表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふゆのさくら  作者: 舞桜
第四章
18/24

03一歩

 ――12月12日。

 12月考査という地獄が始まる1週間前を切った佑奈と翔は、久しぶり放課後に駅前のショッピングセンターで遊んでいた。

 手をつないで、はしゃぎ合って、プリクラを撮りたいと訴える翔に嫌だと返す。

「あ、もう20時だ」

「えーやだ」

「しょうがないだろ。俺、門限あるし」

「うん……」

 楽しい時間はあっという間に過ぎていく。

 頬を膨らませた佑奈は、クイッと翔の袖を引いた。

「ん? どうした?」

「最後に、行かなきゃいけないところがあるの」

「どこ?」

「本屋」

 先ほどよりきつく腕にしがみつきながら、本屋へと向かう。

 そんなに大きいとは言えない本屋に足を踏み入れると、独特の紙の匂いに包まれた。

 佑奈は迷うことなく、マンガの新作コーナーへと向かう。

「どうした?」

「いや、ちょっとね」

 佑奈は新作コーナーに置かれたマンガを一冊ずつ確認し、お目当てのものを見つけると、しばらくそれをじっと見つめた。

 去年と変わらない題名に、綺麗な絵調の表紙。

 今年の新作の表紙は桜が描かれていた。

「あれ、何のマンガ?」

「サッカーの話」

「サッカー?」

「うん」

 なんでまた、と不思議そうな顔をする翔を横目に、佑奈はそのマンガの発売日を確認する。

 一番上にあった本の上に、『12月12日発売』と書いてあった。

「よし、じゃ買ってくる」

「お、おう」

 さっそく佑奈はその本を手にレジへとむかう。

 翔はその場で首をかしげ、佑奈の背中を見送った。

 佑奈は、店員さんと一言二言、言葉を交わすと本の代わりにカードを一枚もらって帰ってきた。

「なに、そのカード」

「プレゼント包装にしてもらってるから、それまち」

「――……そっか。なるほどね」

 なるほどね、は佑奈には聞こえないように小さく呟いた。

 興味があるなんて聞いたことのない、サッカーの本。

 プレゼント包装。

 佑奈の少し浮かない顔。

 それらから全てを理解した翔は、そっとほほ笑んだ。

 きっと、一人で買いにくる勇気がなかったんだろう。

「そのカード、ただの番号札のくせに可愛いな」

「え。え、あ、うん。このくま、わざわざ描いたのかなぁ」

 翔の意外な言葉に戸惑ったように返す佑奈。

 何か言われると思っていたんだろうな、と内心で苦笑しながら翔は話を続けた。

「手作りってところがすごいな」

「うん。頑張ってるよね」

「――プレゼント包装一番でお待ちのお客さまー!」

「あ、いってくる」

「おう」

 佑奈が自分の手元にあるカードナンバーを確認してからレジへと向かう。

 しばらしくて帰ってきた佑奈の手には、紙袋が握られていた。

「おまたせ」

「うん。じゃ、かえろっか」

「はーい」

 再び翔の腕をつかみ、エレベーターで一階まで下る。

 人の間をぬって外に出ると、12月らしい寒い風がふきぬけた。

「わ、さむいねぇ」

「もう12月だからな」

 出入り口のすぐそばにある駐輪場に留めていた翔のチャリを取り、いつもの分かれ道まで歩く。

「チャリだから、温かくしてかえってね」

「おう。駅まで送れなくてごめんな」

「大丈夫! 気をつけてね」

「佑奈もな。帰ったらいつも通りメールするころ」

「あいあいさー!」

 ちゅっと小さく唇を合わせ、翔に手を振る。

 どんどん見えなくなっていく翔の背を見送り、佑奈は駅へと向かう。

 左手に持っていた紙袋を両手で持ち直し、そっとだれにもなくほほ笑む。

「三年間で最後だしね。もう、来年はないんだから」

 紙袋にそっと語りかけるように、佑奈はつぶやいた。




 翌日、12月13日もいつもと変わらず朝がやってくる。

 佑奈は少し早く登校した。

 といっても、いつも遅刻ギリギリな佑奈にとっての『少し早く』は、普通の生徒にとっては当り前の時間なのだが。

「お、偶然だな佑奈。今日は早いんだな」

「翔! おはよ、ちょっとね。翔もはやいじゃん」

「課題をロッカーに忘れたからちょっと早くきてダチに見せてもらおうと思ってな」

「最低だぁ」

 くすくすと笑いながら、くっつこうとするとこれ以上来るなと腕をのばされる。

 その腕にぎゅっと抱きつこうとすると、凄まじい勢いで避けられた。

「ひっどーい!」

「当り前じゃ」

「ツンデレやろう。葵衣か!」

「はいはい」

 げた箱から一歩校舎に入っただけで、少し温かく感じるのは、それだけ風が冷たいということなのだろう。

 二階までの道のりはすぐだ。

「んじゃあな」

「うん、またあとで!」

「おう。……ちゃんと渡せよ」

 ぽん、と頭に手を置く翔の言葉に思わず驚いた顔で見つめてしまう。

 翔はなにも知らないような顔で、にっこりと笑った。

「ほら、もう行けよ」

「う、うん。――ありがとう」

「おう」

 翔はやっぱりずっと笑顔だった。

 佑奈は少し目を潤ませ、でもぎゅっと我慢をして、笑顔で手を振って三階へと足を進めた。

 ママさんに誕生日にもらった手さげカバンから、紙袋をとりだす。

 それをじっと見つめながら、階段を上りきり、右へと進む。

 3組、とかかれた教室に入ろうとした瞬間、鳴き声が佑奈の耳を刺激する。

「――……」

 佑奈はダッとその場からはりしだすと、角から姿を現した〝猫〟に半分体当たりするように、紙袋を突き出した。

「はい! おめでと!」

「お、おう、いきなりかよ」

「えへ」

「中身は?」

「見たらわかるよ」

「まじか。まぁ大体予想できるけどな。ありがとな」

「どーいたしまして!」

 去年は直接渡す勇気がなくて、泣いてしまいそうで、そっとげた箱に入れたんだ。

 そばにいた頃、〝猫〟がほしいといっていた一冊の本を。

 あの時げた箱に入れた本の時間もだって、佑奈たちの時間もだって、今年は新刊を直接渡せたのは。

「やっぱり、翔のおかげかなって、思うよ」

 教室に入り席に着いた佑奈は、ふぅと息をはきだす。

「おはよ、佑奈。今日は珍しく早いね」

「あ、美加子、おはよ。早いって言っても、もう25分だけどね!」

「いつも佑奈が遅すぎるんだよ?」

「はーいすいまっせーん!」

 ペロッと舌を出してそう言うと、頭を叩かれる。

 やがて担任が現れ、朝のホームルームがはじまる。

 ――あれ、そう言えば〝猫〟と話したのに、苦しくないし、苦しくない。

 その事に気がついたのは、昼休みに葵と今日の事を報告した時のことだった。

「葵衣に言われてみれば……そうかも。苦しく、ない」

「……そっか、よかったじゃん」

「……うん。よかった……の、かな。なんでなんだろう……」

「別に急いで分かろうとしなくていいでしょ」

「――さすがに葵衣」

 少し苦笑してから、ごはんを口に運ぶ。

 お米の味がした。

「ま、それもそうか。急がなくても、いっか」

「そうだよ」

 うん、と、返してから、佑奈と葵衣はお昼時間を過ごした。




「佑奈! ごめん、おまたせ」

「いいよ、掃除だったの?」

「うん」

 今日も翔とともに通学路をたどる。

 他愛もない話で騒いで、今日新しく得たおもしろい情報や話で盛り上がる。

「それでその子が――…」

 佑奈の声が止まる。

 不審に思った翔は佑奈の顔をのぞき、その視線の先をたどる。

 翔自身、直接見たことがないため顔は知らないが、佑奈の動きが止まったという事は。

 今、少し先のコンビニの前で、女の子と二人で話している彼が、きっとそうなんだろうと思った。

「翔?」

 不意に佑奈が翔の名を呼ぶ。

 翔は出来るだけ元気な声で、うん? と返した。

「ビックリしないでね」

「お、おう。どうした?」

「苦しくないよ」

 佑奈が翔に向けたのは笑顔だった。

 正直想像していなかった佑奈の反応に、翔は戸惑ったように何も返せない。

「ありがとね、翔。なにも聞かず、背中を押してくれて」

 だから、なんか大丈夫になっちゃった、と続ける佑奈。

 翔はまばだきも忘れるほどに驚いたあと、言葉の意味を理解し、泣きそうなでも満面の笑みで、よかったなと言った。

 佑奈はぎゅっと翔の手をつかみ、再び歩きだしだ。

 突き刺さるような冷たい風が、少しだけ温かく感じだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ