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ふゆのさくら  作者: 舞桜
第四章
17/24

02自分の力で

 ――ブーブーブーブー。

「んあ?」

 耳元でケータイが震える。

 もう朝なのか、と重い体を動かそうとするが、カーテンから差し込む光がない。

「電話?」

 布団から手だけを出して、震えるケータイを手に取る。

 時刻は朝の三時。れいからの着信を示していた。

「はぁいもしもし? こんな時間になにさ」

「わり、ちょっとさぁ、明日……じゃないか、今日、暇?」

「ひまっていうか、普通に平日なんですが……」

「さぼってちょっと、うちの家来てくれん? 頼む!」

「えー!」

「なんかおごるから!」

「ケーキワンホール?」

「ぐ。しゃあないな、佑奈の好きなチーズケーキかったるから、朝9時に来てくれ!」

「はや! せめて昼にしてぇ」

「それじゃあ間に合わんねん!」

「間に合わんってなにに……」

「頼む! チョコケーキもやるから!」

「……しょうがないなぁもう」

「ありがとー! さすが佑奈」

 よろしくな、絶対な、と念を押されてから電話をきる。

 れいが唐突なのはいつものことだ。悲しいことにもう慣れてしまった。

「とりあえず、寝よ」

 再び、布団にもぐって目をとじる。

 すぐに眠気がよみがえり、十秒もしないうちに、佑奈は眠りについた。g




 朝9時を少し過ぎた頃。

 佑奈は、家から徒歩十分の所にある、ここらで一番の豪邸のインターホンを押す。

 ちなみに、もう5回目だ。

 先ほどと同じように、ドアが開かれる気配はない。

「もう、呼び出したの、そっちのくせに!」

 佑奈は仕方なく、門を開けて、敷地に入る。

 なんとなく、こんな気はしていた。

「れーい? はいるよー」

 予想通りドアは開いていた。

 そのドアを少しだけ開けて、家の中に呼びかけるが人が動く気配はない。

「もう」

 はぁ、と大きなため息をついてから、佑奈は家に足を踏み入れる。

 れいの両親が朝早くに出勤しているのは知っている。

 この家にはおそらくへやで眠りについている、れいしかいないはずだ。

 靴を脱いでそろえてから、少し考えて一応玄関のドアの鍵をしめる。

 かばんを端に置いて、まっすぐ伸びる廊下を突き進む。

 なんだかんだで、大きい方だと思う。

 小さい頃から行き来していたせいか、あまり実感はないが、少なくとも普通の家はシャンデリアが付いていたり、廊下の先が遠かったりしない。

 その長い廊下を行き終わり、すこし右に曲がると、大きな階段が見える。

「毎回おもうけど、これはしんどいよね」

 佑奈の家の二倍の長さはありそうな階段を上る。

 やっとのことで二階へとたどり着いた時には、少し息が上がってしまっていた。

「ふぅ。れいの部屋は……」

 左右に分かれる道を左へ進み、5目の部屋のドアを叩く。

「れーい。きたよー」

「……んあー」

「んあー、じゃないよ! なんで寝てるの!」

「うちはがんばってんでー……」

「意味分かんないし。入るよー?」

 ガチャとドアを開ける。見慣れたれいの部屋――

「おー散らかっててすまん」

 じゃ、なかった。

 いつもの部屋もきれい、とは言えないが、今日の散らかりようは半端なかった。

 文字通り、足の踏み場もない。

「な、なにこれ。どうしたの?」

「いやーちょっとさぁ」

「ちょっとじゃないでしょ!」

 机や棚の上にあったであろうものは全て無惨に床に転がっている。

 そんな部屋の真ん中に、申し訳程度の毛布にくるまったれいの姿。

「もう冬なのにそんな恰好で寝てたら、風邪ひくでしょ!?」

「いやぁ、ベットとか大きいものは、全部先に送っちゃってさぁ」

「送る? どこに」

「ベルギー!」

「は? ベルギー?」

「おう、留学することにしてん、うち」

「はぁあ!?」

 あ、の口のまま開いた口がふさがらない。

よく見れば部屋の床の三分の一を埋めているのはダンボールだ。

「い、いつ?」

「決めたんは昨日!」

「発つのは?」

「今日」

「きょぉ!?」

「ちなみに3年間」

「ぶっとびすぎでしょ!」

 今日の朝の言葉を訂正しよう。さすがにここまでとは思わなかった。

「いやいやいや、え、えー?」

「やからさ、荷物まとめんの手伝ってもらおうおもて!」

「……とりあえず、飛行機いつ?」

「15時離陸で、11時にタクシーがうちにくる」

「あと、二時間30分しかありませんけどぉ!?」

「そやねん。けど服とかがまだまだでさぁ」

 みたら分かる。

 佑奈の部屋の二倍はあるであろう部屋の床のほとんどは、服やぬいぐるみで埋まっている。

「うん、もうつっこみどころ満載だけど、とりあえず支度急ごう!」

「おー佑奈ならそう言ってくれると思った!」

「感心してる場合じゃないよ! れいも早く起きて!」

 じゃ、と言って布団にくるまろうとするれいを引きずりだし、二人で役割に分かれてとにかく急ぐ。

 これはいる。あれはこっち。

 と、片っぱしから、大きなダンボールに入れていく。

 それこそ目の廻るような忙しさだ。

「れい、これは?」

「え、えっとー、うーん、どうしようかなぁ」

「はい、置いていくやつね」

「ちょ、ちょっと待ってやぁ」

「そんなことにいちいち時間取ってる暇があるわけないでしょ! さっさと動く!」

「ほんまおかんみたいやわぁ」

「れいが子どもすぎるの!」

 当事者のれいより部屋を駆けまわる佑奈。

 刻一刻と迫る時間が恐ろしくて、時計も見れない。

「佑奈ぁ、あと30分で来てまうでー?」

「やめて、現実を見ないで」

「いや、んな無茶な……」

「口じゃなくて手を動かす!」

「へーい」

 佑奈のがんばりのおかげか、部屋に散乱していた衣類は大分片付いた。

 それでもまだ、部屋の三分の一は、なにかしらで埋まっている。

「……れい! そういえばさぁ!」

「ん?」

「ケーキ! は!?」

「おーわすれとった」

「忘れとった! じゃないよ! どうせ買う気もなかったでしょ!」

「ばれた?」

「もう手伝わない」

 手にしていた荷物を床に落とす、と同時にれいがもの凄い勢いで、佑奈の足元で土下座をした。

「ごめんって! 帰ってきたら絶対なんかするから!」

「なんでも?」

「お、おう! まかせとけ!」

「ならしょうがないなぁ……って、こんなことしてる場合じゃないよ!」

「佑奈が言いだし……」

「何かおっしゃって?」

「何もー」

 残り時間も15分を切った。

――ピーローリロリリリン

 と、気の抜けるような音が家の中に響く。

「あれ、入って来ていいって言ったのになぁ……」

「え、ごめん、玄関の鍵閉めてきたの! もしかしてもう来ちゃった!?」

「いや、この荷物運ばせるだけや」

「あ、おっけー。後やってるから出てきて」

「下までいくのめんどくさいなぁ」

 れいがよろよろと立ち上がり、部屋を出ていく。

 佑奈は今までの1.5倍の速さで荷物を段ボールにつめていく。

 もうきれいにたたんでいる暇はないため、丸めて押し込んでいく。

「佑奈!」

「はーい!」

 急ぎ足で部屋を後に市、階段から顔をのぞかせると、れいがちょうど大柄な男の人を数人ひきつれて上がってくるところだった。

「終わった?」

「あと少し! 汚いけど許してね」

「うちが気にすると思う?」

「思わない」

 長い階段をのぼりきった、れいと肩を並べて、もう一度部屋に戻る。

「ほな、片ついてる段ボールからはこんでもらってええか」

「はい!」

 数人の男性が、声をそろえて返事をする。

 綺麗に気をつけをした男性たちの胸には『仲運送会社』と書いてあった。

「こういうときに思うけど、れいって金持ちのおじょーさまなんだよね」

 のこりの荷物を開いている段ボールに詰めながら、佑奈はぼそっと呟いた。

 れいはその横で布団にくるまり、下から持ってきたのであろうポテリを頬張っている。

「まぁなぁ。楽に生活送らせてもらってるよ。……やから、海外行きたいおもてん。自分の力で何かしたいって。海外行ったら、何の力もないただの少女やん。そこから、自分の力で何か得に行きたい」

「――……うん、そだね。自分の、力で。立たないとね」

「やろ」

「まぁそれなら荷造りくらい自分でしてほしかったけどね」

「……それはそれ、これはこれ」

「はいはい。応援してるよ、はる。でもちゃんと帰ってきてね」

「おう、ありがとうな佑奈」

「どういたしまして」

 荷物を運んでくれてる人達に荷造りくらい頼めばよかったのに、とは言わなかった。

 きっとれいも、寂しいんだろうから。

 だから最後に会っていつもみたいに馬鹿騒ぎがしたかったんだろう。

 最後に写真たてを段ボールに詰め、ガムテープで固定する。

 その写真たての中には、幼い頃の佑奈とれいの姿があった。

「佑奈。ベルギーでもどこでも、何かあったら駆けつけてくるからさ。頑張れよ」

「はるもね。無理しちゃだめだよ」

「任せとけ!」

 あっと言う間に段ボールの山は減っていく。

 気がつけば、広い部屋には何もなかった。

「前から広いなぁって思ってたけど、何も無いと余計広く感じるね」

「やなあ」

 部屋の真ん中で二人、背を合わせてたつ。

 なんどもここで笑って騒いで、寝て、食べて。

 佑奈にとっては第二の家のように入り浸っていた。

「今日はほんまにありがとうな」

「いいよ。楽しかったし。今まで、ありがとうね」

「今までとかいうなや。すぐ会える」

「……うん、そだね。そうだよね」

「当たり前や」

 向き合ってハイタッチを交わす。

 二人にはもうそれで十分だった。

「じゃ、行くか」

「うん、行こう」

 コートを羽織ったれいとともに、ゆっくりとした足取りで部屋を出る。

 パタンと閉ざされたドアの音が静かな廊下に響いた。

「あのさぁ、ワン○ースの新刊だけ買っといてくれん?」

「はぁ? めんどくさ! 私、ワンピー○興味ないんですけど」

「だってベルギーで帰るわけないやん!」

「国際的アニメだから大丈夫」

「ベルギーで買ったら全部フランス語か英語やん。そんなん嫌やわ」

「それを読んで語学の勉強をしてください」

「そんなことゆわんとー! たのむぅ!」

「お土産は?」

「本場のゴディバ15箱」

「いいよ、買っといてあげる」

「あざっす!」

 長い階段をくだり、まっすぐな廊下をたどって、玄関につく。

 れいは靴をはきながら、コートのポケットをごそごそと探った。

「あっれ。どこやったかな」

「どうしたの?」

「いや、ちょっとな……。あ、あったあった」

 そっとポケットから出されたれいの手には何かをにぎったように、ぎゅっとこぶしを作っていた。

「なに、それ?」

「もうちょいまち」

 れいがその手を広げると、小さな蝶の形をしたピアスが一対しずかに光っていた。

「かわいい! よく見たら羽のとこに、ハートがついてる!」

「かわええやろ。一目ぼれしてもうてな」

 れいはその一つを自分の右耳につける。

 そして、余ったもう一つを佑奈にさしだしだ。

「え、え? なに?」

「これで、おそろい、な」

「い、いいの?」

「ええに決まってるやん。そのために買ったんやから」

 佑奈は恐る恐るそのピアスを手にとり、自分の左耳に着ける。

 冷たい感触が伝わる。

 けれどそれも、ほっとするような安心に変わった。

「ん。にあっとるで」

「ありがとう、れい」

「どういたしまして。さっきと立場逆やな」

「あはっ、だね」

 佑奈も靴をはき、かばんを手にとって、重たいドアをあける。

 門の前にはもうすでにタクシーが待っていた。

「ほな、いってくるとするかぁ」

「うん、いってら!」

「応援してるからな、いろいろ」

「いろいろ、ね。……ありがとう、私も応援してる」

「おう」

 自動で開いたタクシーに乗り込むれい。

 寂しくないと言ったらウソになる。

 けれど、この二人の間に涙は似合わなかった。

 だから二人とも、笑顔だった。

「ほな、な!」

「元気で!」

 ドアがしまり、タクシーがゆっくり動く。

 れいは後ろのまどから顔をのぞかせ、手を振る。

 佑奈も大きく手を上げて、それに答えた。

 やがて、その影はとおくなり、道なりに消えていく。

「さぁて」

 自分の力で何かを得るために旅へ出た幼馴染みを見送った佑奈は、空に向かって大きく伸びた。

「私も、頑張らないとな」

 今、自分にできることはなんだろうか。

 何が得られるだろうか。

 分からないから、れいのまねをして、それを探す旅でもしようか。

「とりあえず、家帰って寝よ」

 のび終えた佑奈は自宅へと足を抜ける。

 空は綺麗な青色だった。


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