02誕生日
9月14日、23時59分にそのメールは届いた。
『誕生日おめでとう!』
「いや、まだですけど!?」
思わず、ケータイに向かってつっこんだあと、そのままの言葉で返信をする。
――と、している間に、0時を回ったようだ。
一気に佑奈のケータイは目0るを受信するのに緯度がしくなった。
『おめでとう。R18禁。わぁ。それなりに好きよ佑奈ちゃん』
相変わらずツンデレモードな葵衣からのメール。
『佑奈、おもでとう! 18歳だね。もうすぐ卒業で寂しいけど、これからもよろしく!』
可愛くデコられたメール。こんなにお洒落に仕上げるのにどれくらいかかったんだろう。
さすが美加子だ。
『おめでとさん。お菓子くれな』
いや、立場が逆転泣きがするんだが。
この短い文章で、こんなに人を呆れさせれるのは、ある意味はるの特技かもしれない。
それからも、クラスメイトのみんなからメールが届く。
佑奈はその一つ一つをゆっくり読み、丁寧に返信していく。
と、目の前に置いていたタブレットが光った・
テレビ電話の着信。もりろん、翔からだ。
「はいはーい?」
「おめでど、佑奈。18歳だな」
「うん、ありがと!」
画面越しの翔が、やっと18解禁だなぁとアホなことを言っているので、会ったらしばこうと決める。
いつもと変わらぬ夜を、新しく歳を重ねた佑奈は少し特別な思いで過ごしていった。
その日の朝、佑奈はバイト先でもあるショッピングセンターの、いつもの二階のベンチで翔を待っていた。
いつも待ち合わせ時間ギリギリ、もしくは少し遅れてくる佑奈が、今日は30分も早く、この場所に来て座っている。
二年前は平日で、〝猫〟から学校でライオンにぬいぐるみをもらった。そのぬいぐるみがとても可愛くて、これを買ってくれてる時の〝猫〟を想像するともっと可愛くて笑った。
一年前のは今日と同じ休日で、このショッピングセンターの誰もいない階段で、一生ものの証をもらった。
右手の薬指に輝くそれが嬉しくて、泣いてしまった佑奈を〝猫〟は笑って抱きしめて九た。
そして今日。佑奈は翔を待っている。
時間が経つのはあっという間で、でも確実に進んでいた。
「お待たせ、佑奈。今日は早いな」
「えへ、でしょう! 誕生日くらいやりまっせ!」
今日という日を翔と過ごすことは別に後悔も未練もない。
翔と騒いで、笑って、苦手なプリクラにも挑戦して、ゲーセンで勝って、ごはんを食べて、店を回って。
佑奈は18歳最初の日を幸せに送った。
19時には翔の家に行くことになっている。
その道なりで、急に佑奈はそわそわし始めた。
「佑奈、もじもじして何してんだ? トイレか?」
「ち、ちがうよ!」
「じゃあどうした?」
「べっつに!?」
「……ふぅん。そうかそうかあ。ならよかった」
翔が意味深く口元に笑みを宿す。
そのことに気付いた佑奈は、もう、と翔の背中を叩いた。
「って! なんだよ、何にもないんだろ?」
「うるさいな! ないよ馬鹿!」
翔の家にはあっという間についた。
翔はただいま、佑奈はおじゃまします、と声をかけてから、靴をぬいでリビングへ続くドアを開け……。
――パパパーン!
「うぉ!」
「きゃっ!」
「誕生日おめでとうございます!」
「おめでとう、佑奈! ……ってなんで、翔が先に入ってくるの」
「は、いや、俺何も聞いてませんけど!?」
「言ってないけど、察しろ」
「なんて無茶な!」
クラッカーを手にしたママさんと彩の姿に驚いて、佑奈は体が動かなかった。
「ほらぁ、佑奈がびっくりして固まってるだろ」
「え、わ、は、はい! ありがとうございます!」
「反応おそ!」
「うんうん、どういたしまして。はい、これプレゼントね!」
「彩からも、これどうぞ!」
ママさんに差し出されたのは、少し大きな手さげカバン。
彩からは、小さな髪かざりだった。
「え、い、いいんですか?」
「いいよ! 学校いくときとか、バイトの時に使って!」
「はいっ! 彩ちゃんもありがと!」
「いえっ」
笑った顔が翔とそっくりの彩にもらった髪かざりをさっそく頭につける。
ピンクの花の形をしたピンだった。
「んじゃ、ケーキ食べよっか」
「え、ケーキもあるんですか?」
「あぁ……。今日の朝、彩が何か頑張って作ってたのって、ケーキだったんだな」
「そうなんだ! ありがと彩ちゃん」
おいしいか分からないんですけど、と照れたように頭をかきながら、冷蔵庫から手作りケーキを出してきてくれる。
「わぁ!」
生クリームで綺麗にデコレーションされたスポンジケーキの上には、翔の大好きなイチゴや佑奈の好きなりんごなどが、たくさん乗っている。
丁寧にそれらを切り分けると、中身も果物がたっぷり入っているのが見えた。
「いただきまーす!」
誰よりも早くがっつく佑奈。
「おぉ、おいしい!」
「へぇ、彩にしてはやるな」
「まぁまぁ、なんじゃない?」
「え、ちょ、母さん! 褒めてよ!」
「あーすごいすごい」
「棒読み!」
スポンジのふわふわ感と、生クリームがよく絡み合ってる。
よほどおいしくてしゃべる時間も惜しいのか、佑奈はほぼ無言でケーキを食べ終わった。
「おいしかった!」
「佑奈、食べ終わるの早いね。そんなにおいしかった?」
「はい!」
「よかったよかった。母さん、安心だわ」
「安心ってどういう事!?」
くすくすと笑いがもれるなか、全員食べ終わる。
一切れ残っているのは、おそらく今は仕事でいないパパさんの分だろう。
お皿を全員分、洗い場にさげ、洗い物を始めるママさんを手伝う。
「佑奈、先に上に行ってるからな」
「あ、うん。分かった」
ママさんに言われた通りの場所にお皿をしまい終わると、佑奈も翔の部屋へと向かう。
わくわくしながら、跳ねるように階段をのぼり、翔の部屋のドアを開ける。
「終わったよ!」
「おう」
いつも通り、ベットにうつ伏せに寝転がってパソコンをいじる翔。
その姿に少しむっときた佑奈は、ドアを閉めると、翔の背にダイブをお見舞いした。
「うぇ!?」
「翔たぁん」
「ちょ、きしょいきしょい。わきをくすぐるな!」
「まぁだぁ?」
「ま、まだって、な、ちょ、まじ、やめ……」
「プレゼントまだぁー!?」
翔の上で器用に寝転がったままくるくると体を回す。
「ちょ、ちょちょ分かった。分かったから、いったん降りろ!」
「うへー。はーい」
大人しくベットに座りなおす。髪はあばれたおかげでボサボサだ。
そんな佑奈を見降ろすように立ちあがった翔は、にんまりと笑った。
「とうとう我慢できなくなったんだな」
「別に! そんなんじゃないし」
「ずっとうじうじしてたくせに」
翔はそのまま机の引き出しをあけると、手のひらサイズ程の小さな白い箱を佑奈にさしだした。
「ん、あげる」
「なんて愛想のない渡し方!」
「文句いうな!」
少し顔を赤くした翔から、その箱を受け取る。
佑奈は髪を整え、きちんと座り直してから、そっと箱のふたを開けた。
「わあーお!」
三日月の形をした月の真ん中に乗る、ウサギの影がチャームになっているネックレスだ。
佑奈は割れものを触るように、そのネックレスを箱から取り出す。
「可愛い!」
「佑奈、ネックレス持ってなかったなと思ってさ」
「うん! ありがとう翔! つけて、つけて!」
ネックレスをいったん翔にあずけ、後ろを向く。
翔は佑奈の首にそれをそっとかけると、後ろの金具を閉めてやった。
「いやっほーい、ほんとにありが……」
「うごくな」
カチっという音が聞こえたと同時に、翔へ向きなおとする佑奈を後ろからぎゅっと抱きしめ、その首筋に食いつく。
「――っ……」
「ん、もういいぞ」
「い、いいいいいいきなり、なにするの!」
「なにって、キスマ……」
「みなまで言わなくてよろし!」
顔を真っ赤に染めた佑奈があわてて翔の口をふさぐ。
その距離がまた近くて、翔はそっとその手をどけると、佑奈の唇へキスを落とす。
佑奈はやっぱり頬を赤く染めながら、翔の指に自分のそれを絡めた。
翔もそっと答える。
佑奈は、本当に幸せな誕生日だなと改めてかみしめた。
家に帰ると、一つ、佑奈宛てにプレゼントが届いていた。
福井葵衣、という名を見た佑奈は飛びつくような勢いで、その袋を開けた。
「なっにかな、何かなぁ」
ルンルンと、包装をとくと、中から出てきたのは小さなリング。
「ピンキーリング……?」
一緒に入っていたメッセージカードにはこう書いてあった。
『まえにおそろいのピンキーリング欲しいねって言ってたから。勝手に選んじゃった。ごめんね。生まれてきてくれて、出会ってくれてありがとう。オリゴ糖。葵衣より』
「うへへへへへ」
こぼれる笑みが止まらない。
母にキモがられるが、今は構っていられない。
佑奈はそのピンキーリングをそっと左の薬指にはめる。
サイズもぴったりだ。
佑奈は嬉しくなって、左手を顔に近づけてみたり、遠ざけたりとしてみては、ふふふと幸せそうに笑った。
翌日、葵衣の左小指にも同じ指輪があることを認識すると、大好き! とだきつき、いつもの如くはじけ飛ばされる。
美加子からはサクラの香水をもらった。甘酸っぱいような綺麗な香りだった。
いろんな人に、いろんなものをもらった。
もちろん、彼からも。
「ほら、やるよ。誕生日プレゼント」
「あ、ありがとう! なぁに、これ?」
「手作りしおり」
渡された長細い紙を広げると、彼らしい字で『しおり』とかいてあった。
「めっちゃ適当!」
「んなことないわ」
「はいはい、ありがとうね。あ、てかなんで、一分早くメール送ってきたの?」
「ん? 俺がいっちばーん、だろ?」
「いや、まぁ日付違いますが?」
「でも俺が一番だからいいの!」
そういって変わらない笑顔で笑う〝猫〟に、佑奈は呆れたような、でも嬉しそうに、少し悲しそうに、そうかい、と返したのだった。




