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ふゆのさくら  作者: 舞桜
第三章
12/24

01夏休み明け

「おっはよ。葵衣! ひさしぶりだねぇ!」

「そだね、おはよ」

 長いようであっというまだった夏休みを終え、久々に制服に身を包んでの登校。

 夏休みが終わったと言っても、発はまだまだ続く。

 佑奈は葵衣とげた箱で再開を話、スカートをシリシリ野弧¥ところまでぱたぱたと仰ぎながら、階段を上っていた。

「なんだかんだで、夏休み一回も会ってないよね。私はバイト三昧だったし。寂しかったなぁ」

「まぁ私も受験勉強あったしね」

「絵の勉強?」

「うん」

 葵衣が県外の美術大学を目指している、と知ったのは最近の事だ。

 もともと、葵衣が絵が上手いことは知っている佑奈は、特別驚きはしなかったが、それでも県外という言葉は寂しくさせる。

「そろそろ私も進路決めないとなぁ」

「もう夏休みも終わったからね。早くしないと担任にぐちぐち言われるよ」

「う。それはやだ」

 本気で進路を決めないと大変なことになりそうだ、と深く溜息をつく。

 やっとのことで、三階までたどりつき、それぞれのくらすの教室へと入る。

「美加子、久しぶり!」

「あ、佑奈。久しぶり、元気だった?」

「もちろん!」

 他のクラスメイトの友達と挨拶を交わし、佑奈たちは長たらしい校長の話を聞きに移動を始める。

「葵衣、いこ」

「うん、すぐいく」

 廊下で出くわした葵が、シューズをとりだすのを待って、体育館へと急ぐ。

「……」

 手をつないで並んで歩く佑奈の先に、見慣れた背があった。

 佑奈よりだいぶ背が高いくせに、制服のせいで短めの死が際立っている。

 少し茶色がかった髪に愛嬌のある横顔に、変な笑い声。

 彼の残り香が佑奈の鼻をくすぐった。

「――大切な人と、好きな人って、どう違うんだろうね」

「うん? 佑奈、何か言った?」

「いんや、なにも! 急ごう、また先生うるさくなるよ」

 少し早歩きになる。

 それが本当に先生に怒られるからなのか、あの背に少しでも近づきたいからなのかという疑問には、きっと答えられない。

 そのことが悲しくが、佑奈はそっと息をついた。




 毎度毎度、長くて眠い校長たちの話が終り、次はテストだと口をすっぱくしてくりかえる先生たちの間をすりぬけ、教室へと帰る。

「美加子さんや、次のテストはなんだね」

「数学だよ、佑奈さんや」

「じゃふん」

「それ古いよ」

「でもなんだかんだ言って、私の方が成績いいよねー!」

「ん? なんて? 殴ってほしいって?」

「調子乗りました、すいません、お母上」

 ふかぶかと頭を下げた佑奈に、よろしいと満足げに見下ろす美加子。

 佑奈が少しだけ目を上げたところに、ちょうど美加子の大きな胸があった。

「……ぷよんぷよん、でかい胸そらしやがって」

「あ? 今なんかいった?」

「美加子だけずるいんじゃ! このデカ胸! 揉ませろ!」

 キランと佑奈の目が光ったかと思うと、次の瞬間にはがばっと美加子の大きな膨らみに抱きつく佑奈。

「きゃ、ちょ、やめて、佑奈!」

「でかい胸してる方が悪い!」

「これはパット!」

「嘘つけぇ! こちとらパットをどれだけ入れても膨らまないんだよ!」

「胸なんてただの脂肪だから!」

「そうだけど……でもさぁ……はっ!」

 ピタッと動きを止めた佑奈は、そのまま考え込むように腕を組む。

「どうした? 佑奈」

「――……そうか! 私は!」

「……私は?」

 きょとんとする美加子に向けて、びしっと指をさし高々と宣言した。

「胸がないんじゃなくて、肉がないのか!」

「……佑奈、それは世の中の巨乳の方々全員に喧嘩を売ったことになるんじゃ……」

「貧乳こそ正義なり!」

「それは絶対、間違っていると思うよ」

 美加子の言葉が聞こえているのかいないのか、ばんざーいと嬉しそうに一人で盛り上がる佑奈。

 ふう、と溜息をついた美加子は、やれやれと肩を落とし、先に入っとくからね、と教室に消えていった。

 我に返った佑奈は最後に悪あがきをしようと、数学の教科書を取りに、ロッカーを開ける。

「相変わらず、変態だな」

 その声は、本当に突然聞こえた。

 なにをぉ、と反射的に言い返そうとして振り返った佑奈の体がかたまる。

「まだ、変態行動収まってないんだな」

「へ、変態じゃないし! ちょっと人の匂いと女の子の胸と足が好きなだけだもん!」

〝猫〟だった。

〝猫〟が話しかけてくれている。〝猫〟と話している。

 動揺が悟られないよう、自然と返そうと努力するも、声が渦割ってしまっている。

「それを変態と認識してない辺りが、もうだめだな」

「だめってなに?」

「ごしゅーしょーさま」

「だまれ、短足」

「だまれ、ぺったんこ」

「私は胸がないんじゃなくて、肉がないことに先ほど気付いたので、いいんですぅ」

 楽しい。嬉しい。

 何ヶ月ぶりだろうか、隠れてこそこそする必要もなく、〝猫〟と言葉を交わすのは。

 張り合って、下を出し合って、顔をそむけた後に、笑い合う。

 懐かしいやりとりだった。

 あのころに戻ったみたいに。

「佑奈ちゃん、大原君と話してる時が一番可愛いね」

 近くを通ったクラスメイトの言葉が佑奈を現実に戻す。

 なにか、悪いことをしているようなそんな不安が佑奈に押し寄せた。

「え……。そ、そう?」

「んなわけないだろ。ぺったんこ」

「ぺったんこ、ぺったんこ、うるさーい!」

 べっと舌を突き出して、逃げるように教室えh入る。

 窓際で本を読む美加子を見つけ、抱きついた。

「わ、佑奈、どうしたの?」

「な、なにもないよ! ぎゅーってしたくなっただけ!」

「そ、そう? すごい動悸はやいよ?」

「気のせいだよ!」

 名のない不安がとれないなか、必死に息を整える。

 ――翔…!

 いま、その名を呼ぶのは卑怯な気がして、声になれない叫び声が心の中で響く。

 嬉しい。話せた。〝猫〟と話せた。

 どうしていきなり。なんで今さら。

 美加子の髪に涙が落ちないよう、佑奈は必死でまばたきを繰り返した。




 ぼぉっとしたままでも時間は過ぎ、午前中のテストはすべて終り、お昼休みとなっていた。

「佑奈ー? 今日はどこで食べる?」

「あーいや、あったかいし、外いこ!」

 三組の教室に顔をのぞかせた葵衣にそう告げて、お弁当を手に外へ向かう。

 くつ箱を通り過ぎ、日の下にでると、日当たりのいい石垣がある。

「よっと。さ、たーべよ!」

「いただきます」

 その石が気に腰かけ、それぞれお弁当を広げる。

 話したいことがたくさんあった。

 だから佑奈は食べるのもそっちのけで、夏休みの出来事を語った。

 ただ、どうしても翔の話をするきっかけが分からなかった。

「……えっと。そ、それでね、葵衣?」

「なに?」

「えっとぉ……」

 いきなりのへたれ発動に、葵衣は早く話せやと目で訴えてくる。

 佑奈はその視線から逃れるように目を泳がせた。

「あのぉ……。今日、ね、〝猫〟と話したよ」

「うん。みてた」

「佑奈ちゃんは、大原君と話してるとき可愛いねって言われた」

「うん」

「ねぇ葵衣? 大切な人と好きな人ってどう違うのかな」

 葵衣に問いたところで、答えがほしいわけじゃない。

 葵衣はそのことをしっているから、沈黙を返した。

「あのね、見つけた……かも、しれない。好きな、人」

「……そっか」

 驚いたように佑奈を見てから、小さな声でつぶやく葵衣。

「……こんなこというの、卑怯かもしれないけど、なんか寂しいね」

「うん……。怖い。もし〝猫〟が帰ってきたら、どう返事を返すか、分からないし。もしかしたら〝猫〟を選ぶかもしれない。けど。あの子は……翔は、それでもいいって、言ってくれたから」

「うん」

「分からないなら、分からないなりに、進んでみようかなと思って」

「……そっか。そっか、うん。寂しい、けど。良かったね、佑奈」

「うん、ありがとう。葵衣、すき」

 分からない事は山積みだ。

 だけどそれでもいいと言ってくれる優しさに甘えたんだ。

 ――それなら、もう〝猫〟と話せてよかったって、認めちゃっても、いいかな。

 少女マンガのように綺麗にはいかない。

 けれど、進まないと答えが見えないのなら、動こう。

 翔がそのことを教えてくれた。

 隣には応援してくれる親友がいる。

 クラスには味方がいる。

 なら、もうそれでいいか、と佑奈は思った。


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