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ふゆのさくら  作者: 舞桜
第一章
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03佑奈の幸せ

久しぶりのバイト休み。

時間が刻一刻と進み、もう五月を迎えた。

外に出るたびに目に入った桜の木はもうその花を全て落とし、寒そうに、しかし確実に

次の準備をし始めている。

そんななか佑奈は、ショッピングセンターのフードコートの机に、うつ伏せになっていた。

「れいぃ」

「なんや、佑奈」

「おなかすいたぁ」

「金ない」

 今日一日、正式にいえば、この数分間で何回このやりとりをしただろうか。

 空腹に灰人と化す佑奈の隣をまた、おいしそうなポテトをのせたおぼんが通りすぎていく。

 その度に香ってくる匂いに、さらに机に頭をめり込ませる佑奈を撫でているのは、仲れい。

 生まれが大阪なため、関西弁が特徴的なれいは、佑奈より一つ年上だが幼い頃からの付き合い、幼馴染みだ。

 今は高校が違うため、あたり会えていなかったが、佑奈にとっては先輩というより同年代の友達のように接することができる相手だ。

「大体ねぇ、れいが白熱してあんなにお金つかうから!」

「人のせいにするな。佑奈もノってたやんけ」

 タイミングよく机に置いていた佑奈の携帯が震える。

 開けてみるとメールの受信表示。クラスの仲の良い男子からのようだ。

佑奈は何気なくそのメールを開けて、固まった。

「佑奈? どしたん」

れいが、いまだ固まって身動き一つしない佑奈の手から携帯を奪い取り、画面を見るなり、なるほどと呟いた。

『彼女とご飯なうぅ(笑)』の、本文とともに、おいしそうなハンバーグの写真。

 タイミングが悪かった。

「れい」

「なんやー?」

「今の心境を同時に叫びません?」

「ええで。せーの」

『リア充爆発、ばんざーい!!!!』

 叫んだ瞬間、向かいの席のカップルがびくっと肩を震わせる。が、今はお構い無しだ。

「なにこいつ! いいから! そういう報告、いちいちいらないから!!」

「まぁお疲れさんやなあ」

「(笑)って! なに(笑)って!!」

「まぁまぁ、落ち着けって佑奈」

「れいも叫んだくせに!」

 うわーんと再び机にうつ伏せになる佑奈と、やれやれとため息をつく北山。

 そのあと気まずそうにやって来た店員さんに「他のお客様もいらっしゃいますので」と注意をうけ反省。

「ねぇ、れい?」

「はいはい?」

 切り替えるように、佑奈は体を起こし北山と向き合った。

「私、〝猫〟が好きなんだ」

「おう、何回目やねん」

「だけどね、考えたくないけど……帰ってこない可能性だってゼロじゃない。そんなこと気にせず、〝猫〟を待てたらいいんだけど」

「そんな勇気、ないんやろ?」

「……うん」

悩む妹を見つめる姉のような優しげな眼差しで、佑奈を見つめるれい。

昔からなんやかんやと抱え込む子やったなぁ、と口のなかで呟いてから、そっと佑奈の頭を撫でた。

「佑奈がしたいようにすればええ。待ったらええやん? 待ちながら、次の人探したらええねん」

「……そ、そんな卑怯なことしちゃうの?」

「こんなええ子を手放した罰や。それくらい許されるやろ」

な? とドヤ顔で佑奈に胸を張る。

あまりの思いつきと、得意げな顔に佑奈は思わず目をまるまると見開いた。

「よくそんな発想できるね、はる」

「任せとけや」

「……いいのかな、そんなことして」

「ええねんて。次は佑奈が、佑奈自身の幸せを見つけや」

「私、自身……?」

「せや。佑奈の今の幸せはなんや?」

今の幸せ。佑奈はその言葉をひとつひとつ噛み砕くように頭で整理させ、しばらくじっと黙ってから、口を開いた。

「――〝猫〟の、幸せ」

「そう言うと思った。でも〝猫〟はんの幸せは、嫌な言い方かもしれんけど、叶ってるやん」

 少し悲しそうに小さくそう呟いたれいに、顔が見られないよう、そっと顔を下げる佑奈。

 わずかに歪んでいく視界をなんとか元に戻そうと、まばたきの数が多くなる。

「……そう、だね。少なくとも今は幸せだろうね」

「やろ? でも〝猫〟はんの未来の幸せは佑奈の隣かもしれん。そう思うから、佑奈は待ってるんやろ?」

「うん」

「じゃあ、次は、佑奈が今の佑奈の幸せを見つけや。あんたの未来の幸せも同じように〝猫〟はんの隣なんやから」

こらえきれずに流れ出た涙をそのままに、佑奈は静かにれいの言葉に耳を傾けていた。

今の幸せと、未来の幸せ。

未来の幸せは分からないが、〝猫〟の今の幸せはもう見つかっている。

あとは佑奈だけだった。

「――分かった。私、頑張るよ」

「おう、頑張れ」

いまだに顔を上げず、じっと涙を流す佑奈の頭をもう一度撫でてから、北山は鞄をあさった。

「うちはずっと佑奈の味方やからな」

 ありがとう、声にならない声で小さく呟く。

お互い、泣きそうになる顔を無理やり笑顔に変え、パチンと手を叩きあった。


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