侍女達に微笑みながら彼女達が靴を履かせてくれるのを椅子に座ってほんの少し待った。


 事前に事細かに靴のサイズを調べ上げていたのだろう。

 無駄の無い動きで靴を履かされ、そのフィット感に驚くのも束の間のこと。

 私はその靴に目を奪われた。


 箱を褒めたのが阿呆らしい程に美しい純白と、装飾に使われているシルクとピンクダイヤモンドとが可愛らしく纏まっていて、今日の為に作られた私の衣装にとても良く合っている。

 ちなみに今日の私のドレスはホワイトピンクとペールオーキッド併せのバラの散りばめられたものだ。

 ほんと、センスが良くてひれ伏したい。



「ありがとう…ございます、殿下。」


 前世なら永劫履ける時など来ない高貴な靴に見惚れ、礼の言葉も覚束なくなりながら、私は殿下に感謝の意を伝えつつ用済みの椅子から立とうとした。

 しかし背中に手が置かれそれを誰かが阻む。

 思わず見ると笑みを零す兄が視線で前を見るように訴えてくる。


 言葉通りに前に向き直ると、…私の前に金髪翠眼のショタ王子が跪いて手を差し出していた。


「お手を。…私の王妃(レーヌ)。」


…誰かカメラ持ってないですか?




○◇○◇




 何処までも透き通る肌と髪に翠と紫のオッドアイを持つ、これ以上無い程人目を惹く美しい少女は柔和な笑みを浮かべる。

 観衆に見守られながらパフォーマンスの一つとして王妃(レーヌ)呼びを行ったロディアの手を、慎ましくあるべき淑女の理想のような表情を崩さず取った令嬢は嬉しそうだ。


 そして楽団が演奏を始めた。


「この靴、とても踊りやすいです。」

「何よりだ。入学祝いに相応しい品でなければとシャルルと考えた甲斐があった。」


 白幻の令嬢が手を取られ踊っているのをロディアも含め誰もが殆ど見た事が無い為、滅多に見ず、直ぐに帰宅の途に着く事で有名な幻の少女が自身の手を取り踊るその時まで入学式に”残っているのか”をロディアは心配していた。


 野望を手放さない祖母に諦めを抱かせるには、リネンハイム公爵家第一令嬢がどれ程王妃として相応しい人間性を持ち得ていて、どの程度第一王子である自分が本気であるかを大勢の前で証明する事が必至だ。

 そうすれば例えアナスタシア侯爵家と王太后と王妃の権力を用いて弾いたとしても、皆の疑念とエスメラルダ侯爵の根回しにより祖母の家系を連ねるのを防ぐ事が叶うから。


 その為にはやはり入学式という一大イベントは見逃す事は出来ない。

 パフォーマンスも同様だ。


 しかし、相手は幻という字が愛称に付く程の引き篭もり。

 だからロディアは臣下であり令嬢の兄であるシャルルに何度も確認をした。

 その結果。


『…殿下は贈り物も迷われておいででしたね。ならば靴を選ばれては?”その靴で踊って欲しい”と仰せになれば、我が妹も決して断れません』


 と呆れた顔で言ったのでその通りにしたのだ。

 シャルルが何度も問題無いと言った通り、未来の正妃候補には物を用いなくてもアンネリーゼの学友に選定された身で逃げ出す気は無かったのだが、そんな覚悟をロディアが知る筈もない。


 そしてそのような経緯を当の本人もまた知る筈もなく、ロディアに向かって呑気に健気に受け答える。


「そのような素振りも見せなかったのに…殿下もお兄様も…それからアリアも隠し事が上手ですわね」


 一言もシェンメイ伯爵家の令嬢が絡んでいると言って居ないのに、ドレスと靴があまりにも合っていた為に推察出来たのだろう。

 靴のサイズを教える位なら誰でも可能だが、王室御用達店と手を組み、リネンハイム公爵家第一令嬢のドレスと靴を揃えられるのは流石にアリアしか居ないからだ。


「さて、」


 公爵家の次代の跡取りであり次期王の学友である事に目を光らせ、娘を連れて挨拶に来る位の低い者達に揉まれながらも、そちらは完全に相手取らずにただひたすらに妹に手を振る軽度のシスコ…シャルルと、靴の礼をと兄に微笑む白幻の少女を交互に見つつ、ロディアは切り替えた。


「私としてはお前にこの靴のエピソードでも語り、貴族社会の習わしに沿って贈り物をしたい所…なのだが」


「いえ、殿下の…御口を噛ませる訳に、参りませんから」


 曲がクライマックスを迎えてスピードが上がるにつれ、舞踏の難易度も上がってゆく。

 余裕そうに話すのはここらで終わり、と令嬢は微笑んだ。




 権力を集約させた場で奏でられる至高の音が反響し、消える。

 技巧を凝らした、大人顔負けのダンスを披露し、拍手を浴びる。


 人々の拍手と賞賛と注目を浴びて、ロディアは隣で優雅に礼をする少女を見た。

 柔かな笑みを浮かべてはいるが、物静かな性格で表舞台に出て来なかった令嬢だ。

 自分は日頃から慣れ、いや、寧ろ親しみこの場を適度に活用しているが、こちらは楽しめているわけではないだろう、とロディアは若干心配をした。

 そうでなくとも王族と応対するのは気持ちの上で苦労が絶えないのに、と自嘲しつつ、ロディアは声を掛けようとした。

 しかし、その声は止まる。

 会話の内容は何でもよかった筈だ。

 その時を機にこちら二人に話し掛けに来ようとする貴族を認めて、その機を失わせる為に二人で何かを話していよう、と。

 それなのに。


「…」

「ふふ」


 セイルは確かに笑っていた。

 時折こちらをチラチラと確認しながら、だ。

 それはロディアがいつも見てきた笑みとは一段違う表情だった。

 これまで対峙してきた令嬢と言えば含み笑いが圧倒的多数を占め、それも権力の権化である第一王子と一瞬でも確かな繋がりを得た事に喜ぶような者が多かった。

 社交の場を冷淡にもそういうものだと見限っていたロディアは、自身に向かって必死に照れ隠しする顔を見るのは初めてで、目を丸くし、そして口を突いて出た言葉は彼自身も驚きの本音だった。

 

「…私と居て楽しいのか?」


「はい」


 ふと聞かれ一瞬戸惑ったように見えたがそんな表情はすぐに薄れた。

 薄翠と薄紫の瞳を恥ずかし気に伏せつつも、迷いや躊躇いの一切を窺わせず彼女は言い切る。


「私は、殿下をお慕い申し上げております。」


 心にズキリと軋みが入るのは何なのだろうか。


 王家の長男に生まれた者として、或いは次期この王国を統べる王になる者として、ロディアはいつだって賢明な判断を下そうと心掛けてきた。

 今この時も私情を挟まずパフォーマンスの事だけを考えている。

 目の前の次の王妃となるべき血筋を持った令嬢の、内面を考えるのは必要に迫られた贈り物を考える時のみだ。

 それ以外などどうでも良くて。

 だからロディアは政略的結婚だと割り切っている。


 なのにこの子はどうした事だろう。

 何の感情も映さない事で有名だったその仄かな瞳に、確かな喜の感情を浮かばせている。

 自分が政略だと割り切っているその結婚に、運命か何か大きな意味でも与えてしまっている。


「…そうか」

「はい」


 静かに笑う白い少女は幻でも何でも無くて、それはただ、ロディアにとって自身に想いを寄せる一人の優美可憐な少女でしか無かった。


 脈があって脈の無い、それがまた憐れにも思える、自分の不誠実さを映し出す白い鏡のような存在。


「……私もだ」


 嘘を吐く必要などまるで無い身分にも関わらずそう呟いてしまったのは、何故だろうか。

 何かに駆られたからなのかもしれないし、或いは初めて受け取った本物の好意に素直に狼狽えただけなのかもしれない。


「ふふ」


 そんな言葉を間に受けたのか受けていないのか、感情のまた解らなくなった白い少女は、ただ目を閉じて微笑した。

セイル『ややややややばかったまずかったほんと危なかったぁぁああああああ王子の足踏むトコだったほんと足、足が、…バレてないよね?バレてない?うん、バレてない?うん、オーケー落ち着こう、大丈夫、大丈夫だ』


チラッチラッ


ロディア「…私と居て、楽しいのか?」


セイル『…は?』

セイル「はい」


ニコッ

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