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転生、したんだけどね?

初めまして。

乙女ゲームモノ初めて書きます。

よろしくお願いします。

白い砂浜を踏みしめた足跡を淀みなき水が押し寄せ覆い隠して連れ去っていく。

極めて透明な水に浮かぶ舟はまるで浮いているよう。


直に降り注ぐ陽射しを深緑が和らげ安らぎの場へと変えてくれる。

春は薄桃の花が咲き誇り、秋は紅橙黄の葉が色付き圧巻の景色を生み出している。


せせらぎの音が、鳥のさえずりが、幾年(いくとせ)過ぎ行きても変わることのない雄大な光景が、癒しの空間を自然と描く。

熱心に釣りを楽しめばまるで玉手箱のようにいたずらに時を奪っていく。


海、山、川。

豊富な資源は未だ底見えず、銅を始めとして多くの鉱山が連なり…果ては金に至るまで採掘は止まることを知らず。

際限なく栄えて1000年。

この肥沃な大地を統括するは歴史深いオーフェルヴェーク王国。


これが私の転生した異世界。


(わたくし)”、セイル・メルヴェイユ・ド・リネンハイム公爵令嬢の住まう場所。




○◇○◇



「御学友、ね」

「はい、此の度第一王女アンネリーゼ殿下がエインシェント王立学院に御入学なさいますので、その為のお付きを付けるとの事で、是非、リネンハイム公爵の御令嬢であらせられるセイル・メルヴェイユ様にと白羽の矢が立った次第でして………とセイル様の事を熱く語っておりましたわ!」



得意げに、誇らしげに私の事を話す侍女アリア・シアーテ・ド・シェンメイ。

先程いらした王宮からの使いの言葉を一字一句間違えず、さくらんぼのような柔らかい赤の目を煌めかせ、ツインの長い桜色の髪を揺らしながら話す様子はとても嬉しそうだ。

一方で私は参っていた。



「…ふぅ……」

「セイル様、そうお気を落とさずに。これは一世一代のチャンスですよ?!なんたって第一王女殿下の御心を掴む事はその兄であらせられる第一王子殿下の御気持ちを射止めるのにも重要なことなのですから!」

「それが…問題なのですけど、ね…」



生前やっていた乙女ゲーム”lapisラピス lazuliラズリ

私は事故で呆気なく死んで生まれ変わった世界がなんとそこで驚いたのを今でも忘れない。

…ただ、一つ重大な問題を抱えている。


それは、”セイル・メルヴェイユ・ド・リネンハイム”公爵令嬢という登場人物などlapis lazuliに存在しない、ということだ。


生まれてそして今いる国名や、王子の名前などを侍女に聞いて、確かに私は歓喜した。

だがその主人公はピンクゴールドの美しい髪にゲーム名にもなっているラピスラズリの宝石のような美しい瞳を朗らかで優しげな顔に嵌め込んだ美少女なのだ。


対する私は髪は白銀、目は限りなく白に近い紫と限りなく白に近い緑のオッドアイ。

生前の、エンディングを迎えて画面が暗くなった時に反射して映った顔に絶望したあの頃とは比べ物にならないくらいの顔だが、だからと言って王子を侍らせて幸せになれる主人公とは程遠い。

はっきり言って、誰おま状態。


そんな私が原作の、然も一番人気のイケメンでのちに王太子となる第一王子ロディア殿下とくっつく。

有ってはならないことだ。

主人公を差し置いてロディア様担でもない自分がくっつくなど言語道断、ロディア様担に殺されるのは目に見えている。

だからどこかに居る主人公とロディア様がくっつくのを出来ることなら傍観者の一人としてにやけながら眺めていたい…そう思うのだ。

しかし、そんな私の切実な想いをぶった斬る肩書きが私には付いている。


”リネンハイム公爵家”


…王の血を受け継ぐも王位に就くことはなく、第1級の臣下としてその名を深くオーフェルヴェーク王国に残す、歴史深く由緒正しき高潔な家柄。


当然の如く一般人には天の雲より高き家柄として崇められ同時に恐れられてもいる。

そして子爵男爵家など貴族でも話し掛けることすら出来ぬ存在。

気軽に挨拶に来ることすら出来ぬ、(まさ)に手の届かぬ名家。

今、私の世話を焼いてくれているアリアが伯爵家の三女であることからも、私の家の位がどれだけ上から数えた方が早いか分かることだろう。


まして私はその長女。

第一王子殿下とも歳は近く、家の位を鑑みて言えば最も王太子妃に近い存在。

きっとこれを当然のことと思っている私のお父様は第一王女の御学友のお誘いを蹴ることなどしないでしょうし、喜んで私に付いてくる侍女の選別を始め…いえ、既にやり終えていることだわ。

…溜息が出る。



「アリア、支度をお願い」

「はい!セイル様、ええと…」

「勿論。お父様の所へ、ね」




○◇○◇



「階段です、お気をつけてお降り下さい。」



執事に手を取って貰いながらゆっくりと階段を降りる。

今、広い廊下をアリアとその後ろに続く5〜6人を連れて歩いているのだ。

余りに広い豪邸なのと、どこのドアも同じような色形をしている為、先頭はこの家を私よりも知り尽くす私の専属執事、シアン・ド・カネツザが行ってくれている。


シアンもカネツザ伯爵家の四男という高貴な生まれを持つ少年で、執事服を着こなし、銀の真っ直ぐな髪を後ろでさらりと結い、アメジストの優しげな目で私の事にすぐ気付いてくれる。

完璧な立ち居振る舞い、凛としたしかし穏やかな声、優しげな顔、どれを取っても非の打ちようもない。

素晴らしい…何故lapis lazuliに居なかったんだろうと言うほどの私などには勿体無いイケメンだ。

私の寝室、トイレやお風呂やウォークインクローゼット室には入れないが、それ以外では殆ど一緒に居る、アリアと同じくらい大切な私の従者。


アリアの後ろに続く者達も皆伯爵家ではないだろうが、リネンハイムの遠い縁戚の令嬢だったり子爵家正妻の長女だったりと、それなりに格の高い者ばかりだという想像は容易い。

想像なのは、余りに多い侍女の顔や名前など覚えられないからであり…それに加えて家格など更に家名など知る余地もないからだ。

頻繁に入れ替わっているような…いないような。

兎に角この家は規模が大き過ぎる。



「セイル様、到着致しました。」

「ありがとうシアン。アリア、私の髪は大丈夫かしら?」

「今お直しを……はい、出来ました。」

「では、参りましょう…

お父様、セイルです。」

「入りなさい」



ノック、そしてその後のドアを開けるのをその他の侍女の内2人にしてもらい、私はその2人の顔を横目で見て微笑み、父に向かって一礼して部屋へと入った。

父の私的な応接間だ。



「ああ、よく来たセイル。」

「…下がらせましょうか?」

「いや、この件は秘密裏に行うことでもない。寧ろ関係があるから聞いてもらう方が好都合だ。」

「分かりました。アリア、シアン、私の後ろに。それ以外は待機なさい。」

「「「畏まりました。」」」



父は運良く機転を利かせることの出来た私を見て微笑んでいる。

父は茶金の髪を撫でつけ掛けただけで知的に見えそうな眼鏡をしている。

老けてはおらず若々しい。

当然だ、その父の長女である私はまだ10歳なのだから。

そうして他の侍女が部屋を退出し、私が対面のソファに腰掛けたのを見て父は話を切り出す。



「朗報だぞ。お前にはアンネリーゼ第一王女殿下の御学友としてエインシェント王立学院に入学してもらうこととなった。…その顔は既に聞き及んでいるな?」

「はい、お父様。(わたくし)には優秀な”耳”が居りますので。」

「耳…か、シェンメイ伯爵はいい御息女を預けて下さったものだ。」

「もっ、勿体無き御言葉です…」



突然話題にされたアリアはふしゅ〜という音を立てて顔を真っ赤にして縮んだ。

それを見てまた父は笑う。

耳がアリアであることに家族間での一致があるのは、アリアが噂に耳を傾けたがる性格だということを把握しているからだ。

今日は随分と機嫌が良いらしい。

この隙に話の邪魔にならぬように完璧なタイミングでそっと紅茶を置いた者が居る。

アスターだ。

アスター・ド・カネツザ、彼はシアンの叔父で父付きの従者なのだ。

シアンは空いた時に手解きを受けているらしい。

いつかこのような完璧な執事になりたいのだと。



「知っての通りエインシェント王立学院は全寮制だ。受けてしまえば連休中を覗いてこちらには帰ってくることは出来ない。大切な娘と別れるのは私も辛い。だがこれも本家(王家)分家(リネンハイム)の為。堪えてくれるな?」

「はい、お父様。」

「…いい子だ。では決まりだな。

カネツザ伯爵家四男シアン、

シェンメイ伯爵家三女アリア、

お前達2人をセイルの主な従者として連れて行くことに決めた。

王族に触れる機会も多いことだろう。絶対に粗相などするな、私のセイルに恥をかかせるな、…いいな?」

「「はい!!」」



2人は60°のお辞儀を持って父の命令に恭順の意を表明した。

公爵家当主である父は威圧を以って接すると心臓に悪い程怖い。

特に、名前を呼ぶ前に家名を呼ぶことで責は実家まで及ぶと示す辺り。

冷や汗をかく二人を見て応援しながら、私はフォローを入れた。



「お父様、二人とも優秀な(わたくし)の忠実なる従者。ご心配には及びません。」

「そうか、セイルが太鼓判を押す程か。期待しているぞ。」

「「はっ、はいぃ!!!」」



二人は更に萎縮し声を上ずらせ冷や汗をダラダラと流しながらソファーよりも背を縮ませた。

ように見えた。

父の信は喝よりも恐ろしいと見える。

ごめん、フォローにならなかったっぽい。



「その他の侍女は秀でた者を既に選別しておいた。あと、セイルがすべきことといえば…」



(あらかじ)め、仮に選ばれなかったとしても問題のない部分のすべき事はしておいた父は、これからの準備に思いを巡らせた。

具体的に私が想像できる事は……



「アンネリーゼ殿下との顔合わせ、かしらね?」



背後から声が聞こえ、思わず振り向く。

公爵家長女と公爵家当主のこれからを決める重要な私的会議。

その部屋に二人の了承も得ずに入って来られる人物。

または入ろうとしても外で待機をしている侍女と護衛兵、その誰しもが止めなかった人物。



「お母様…」



それは、本来ならこの邸宅に居てはいけないはずの人であった。


*王国歴史3000年→1000年に変更しました。

*主人公の瞳の色、その他の侍女の家格、ルイの応接間への主人公の入り方、を変更しました。

*アリアについての表現を増やしました。


評価、お暇であればよろしくお願いします。

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