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ふゆのさくら  作者: 舞桜
第四章
20/24

05思い出

 やがて、年もあけて佑奈たちは20✕✕年を迎える。

 クリスマス翌日から、今日、一月七日までバイトだった佑奈は久しぶりにゆっくりと眠りについた。

 太陽もだいぶ上に上がった頃、佑奈はやっと目をさます。

「ふぁーあ……。よくねたぁ」

 今までの疲労感が言えたのか、体はすっきりしている。

 時刻を確認しようと、ケータイをひらく。14時を示していた。

「いやぁ、めっちゃ寝たね」

 メールを確認すると、一件受信があった。翔だ。

『おはよ、バイト行ってくる』

 8時に送られているそのメールを今返すと、ぐーたら女子と怒られるのが目に見えているので、とりあえずそのままケータイを閉じる。

 翔も、年末年始は倍度に駆り出され、忙しい毎日を送っている。

 バイトの休憩時間に玉に会うだけで、あとは画面越しにしか翔をみていない。

 しかしそれも、当たり前に会っていくのだろう。

 佑奈は日付を確認する。一月七日。

 朝から始業式が始まり、三年生はそれと同時に学年末テスト。

 そのテストが開けると自由党光というあつかいになり、学校に来る機会はなくなる。

 当然、翔と会う日も減るだろう。

「よっこらyそ」

 佑奈は勢いをつけて布団から出る。

 冬の厳しい空気が体を刺激した。

 寒い寒い、と腕をさすりながら、急いでストーブをつける。

 熱を発するストーブの前に手をかざし、少し部屋も暖まった頃、佑奈はふと自分の机の上に視線を移す。

 部屋は綺麗に片付いているのに、その机の上だけものが散乱していた。

 字が殴り書きされたルーズリーフに、けしごむのかす、その真ん中を陣取るようにノートパソコンがおいてある。

「ふぅ。やるかぁ」

 口を手で覆い、ゆっくりと息をふき替えて温めてから、佑奈はその机の前に腰かけた。

 そして静かにパソコンをうちはじめ、ときにはシャーペンを手に、ルーズリーフに何かを記す。

 年を開けた頃辺りから、佑奈はよくこの作業を繰り返している。

 バイトが終わって、帰ってくると同時に、すぐに机の前に座る。

 時間がすぎるのも忘れて、もくもくと続け、あるときはそのまま朝を迎えたこともあった。

 どんなにしんどくても、佑奈はそこに座りつづけ、作業を進めていた。

 卒業式までに、完成させなければならない。

 翔がみつけてくれた、今の佑奈の夢へつながる、カケラだった。



           



「佑奈! あけおめ」

「あ、葵衣だ! あけおめー!」

 ぎゅーっと抱きつこうとすると、凄い勢いで逃げられた。

 しかし新年なのだから、とめげずに葵衣を追いかける佑奈。

 本気でうざがられ、シュンと大人しく葵衣の後をついていく。

「年明けちゃいましたね、葵衣さんや」

「そうだね、明日からテスト。それが終ったら……」

 にんまりと佑奈と葵衣は顔を合わせる。

 そして二人同時に声をそろえて言った。

『自由登校!』

「そして寝たい放題」

「でた、ぐうたらひきこもり葵衣ちゃん!」

「お家が大好きです」

「私はバイトし放題だぁ!」

「無理しないように」

「え。葵衣ちゃんが心配してくれてる。胸キュンだ!」

「佑奈の場合、アホだから自分が体調悪いことにも気付かずに倒れるまでしてそう。アホだから」

「うん、調子に乗ってごめんなさい」

「よろしい」

 こんな話も後数えれるくらいしかできなくなる。

 一週間のテスト期間なんてあっという間だ。

「あ、そうだ。葵衣、卒業式の後ひま?」

「空いているよ」

「デートいこ!」

「やだ」

「ひどっ! ……なんてね。またまた葵衣ちゃんってば照れちゃって」

「わたしは本当のことしかいいません。佑奈ちゃん嫌い」

「すきっ!」

 二人にとってはもう合い言葉のようなやりとりだった。

「そういえば、私たちって三年間、ずっと一緒にいたけど、喧嘩したことないよね。愛の力!」

「三年間ずっと一緒にいた記憶など、ございません。喧嘩しなかったのは、無関心なだけです」

「え、それは地味に傷つくやつ……」

 目を押さえて泣きまねをする佑奈に、思わず笑みがこぼれる葵衣。

 いつも通りで、でも少し特別な日々はあっというまに過ぎていった。



           



 聞きなれたチャイム音とともに、高校生活最後のテストがおわった。

 テストを返却し、そのままホームルームが行われる。

 受験がある人はこれからだ、がんばれ。

 決まっている人は絶対マヌケないように。

 いつもは面倒くさいと、聞き流している担任の声も、もうないのだと思うと自然と耳が傾く。

「いやぁ、やっと終わりましたね、美加子よ」

「テストで学校生活を閉じるって、なんか複雑だけどね」

「そりゃしかたないよ。おっかない先生たちが考えることだもん」

「まあね」

「――あ、そういえばざぁ。美加子はどんな進路?」

「あれ、行ってなかったけ?」

「うん、私、勉強とかそっちの話きらいだから、聞かなかったんだと思う」

「そっか。私は県内の、歯科医師になる専門学校だよ」

「歯科医師! 歯のお医者さん?」

「うん、そうだよー。佑奈は?」

「んー秘密!」

「えっ」

「えへへ、うそうそ。実はね……」

 声をひそめて、美加子に耳打ちをする。

 美加子はその言葉を聞くと、驚いたように大きく目を見開いた。

「え、え、ほんとうに?」

「うん、なんかね、あ、これだって思ったの!」

「そっか。そっかぁ、すごいね佑奈! 応援してる!」

「ありがとう!」

 またメールする、遊びに行こうねと告げてから、佑奈は美加子より先に教師を出た。

「おそかったね佑奈」

「ん、ちょっとね、おまたせ。いこっか」

 廊下で待っていてくれた葵衣とともに、ゆっくりと見渡しながら校舎を歩く。

〝猫〟と初めて話をした教室の前。

〝猫〟に抱きしめられた誰もいない放課後の廊下。

コソコソかくれてキスをしあった屋上の手前の踊り場。

馬鹿騒ぎをしてははしゃぎあった階段の一角。

よくお昼を食べた中庭のベンチ。

〝猫〟を初めて見たげた箱。

 翔と比べると改めて、どれだけ自分の高校生活が〝猫〟で埋めつくされているかを知った。

 佑奈はその一つ一つを写真に収める。

 誰も映っていない。

 佑奈も〝猫〟も。

 だけど、それだけで佑奈の中にはずっとある、あの光景。

それだけれ十分だった。

葵衣は黙ってついて着てくれた。

そうしてゆっくりと校門を出る。

外にも〝猫〟はたくさんいた。

佑奈はそれを捕まえては、そっと胸にいだく。

〝猫〟の全てをアルバムにおさめた頃には、もうだいぶ日が傾いていた。

「ありがとね、葵衣。付き合ってくれて」

「いいよ。お腹すいた」

「え?」

「おなかすいた」

「あ、はい! おごらせていただきます!」

駅前にあった定食屋にはいる。

そこで佑奈たちはずっとしゃべった。

三年間の出来事を。笑ったこと、泣いたこと、怒ったこと、嬉しかったこと。

いつまでもこんな時間が続けばいいのにと願いながら、佑奈はこの最後の日を終えようとしていた。


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