☆俺たちは天使だぜ!☆ Season2 番外編【約束】
黒澤ユリの死をきっかけに起こった様々な事件……。
あれから2週間。
ボッサンは2日前、荻野目探偵事務所のメンバーに迎えられ、大騒ぎして退院していった。
今日はユオの退院する日だが、誰1人として迎えに来ない。
「なんだろな~、この虚しさ。大活躍したヒーローの退院だってのに、誰も来ないじゃん!ボッサンにメールしたのにな~」
ユオは、川越から出て来て東京で1人暮らし。親も迎えに来ない。
1人寂しく病院を出てトボトボ歩いていると、後ろから声がした。
「ちょっと待ちなさいよ!」
ユオが振り返ると、入り口の横に、腕を組んで壁に寄り掛かっているエリカがいた。
「あれ?エリカ、どうしたのこんな所で?」
ユオが不思議そうな顔をしながらエリカに近づいていくと、エリカは壁から離れながら言った。
「何がどうしたのよ!せっかく迎えに来てあげたのに!あたし帰る!」
エリカはクルッと向きを変えると、スタスタ歩いていった。
「ちょ、ちょっと待って!今日退院ってよくわかったね」
エリカは立ち止まって振り返ると、また戻ってきた。
「ボッサンに電話したら教えてくれたわ。それよりユオ、約束を忘れちゃいないでしょうね!」
腰に手を当てて問い詰めるエリカの前で、ユオは空を見上げて考えた。
「えっと…… なんだっけ?」
「ほら~、やっぱり忘れてた~!無事に逃げられたら何かご馳走してねって言ったじゃない!」
「あ~、そう言えばそんな事言ってたっけ」
ユオがすっとぼけて言い放つと、エリカはユオの前まで来て言った。
「あ~、そう言えばじゃないわよ!快気祝いも兼ねて、何かご馳走しなさいよね!」
「快気祝いって、僕が貰うんじゃなかったっけ?」
「ごちゃごちゃ言ってないでさっさと行くわよ!」
エリカはユオの腕を引っ張って歩いていった。
物陰から2人を伺っていたその男は、2人の後を追っていった。
ユオとエリカはタクシーに乗り込んだ。
「あんまりお金持ってないけど、何食べたい?」
ユオは財布の中身を覗きながらエリカに聞いた。
そしてエリカは満面の笑顔で言った。
「ディズニーランド行きたい!」
「え?何か食べるんじゃ…… 」
「運転手さん、ディズニーランド行って!」
エリカは身を乗り出して運転手に言った。
運転手はルームミラーでエリカを冷やかな目で見た。
「お客さん、結構料金かかりますよ」
エリカはポケットからカードを出して運転手に見せた。
「20分で行ったら倍払うわよ」
「アメックスのゴールドカード!お嬢さん、掴まっててくださいよ~!」
タクシーは猛スピードで走り出した!
その後を追う1台の車。
ディズニーランドには19分で着いた。
「結構スリリングだったわね。さ、行きましょ!」
早速行こうとするエリカの腕を、ユオは捕まえて止めた。
「ちょっと待って~。ご飯食べると思ったらこんなトコ来ちゃってさ~。これじゃまるでデートみたいじゃない?」
「見たいじゃなくて、デートよ!悪い?イヤならいいのよ!」
顔を赤らめながらソッポを向いて開き直るエリカは、よく見るとお嬢様っぽい可愛いファッションで決めていた。
「……よし! じゃあ行こうか」
ユオが歩き出すと、エリカはユオの腕にしがみついた。
「やったー!」
2人はチケットを買い、ゲートをくぐっていった。
その後を付け狙う3つの影。
スペースマウンテン、ビッグサンダーマウンテン、スプラッシュマウンテンと、絶叫系を乗りまくった。
悲鳴をあげながらエリカの手はユオの手を握りしめていた。
お昼はハンバーガー。
ユオの口元に付いたケチャップを、エリカは指で取ってペロッと舐めた。
バズ・ライトイヤーのアストロブラスターでは、2人で夢中で光線銃を撃ちまくった。
ホーンテッドマンションでは、オバケが苦手だというエリカの意外な一面が見れた。
エリカはユオにしがみついたまま離れなかった。
エレクトリカルパレードでは、ミッキーに大声で手を振っていたエリカ。
楽しい時間はあっという間に過ぎた。
「今日はとっても楽しかったわ!」
「僕もこんなに楽しかったのは久しぶりだな~」
ユオとエリカは肩を並べて帰りのゲートを出た。
ユオは急にエリカの前に立ちはだかり、エリカの両肩を押さえて真剣な顔になった。
「エリカ!僕と……」
「あのね…… 」
エリカはユオの言葉を遮った。
そして、うつ向いたまま話し始めた。
「あのね。私、ゴルフ留学でオーストラリアに行くの」
「え?」
エリカの口から出た予想外の言葉に、ユオはエリカの両肩から手を離した。
「私、中学の時からゴルフをやっててね、一応プロを目指してるの。そのために、一年間オーストラリアでゴルフの勉強するの。もう前から決まってた事なの。だから、ユオに逢えるのは今日で最後。色々あったけど、最後にいい思い出が出来てよかった」
顔を上げたエリカの笑顔は、目が潤んでいた。
「日本は、いつ発つの?」
「明日よ。だから今日逢えてホントによかった」
ユオはガックリ肩を落として、何も言えなかった。
そんなユオを見て、エリカは涙を拭きながら笑顔で言った。
「今日の分は貸にしといてあげる。その代わり今度会った時に…」
そう言ってエリカは、ユオの耳元で何か呟いた。
それを聞いたユオの顔は急に赤くなった。
「それじゃあ元気でね!私電車で帰るから。後ろの3人にもよろしく言っといて。じゃあね~!」
そう言うとエリカは、ユオに手を振って走って行ってしまった。
走りながらエリカの目からまた涙がこぼれ落ちてきた。
エリカは、親の引いたレールの上を進むしかなかった。レールに乗ってしまえば、ユオにまた逢える確率はゼロに等しい。
だから最後にあんな事を言って、無理矢理にでもユオとの”糸”を切りたくなかった……
ユオはエリカの後ろ姿を見送りながら思った。
「後ろの3人?」
ユオが振り返ると、3つの人影が物陰に隠れた!
ユオは近づいていって腕組みをしながら言った。
「ボッサン!オッパイ!アオイ!出てきな!」
物陰から渋々出てきたのは、ユオのいった通り、ボッサンとオッパイとアオイだった。
「バレちまったんじゃ~しょうがねぇな」
ボッサンが頭をかきながら言った。
「いつから後をつけてた~?」
「ユオがエリカに、『ちょっと待ちなさいよ!』って言われた辺りやったかな?」
オッパイがとぼけて言った。
「え?病院から?」
ボッサンがエリカに、ユオの退院する日を聞かれた時に、
「ユオとエリカの恋の行方を知っとく義務がある!」
と、勝手な言い訳をこじつけて2人を監視していたのだ。
「おいユオ。さっきエリカに『その代わり今度会った時に…』の後、耳元で何て言われたん?」
オッパイとボッサンとアオイがユオに詰め寄ると、ユオは言葉を思い出して
「言えない言えない、絶対言えない!」
「言わんかい!このボケが!」
ボッサンにリアルCQCを掛けられながらユオは思った。
『その代わり今度会った時に、あのホテルで貸を返してよね♪』
は絶対に言えないと……
【約束】END
※尚、この物語に対してのクレーム、さらにリクエストは一切受け付けません。
悪しからず。