03夢~春の訪れ~
「これで最後だね」
佑奈はそっと呟いて、目を開けた。
目の前に広がるのは、雪景色で、咲かない桜の木があって。
でもそれも、もうおわり。
佑奈はそぉっと割れ物に触れるように、桜の木に触れてみた。
トクントクンと、鼓動が伝わってくるような温かさ。
「生きてたんだね」
りょーくんと別れたあの日から、死んだも同然だった。
ずっとこのままだと思っていた。
「けど……」
ふぅっとこの世界に初めて、風が吹く。
背中をおすように、包み込むように、穏やかに、温かく。
その風に揺られて、桜の木の枝は揺れた。
つぼみも揺れた。
ゆっくりゆっくり、そのつぼみが膨らんでいく。
その速さに合わせて佑奈がそおっと三歩下がって木を見上げたときには、もう満開だった。
周りの雪は解け始めて、春の草が顔をのぞかせる。
それから風が吹くたび、世界は春になっていった。
雪が溶けて、桜が舞って、草が見えて。
佑奈はやっと春になった。
桜は嬉しそうに、何度もその手を揺らす。
そのたびに舞う花びらによって、あたりは桜色でいっぱいになった。
これからも時が流れ、季節がめぐる。
それでももう立ち止まることはない。
「よし! いこう」
佑奈は桜の木から背を向ける。
そして、あの公園で踏み出した一歩と同じように、そおっと一歩めを踏み出した。
ふぅっと春風が佑奈の背中を何度も押す。
もう一人じゃない。
佑奈の右はいつのまにか温かくなっていた。
決して消えない春のともしび。
その光さえあれば、なんでも乗り越えられる。
だから立ち止まらない。新しい未来へと進みだす。
佑奈がずっと探し求めていた、幸せな未来へと。




