舞い降りた天使
「ねぇ真斗?」
「何、姉ちゃん?」
「真琴ちゃんって運転上手いわね…」
「うん、なんか安心感がある」
(結構スピード出すのにな)
「あれは相当な腕前だわ」
(私より絶対上手い!)
「そう…」
そう適当に答えながら真斗は外の景色を見ていた…。
(マコが女の子…か、なんで気付づいてやれなかったんだ…。
あいつは俺に何度もサインを出してたのに
…誕生日だって毎年プレゼントを贈ってくれたし、
バレンタインのチョコだって…
なんで俺は気付かなかったんだ…。
変だとは思ってたし、女の子だったら可愛いだろうなって思ってた…でも、
まさか本当女の子だとは思ってなかった。
クッソ…俺はなんてバカなんだろ…)
「ねぇ真斗…
自分を責めなくていいんだよ?」
「…えっ?
…なんで分かったの?」
「…真斗が泣いてるから…」
(そのとき俺は自分が泣いているコトに気づいた…)
真琴ちゃんは気づいて欲しかったんだよ?
だからこれでいいのよ
…真斗はちゃんと気づいてあげたんだからね…。
まぁ時間は掛かったけど…」
「姉ちゃん…」
「ホラ、泣かないの。男の子でしょ?」
そう言って真子は泣いている真斗にハンカチを渡す…。
「姉ちゃん…ありがと…」
(まったく…真斗はいつまで経っても泣き虫なんだから…)
「お礼は真琴ちゃんに言いなさいよ?」
「うん…」
それからしばらくして、
二台は真斗と真子の実家に着いた。
真斗は車を降りる、すると真琴が
「ねぇ真斗、どこに停めたらいい?」
実家には駐車場が二人ある。
「えっと…
もう一つ駐車場があるから案内するよ」
「先に入ってるわよ〜」
真子はそう言って家に入った。
真斗は車に乗ると、
道案内をして駐車場に車を停める真琴を見て思った…
(やっぱ上手い…)
車を降りて歩く二人…
「なぁ…マコは何年車に乗ってるんだ?」
(確かアメリカでは16歳からだよな…)
「えっと…4年かな?」
「は、2年!?」
(てーコトは16歳から?)
「うん、
お兄ちゃん車好きだから…。」
「でも…なんで?」
「それはね…」
話は2年ほど前に遡る。
家族でサーキットに行ったときのコト…
兄の先輩のレースを見た後の真琴は興奮していた。
そんなときに兄の先輩から真琴に
「隣に乗ってみないか?」
という冗談混じりの声が、
真琴をこの世界へと導いた…
「乗ってみたい!」
すべてはその一言から始まった。
(スゴい…こんなに速いのに、楽しい!)
真琴を乗せた車はストレートをかっ飛ばして行く。
「怖くないかい?」
「うん、…もっと…」
(えっ? 今、もっとって…
普通の女の子ならやめてって言うのに、
…面白い子だ)
「わかったよ。
怖かったら言ってね」
そう言うと先輩は、
全開で攻める…
イヤホンを伝って聞こえる真琴の
「もっと…もっと速く」と言う声
(何て子だ…コイツでこんなに攻めてんのに…もっと速くって、
…これからが楽しみだ。)
真琴は新たな世界を知り、夢中になった。
カートを始めて、
1年でチャンピオンになり…免許を取る…
真琴の負けず嫌いな性格は彼女を新たなステージへと導いた。
次々と男の子達を負かしていく彼女は、当然注目された。
…舞い降りた天使…
これが彼女の遠り名である。
「…それからボクは、次なるステージを求めて…日本に…」
「…そんなに速いのに日本?」
「実は、
あるチームから声が掛かって…
今はまだ言えないけどね…」
「…そっか…
上手いワケだわ」
「…ありがとね」
「俺さ、
小さいショップでバイトしてんだ。
そこのオッサンが言ってたよ…
『アメリカに、天使が舞い降りた』って…マコのコトだったんだな」
「えっと…たぶんそうかもしれない」
(…おじさんったら…)
「どうした…顔真っ赤だぞ?」
「えっ、何でもないよ」
「ふーんそっか…
着いたぞ。」
「懐かしいな、この家…」
「変わってないだろ?」
「うん…」
そのとき声が聞こえた…
「お兄ちゃん〜
お姉ちゃん〜」
そう言って走ってくる女の子…
優美ちゃんだ!
(でも、お姉ちゃんって…誰だ?)