04Xmas
長かった12月考査をおえ、勉強から解放された佑奈に休みはない。
「……ってなわけで、クリスマスまで会えません! ごめんなさい」
テレビ電話の画面に向かって手を合わせ、頭を下げる佑奈。
「おうおう、働くねぇ」
「お金がほしいからね!」
考査が終った学校は24日の修了式まで午前授業。
佑奈はそのあとすぐにバイトが始まり、夜まである。
――と、いうことにしている。
「まぁ、無茶しないように」
「はーい!」
「ん、で、クリスマス、どこいく?」
「――あ」
改めてどこいく、と言われたら、考えていなかった子のに気付く。
どうしようかと首をかしげる。
「翔はどっか行きたいとこある?」
「いや、とくに」
「私もないんだよねぇ。王道でイルミネーションとか?」
「えー。イールミネッショーン?」
「うん、発音間違ってるけどね。翔が今、考えてることを当ててあげよう。金払ってまで見たくない」
「さすが佑奈。正解」
「金払ってわざわざ人ごみ行ってみたいとは思わないよねぇ。感動はするけど」
「同感。じゃぁどうする?」
「うーん」
お金がかからなくて、遠くない場所。
佑奈はふと、あ、と手を打った。
「どした?」
「この間さ、彩ちゃんとお菓子作るっていってたじゃん! クリスマス、どっちかの家でクリスマスケーキつくるってどう?」
「お、いいねぇ、彩に聞いとくわ」
「よろしく」
よしよし、とうなずく。我ながら、いい案だと、満足そうに笑みをこぼず。
「……まぁ、あいつがフリーでサビシマスを過ごすことを悟っていってるよな」
「え? 何か言った?」
「いんや、何も。ほんじゃ、予定も決まったことだし、これからに備えて寝ようか」
「……はぁい」
佑奈はちぇっと頬を膨らませてから、布団を整える。
「んじゃ、おやすみな」
「うん、おやすみ!」
「がんばれよ」
そうして電話を切る。
これから二週間以上は、学校以外では会えない。
寂しくないといえば大ウソになるが、佑奈はやらなければならないことがあった。
「メリー! クーリスーマスゥ!」
翔の家の近くにある、いつものショッピングセンターの、いつもの待ち合わせ場所に見慣れた背中があるのを認めた佑奈は、走りだしたスピードを落とさず、そのままその背に抱きついた。
「うぇっ! た、頼むから勢いは殺してから抱きついてくれ……」
「だってぇ」
後ろから回した手を翔のおなかにまわして、ぎゅっとしがみつく。
「く、くるし……」
「愛の力よ!」
「アホか、離せ!」
「やぁだぁ」
二週間分の翔の香りを体いっぱいに吸い込む。
全く会えなかったわけではないが、やっぱりこうしてプライベートで会うのとはわけが違ってくる。
「ほら、家、いくぞ」
「うん!」
抱きついていた腕を、翔の腕にからませ歩く。
翔は歩きにくい、と文句ありげな顔をしながらも、何も言わずにいてくれた。
地下に止まっている翔のチャリをとり、二人乗りをして翔の家へ向かう。
「……って、なんで私が、前!?」
「俺、疲れたし」
「なんて男よ……」
しかし、悲しいことに佑奈が前でもこげてしまうのが現実。
「まぁ俺と佑奈の体重って、あんまりかわら……ぐふっ」
「だまりなさい」
片手で器用にハンドルを握りながら、空いた手で翔のみぞおちにパンチをお見舞いする。
そして、バイトでついた足の筋肉が、すいすいとチャリを漕ぎ、すぐに翔の家についてしまった。
「おう、お疲れ」
「おつかれ、じゃないよ、まったく」
ぶつぶつと文句を言いながらも、チャリを止め、寒さに体を丸めながら、家の中に急ぐ。
「ただいま」
「おじゃまします」
「あ、いらっしゃい、佑奈。今日はよろしくぅ」
「こちらこそ、よろくしです!」
「佑奈さん、佑奈さん! あたし、これが作りたいです!」
リビングに入るや否や、ママさんに迎えられ、タブレットを手にした彩が駆けつけてきた。
「ん? えっと、イチゴのモンブランケーキ?」
「はい! 母さんも兄さんもイチゴ好きなんで、どうかなと思って!」
「おー! じゃあそれにしよっか!」
「……いや、ちょっとまてお前ら」
わーい頑張ろうね、とはしゃぐ佑奈と彩の頭を翔がわしづかみする。
「な、なにするのさ、翔!」
「あんたら、何を作るかも決めてなかったのか!」
「え、うん」
「材料は!?」
「それはねー」
佑奈がごそごそとカバンを探る。
翔はもう嫌な気しかしなかった。
「兄さん、足りないのは、クリとイチゴと生クリームとチーズだよ。よろしく」
「……なんで俺が。さっき待ち合わせした時に、買ってくればよかったじゃねぇか!」
「だってその時はまだ何を作るか、決まってなかったんだもの」
「決めとけよ!」
「タダで食えるんだからいいでしょ! さ、早く早く! 私たちは下準備があるから」
よろしくーと、続ける佑奈と彩の姿に行くしか選択肢がないことを悟った翔は、しぶしぶ脱ぎかけていたコートを羽織り直した。
「ちゃんとした材料、メールで送っとけよ」
「あいあいさー!」
はぁ、とため息をついて、リビングをでる。
これが高校生のカップルが過ごすクリスマスなのだろうか、と翔は今更ながら思った。
やがて帰ってきた翔が買ってきてくれた材料をもとに、きゃっきゃと騒ぎながらケーキ作りを楽しむ佑奈たち。
翔はリビングのソファーで寝転がって、テレビをぼぉっと見るしかなかった。
ちなみにママさんは、二階でお昼寝中だ。
「5!」
「4!」
「3!
「2!」
「1!」
ピピピピピピ……とカウントダウンに合わせて、タイマーが鳴る。
佑奈と彩はお互いに顔を突き合わしてから、にんまりと笑い、冷蔵庫を開けた。
「おー! おいしそうな匂いがするよ、翔!」
「どれどれ」
よっとソファから立ち上がり、台所へと向かう。
見てみてと、型に埋まっているケーキを差し出す佑奈。
ピンクに染まった生クリームが線状になっている上に綺麗に切り分けられたイチゴが乗ったおしゃれなケーキが顔をのぞかせいていた。
「いいんじゃね」
「でしょ!」
「彩、おかん起こしてきて。ちょうど三時だし、食べようぜ」
「はいはーい」
彩がぱたぱたと二階へと向かう。
佑奈はその間にできるだけの用意を整えようと、ケーキを食卓のテーブルに運んだ。
「で、佑奈?」
「はーい?」
「その指の怪我は?」
両手の指と言うゆびに絆創膏がはってある手を指さす。
「え、い、いや、これはさっきのケーキ作りで……」
「朝からあったよな?」
「ぐ、い、いや気のせいだよ!」
翔の視線がいたい。
佑奈は気まずそうに目をそらすしかなかった。
「母さん起こしてきたよー」
タイミング良く、彩が戻ってくる。
佑奈はものすごいいきおいでその話に乗った。
「そっか! そうか、じゃあ急いで準備しないとね!」
「え、あ、はい。そうですね」
あまりの佑奈の焦りように少し後ずさりながらも、彩は佑奈の後を追う。
やがて降りてきたママさんも加わり、小分けを終えた佑奈たちは席に着いた。
「めっちゃおいしそう! 母さん感動だわ」
「彩にも、これだけの女子力があればなぁ」
「まって兄さん、これ彩も作ったから!」
「どうせ全然手伝えずに、横で指くわえてただけだろ」
「そんなことないから! ねぇ佑奈さん!」
「うん、ちゃんと手伝ってくれたよ! そんなこと言う奴は食べるの禁止。没収」
「いやぁやめてー! すいませんでした!」
彩と佑奈で翔のケーキを奪い、遊んでいる間にママさんは一人、ケーキを口にしていた。
「おぉ」
「ん、どうしたおかん」
「いや、正直素人がつくるイチゴのモンブランなんておいしいのか心配だったけど、いけるわ」
「彩も食べよ。いただきまーす」
「あ、じゃあ私も」
撮り上げたケーキを翔に返し、佑奈も習ってケーキを頬張る。
モンブラン独特の甘みと、イチゴの甘酸っぱさが上手く絡み合っている。
「ん! おいしい!」
はじめて作ったにしては、上出来な出来栄えだった。
四人でおいしい、とくり返しながらあっという間に食べ終わる。
「もうひとつあっても、よかったな」
「佑奈、また母さんのために作ってな」
「いや、おかんのためにってつっこみどころ満載すぎるだろ」
翔が勢陰分のお皿をまとめて、台所へ運ぶ。
そのまま、四枚のお皿を洗い終えた翔とともに、佑奈は二階へと向かった。
「ね、ね。おいしかった?」
「おいしかったって。何回目だよ」
「えへへ!」
「また作ってな」
「任せんしゃい!」
佑奈はベッドんひ腰かけ、翔はテーブルの前に座り、パソコンをいじる。
そんな翔にばれないよう、佑奈はそっと自分のかばんを開ける。
いつもぺったんこのかばんは、今日だけ少し膨らんでいた。
そぉっと出来るだけ音をたてないようにチャックを開け、中から綺麗にたたまれた『黄色いもの』を取り出す。
「翔、かっける」
「ん?」
「はい、メリークリスマス!」
両手でそっと翔の前へ差し出す。
翔は驚いたように目をぱちくりと瞬かせた。
「なに、これ?」
「広げてみて!」
翔はその『黄色いもの』を受け取り、広げてみる。
真ん中に花を持った可愛いクマが縫い付けてあった。
「……エプロン?」
「うん! 手作りだよ!」
良く見ると、肩掛けのところのミシン目が歪んでいたり、糸がほつれているところもある。
しかし、それも手作りの良さなのだろう。
「だから、指に怪我してたのか」
「裁縫は大の苦手だからんね!」
「知ってる。でも、なんでエプロン?」
「いやぁだってねぇ」
佑奈は恥ずかしいのか、翔から少し距離を置いて三角座りの膝の上にから翔をみる。
「だって、翔は保育士さんになるんでしょ? それなら、エプロンいるかなって」
いつもより3倍は小さな声で佑奈はつぶやく。
翔は嬉しそうに笑った。
「そっか、ありがとうな」
「どういたしまして」
「……もしかして、これ作ってたから、会えなかったとか?」
「ぐ。良くおわかりで」
ばつが悪そうに目をそむける佑奈を抱きしめ、おでこにチュッと唇を寄せた。
「んじゃ、もうひとつもらっておこうかな」
「え?」
と、返した時にはもう、佑奈の背中には布団の温かみがあった。
「いただきます?」
「……もう、馬鹿」
困ったように、でも嬉しそうに佑奈は翔の首に腕を伸ばした。




