8.[12月3日]終?
前回の続き。
[注意]この章では作者の偏見や思い込みが含まれた描写が多数あります。気分を悪くされる方がいるかもしれません。それを承知の上で、お読みください。
十一月に坂月高校に転校してきた関西弁の少女・吉槻。花川春樹は彼女と遭遇した不愉快な悪戯の犯人を追う。
一方、水城悠貴は真鈴が複数の女子生徒から攻撃されている事実を知る。問題解決に向け、彼は行動する。
・水城悠貴*長身で余裕があるように見えるが気弱な一面も。
SIDE 水城
十二月に入ったある日。
「帰り道の買い食いは駄目だって言ってありませんでしたっけ?」
そう真鈴がおどけた調子で言う。水城は「そんなこと言わないでよ」と笑って返した。
いつか水城、真鈴、井口で来たファストフード店の二階にいた。前回と違うのは、三人ではなく、水城と真鈴のふたりだけだということである。帰り道、ひとりで歩いている真鈴と遭遇した。水城が井口と手を組むようになってから、何度か真鈴とメールでやりとりをしていたが、思い返せばこうやって水城が真鈴と直接話したのは久しぶりだ。少し話したいこともあり、水城のほうから寄り道に誘ったのだ。
それぞれのアップルパイとジュースを挟んで、ふたりは窓際の席に座っている。大きく切り取られた窓の外に目をやれば、通行人がちらほらと見える。同じように制服を着ているひとも多い。
外の風景から目を離して、水城は真鈴を見た。
「それはそうと、最近はどうだい。色々と」
真鈴はアップルパイの包装を解きながら、ひとりごちるように言う。
「随分抽象的な質問だねえ……。そうだね」
口元にパイを運んで静止する。真鈴の目が宙をさまよっている。
「まあまあ、かなあ。楽しくやってるよ。三週間前よりはずっと」
真鈴がアップルパイをかじる。その言葉に嘘はなさそうだと水城は感じた。水城が真鈴に訊きたいこと――それは真鈴が今もキリタニら女子グループのターゲットになっているのか、である。
自分の唇を舐める。真面目そうなトーンの声を作る。
「単刀直入に聞いていい?」
相手は首を傾げて、水城の言葉を待っている。
「あれから、キリタニに何かされたりはしてない?」
自分の心拍数が急上昇したのを感じる。真鈴が口を開くのを待つ。
間を置くことなく、真鈴は顔に笑みを浮かべた。
「全くないよ。二週間前からぱったりとなくなった。……心配していてくれたんだね。ありがとうございます」
虚言ではないようだが、念を押しておく。
「本当? もし、また誰にも言うなと脅されているのだとしても、こっそり教えてよ」
「ありがとう。でも、水城くんが心配しているようなことはなにもないよ。たぶん、これからもね。みんなのおかげだよ。
……まあ、キリタニさんたちとすれ違うときはちょっと怖いけど」
一点の陰りのない表情に、水城は胸を撫で下ろす。――よかった! ほとんど僕はなにもしていないが、それでも、真鈴さんの力になることができた!
「ところでさ」
真鈴が楽しげに話題を切り替えた。
彼女の話に受け答えしながら、水城は井口との約束通り、もうすぐ真鈴から離れないといけないんだな、と考えていた。
続きます。




