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ふゆのさくら  作者: 舞桜
第二章
8/24

02風邪

「う? しんどい……?」

 それは本当にいきなりのことだった。

 いつものように学校に行くために、眠たい目をこすって体を起き上がらせた佑奈を襲ったのは、凄まじい頭痛。

 熱く火照った体が、とても重い。

「あれ、風邪ひいたかな……」

 よろよろ、とベットから降り、階段を下って、リビングへと向かう。

 台所で作業をしていた母が、振り返った。

「おはよう、佑奈。どうしたの?」

「いや、なんかびっくりするぐらい、しんどい」

 薬箱から体温計を探しだし、ソファーにごろんと寝転がって、タイマーが鳴るのを待つ。

 ――ピピピ。

 ぼぉっとしながら待つこと、五分でタイマーが鳴った体温計をおもむろに取り出す。

「おっかさーん。大変、三十八度だわ」

「休んでおきなさい。さっさと二階に上がって。学校には電話しとくから。うつさないでね」

「なんて冷たいおっかさん」

 しっしと邪魔者扱いのように追いやられ、しぶしぶと階段を上る。

 いつもより二倍遅いスピードでベッドにたどり着くと、そのままうつ伏せにころがって目を閉じる。

「あーうー……しんどい」

 体が重くて言う事を聞かない。

 ずるずると体を引きずるように、布団にもぐりこんで、手さぐりで携帯を探す。

「んっと、とりあえず葵に連絡……」

 佑奈の記憶はそこで途切れていた。

 気絶したように眠りに落ちた佑奈を刺激したのは、布団越しに伝わる振動だった。

「――…うっ……?」

 重たい瞼をあけ、携帯を探し、力の入らない手で開ける。

 メール受信、葵衣、と書いてあった。

「あ、メールしてなかったんだ……」

 時刻はちょうど昼休みをさしている。

 おそらく教室にいない佑奈を心配してメールを送ってくれたのだろう。

「風邪引いたぁ、休んでます、と」

 それだけ打ち終わると同時に、またケータイが受信画面へとうつる。

 誰からだろう、と待っていると、画面の上に翔、と表示が出た。

『もしかして今日、休んでる?』

 いつも30分遅刻ぎりぎりに登校する佑奈は、よく翔とげた箱で出会っていた。

 ――今日はいなかったから不審に思ったんだろうなあ。

「風邪引いちゃった、だけでいいか」

 佑奈は二通のメールを送り終わると、再びに目を閉じる。

 眠気はすぐによみがえっきて、佑奈はすぐに寝息を立てた。




 たちの悪い風邪にかかったのか、佑奈の体調は三日目までつづいた。

「うへぇー。風邪で学校休みたいとは思ってたけど、これはこれでしんどい」

 暇だけど、何をする気もおきない。

 初日に比べたら、だいぶ楽になったと言えるが、それでも絶好調とは言えなかった。

 あと二日もしたら、修了式があって夏休みが始まる。

 それまでには、元気に学校に登校したいと思うようになってしまった。

「学校なんて、大嫌いだったのになぁ……:

 もう三日間も葵衣と会ってない。

 もう三日間も〝猫〟をみてない。

 もう三日間も翔と話してない。

「どれが、さびしい、ん、だろねぇ」

 ベッドのなかでごろごろと転がっては、頭痛がよみがえり眉間にしわがよる。

 そして寝て、すぐ起きて、を繰り返していくうちに、その日も時間が過ぎていく。

 ――ブーブーブー……。

 今日、何回目かのバイブ音が布団に伝わる。

 翔からだ、とひらける前に分かっている佑奈は、急いでメールを開けた。

 別に特別な内容ではない。

 ただただ、日常の話をするだけのやりとりが、佑奈が学校を休んだ日から続いている。

 けれど佑奈にとってはそれがすごく楽しいものにかわっていた。

「元気だよ、明日には行けそう……っと」

 どんなに頭が痛くてしんどくても、翔の言葉一つで元気になれる気がした。

 今は〝猫〟からのメールを待つより、翔のメールを待つ方が胸が高鳴っている。

 ――まぁ、〝猫〟からメールなんてくるはずないけどね

 またごろごろと回っては、頭痛がぶり返し、翔からのメールで元気になる。

 そうしているうちに眠ってしまったのか、佑奈が次に目を覚ました終業式当日の朝7時だった。

「おっ! 元気かも!」

 寝間着がじっとりと汗でぬれている。

 佑奈は冷えてしまう前に、シャワーへと急いだ。

 十分に体を温かめ、しっかり汗を流す。

 昨日までのしんどさは、どこかに行ってしまったようだ。

「いやぁ、元気なことが紺に大切なことなんてねぇ」

 湯ざめをしてしまう前に、さっと全身を拭き終わった佑奈はすばやく制服に着替えて、リビングに顔を出す。

「おはよう、佑奈。体調は?」

「ばっちり! 学校行く!」

「はいはい、よかったね」

 昨日寝落ちをしてしまった翔に、今日はいけそうだよ、と返信してから、三日目から放りっぱなしだったかばんを手にとり、早速玄関へと向かう。

「ちょっと佑奈、ごはんは?」

「あ、忘れてた!」

 と、同時にお腹の虫がいばりだす。

 佑奈は大急ぎでかばんを放り、食卓に座った。

 ここ三日間は食欲もわかなかったため、ただのほくほくの白米でも御馳走のようにおいしく感じられた。

 一口食べるたびに、そのおいしさを味わう佑奈。

「んー、うっまー! やっぱり白米はいいね!」

「そうだねぇ。で、邪魔するようだけど、そんなにゆっくり食べてて大丈夫?」

「はっ! もう8時じゃん! 遅刻するぅ!」

 佑奈はまたもや急いで残りのご飯を口に頬張る。

 元気になったとたん騒がしい子だと、佑奈の母はそっと息をつく。

「では、いってきます!」

「はいはい、いってらっしゃい。病み上がり何だから無茶しないように」

「はーい!」

 そうして久しぶりに外へでる。

 佑奈は思いっきり伸びをしてから、夏の眩しいひざしの中を元気よく出ていった。

 ――その2、3分後。鞄を忘れたころに気付いて慌てて取りに帰ってきたアホ娘に、母親が頭を抱えたのは言うまでもない。


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