01幸せ
「――…うな、おい、佑奈! いい加減起きろ! 遅刻するぞ!」
「むにゃぁー」
「むにゃぁーじゃねぇ! おきろ!」
「……夢を見てた気がするぅ」
「夢? どんな」
「んー」
思い出せそうで思い出せない。
でも、幸せな夢だったのは覚えている。
それだけで、十分な気がした。
眩しい光が瞼の奥を刺激する。
もぞもぞとその光から逃れるように、布団の中に顔を潜らせた。
「おい! いくら昨日が締め切りで大変だったとは言っても、今日、遅刻とかばかにならねぇから早く起きろ! 朝だぞ!」
「……きょぉ?」
「今日は大切な日じゃねぇかぁ! まさか、お前、忘れたわけじゃないよな」
「……ぬ?」
今日は何日だったか、と寝ぼけた頭を働かせる。
そして、今日が春の温かさに包まれる四月の十一日だと気付いたと同時に、佑奈はがばっと起き上った。
「ちこくぅー!」
「まだ間に合うから早くしたくしな。朝飯、おいてるから」
「さっすがぁー! 気がきくねぇえ」
お前は自覚が足りなさすぎだ、という怒号は右から左へ。
佑奈は急いで支度をし、必要な書類を何度も確かめながら鞄に中に詰める。
「このころに比べたら、髪、のびたな」
机の上に書類を出し、丁寧に鞄の中に詰めている佑奈の髪をなでながら、彼は言った。
「このころ?」
肩をすぎる髪を耳にかけあげながら、佑奈は振り返る。
彼は、「ん」と指をさした。
その指の先をたどると、二枚の写真。
懐かしいあの頃の佑奈がいた。
一枚は、今日久しぶりの再会を果たす、一生の大親友とのツーショット。
もう一枚は、大切な人たちとともに撮った集合写真。
少し幼さが残る佑奈の隣には、同じように幼さが残った彼の姿。
そしてその二枚の写真を大事に持つように、ライオンの小さなぬいぐるみがおかれていた。
「長かったようで、あっというまだったね」
「ああ、あっという間だったな」
「いろいろあったけど。あなたの隣に立てて嬉しいな」
「……俺もだ」
ちゅっと額にキスが降る。
佑奈は嬉しくなって、彼にぎゅうっと抱きついた。
春の風の匂いがした。
「これからも、よろしくな。佑奈」
「うん。愛してる」
「俺も、愛してるよ」
そっと目を閉じる。
何度も重ねてきた唇だったけど、やっぱり今日は特別だった。
おそらく、今日の夜にはライオンのぬいぐるみの抱える写真が一枚増えるだろう。
そこには、白い服に包まれた佑奈と彼が笑っているはずだ。
「なぁ、佑奈。幸せか?」
「うん! 幸せ!」
佑奈が笑った。春も笑った。風が吹いて桜が舞った。
佑奈はまた、新しい幸せな未来へと進む。
どんなに悲しみにおぼれても、孤独にとらわれても、光はずっとそばにいる。
光が曇ったなら、すべての力を使って、あなたの光となろう。
佑奈はもう何も怖くない。
これからもずっとずっと、彼とともに翔けていく。




