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ふゆのさくら  作者: 舞桜
第二章
11/24

05海

 集合時間は6時。

 ただでさえ眠いのに、車に乗ると10分もしないうちに眠ってしまう佑奈は、執念で目を見開いていた。

 翔家の車に、翔の家族と佑奈という奇妙なメンバーで、海へと出発する。

 車の中で交わされる会話に、少しずつ慣れていく佑奈。

 隣で爆睡している翔をそっちのけで、海につく頃には、妹の彩とだいぶ親睦を深めていた。

 そうして車にゆられること3時間。

 友達の別荘だ、という立派な家にたどり着いた椎名一家(と、佑奈)は、荷物を下ろしていく。

 彩と一緒にぐぅすかと寝息を立てる翔を叩き起こし、荷降ろしを手伝わせた。

「わぁ!」

 ベランダにでると、海が一望できる。

 どこまでも広がるその光景が、とてもきれいで、ハイテンションで翔をよんだ。

「翔、翔! すごいよ、でかいよ、広いよ!」

「おうおう、毎年見てるから」

「すごいね、翔!」

「あぁそうだな」

 やがて荷降ろしが終わったから遊んできてもいい、と言われる同時に、佑奈と翔と彩は水着に着替えると海へ駆けだした。

「いやっほーい、砂浜だ! 波だ! 海だ!」

「子供みたいだな」

「なんかいった?」

「いんや、なにも」

 最初は楽しめるのか不安でしかなかったけれど、パパさんともママさんとも普通に話せるようにまで進歩した。

 妹の彩とは、もうなんの隔たりもなく、盛り上がれる。

「うん、なんだかんだ、来て良かったかもしれない!」

「そっか、なら、よかった」

 翔がほっと安心したように笑った。

 勢いで連れてきてしまったことに、少し後悔していた翔にとって、その言葉は大分嬉しかったようだ。

 不意打ちなその笑みに、佑奈はさっと目をそらして、海に顔をうずめた。

「おーい、楽しんでるか?」

「かけるー、水つめたい?」

「おとん、おかん。楽しいよ。水温もいい感じ」

「かあさーん。楽しいーよー」

 大きいうきわにしがみついて、波に身を任せている彩。

 ママさんはだまって彩の近くまで泳ぎ、歩き、近寄ると、寄せ波にまかせてぐっとうきわをひっぱった。

「え、ちょ、わぁ!?」

 砂浜にうちよせる波と、かえってきた波に挟まれバランスを失った彩はうきわごとひっくり返った。

「ぶはっ。本当にひっくりかえった」

「か、母さん!? なんてことをするの!」

「オレもまぜてくれ」

「まぜてくれ、じゃないよ、父さん!」

 そうしてまた、ひっくりかえされる彩。

 佑奈と翔は少し離れたところで、くすくすと笑っていた。

「な、おもろいだろ」

「うん!」

 翔と手をつないで海に入る。

 日差しで熱く火照った肌に触れる水はとても冷たくて気持ちよかった。

「なぁ、そのパーカーは脱がないのか?」

「ぬ、脱ぐわけないでしょ!」

「……ひんぬー、だから?」

 翔がその言葉を口にすると同時に、思いっきり翔の顔に水をぶっかける。

「ぺっ! しょっぱ! 佑奈ぁ!」

「人のコンプレックスを口にする方が悪い!」

 仕返し、とばかりに水をかけてくる翔。

 水の中ではうまく動けない佑奈は、その水を頭からかぶってしまう。

「きゃ、もう!」

「仕返し」

 べっと舌をだしてくる翔に、もう一度水をかけてやると、手をふりあげると、遠くで彩が翔をよぶ声が聞こえる。

「彩、なにー!?」

「ちょっときてぇー! 助けてぇ……わっぷ」

 いまだにパパママさんにいじめられている彩。

 やれやれと、翔は肩をすくめる。

「ちょっと、ここいて、佑奈」

「いいよ、気にしないで! いっといで、彩ちゃんがかわいそう」

 またひっくりされる彩の姿に思わず、笑みが溺れる。

 しかし彩もやられっぱなしじゃないようだ、ひっくりかえる直前にママさんも道づれにしているのが見える。

 翔はざぶざぶと、水をかき分けながら、その三人に近づいていく。

 佑奈はすぅーと泳いで沖までたどり着くと、ペタペタと砂浜を歩く。

 ――本当は、家族水入らずの旅行だもんね。

 そっとその場を離れ、別荘へと急ぐ。

 入口の横にあるシャワーをみつけ、そこで砂をおとしてから、足拭き用のタオルでしっかりと足を拭いてから、自分の鞄まで急ぐ。

「タオル、タオルっと」

 大きめなタオルで体を包んで、水をとってから、私服へと着替える。

 水着を日当たりのいい場所に干し、先ほどのベランダへ出る。

 そこから海をのぞくと、はっきりとは見えないが、椎名一家が楽しんでいるのが見えた。

「うんうん、よかった」

 いいなぁ、とは思わない。

 佑奈の両親はともに仕事人。家族旅行なんて、佑奈の記憶が鮮明なものはない。

 佑奈はベランダにあるベンチに腰掛け、ぼぉっと海を眺める。

 そのうち漂ってきた眠気にそのまま体を預け、佑奈はこくんこくんと船をこぎはじめた。




「ん……」

 波の音がゆっくりと、はっきり聞こえ始め、佑奈はそっと目を覚ました。

「佑奈? 目、さめた?」

「あれ……翔?」

「あぁ、よかった。いないことに気付いたときは、肝が冷えた」

「えへへ、ごめんね」

 急に目を刺激する日差しになれるため、ゆっくり目を開いていく。

「いま、何時?」

「昼過ぎ。もうみんな昼ごはん食べて、また遊びにいってるぞ」

「ありゃ、そんなに寝てたのか。いいよ、翔。行って来て?」

「いや、いいよ。佑奈のそばにいたい」

 まっすぐな言葉に、思わず翔を見つめてしまう。

 床に座る翔はまだ水着姿。

 佑奈とあまり変わらない背のくせして、腕や胸元はしっかりと引きしまっている。

「……佑奈、なにガン見してんだ?」

「い、いや、なんでもないよ!」

「顔、赤い」

「日焼けでっす!」

 さっと頬を手で覆い、佑奈は椅子から降りると、翔の隣に座った。

 近くにくると余計に翔の男らしい腕が筋肉で引き締まっているのが分かる。

 翔は男の子なんだ、急に実感した佑奈はその腕にちゅっと口をつけた。

「っ、わ! いきなりなにすんだよ」

「えへへ」

 佑奈は、はいはいで翔の胸元にはいる。

 葵衣や美加子とは違う、たくましい感触に佑奈はまたキスを落とした。

「ちょ、ゆ、佑奈さん!?」

「ん?」

「ん? じゃないから。やめていただけ……」

 佑奈が何気なく顔をあげると、すぐそばに翔の顔があった。

 いつぞやの、駐輪場のときのようだ。

 二人はしばらくそのまま固まったいた。

 翔は何かを迷うように、目を泳がせ。

 佑奈は心から溢れる何かに身を任せるようにそっと目を閉じ、開けた。

「っ」

 翔の顔がかぁっと赤くなる。

 佑奈が残りの距離を少しだけ詰める。お互いの息がかかる。

 翔も少しだけ、その距離を詰めた。

 そうして、ゆっくりと時間を重ねてそっと唇をかさねた。

 いったん離して、また重ねて。

 それを何度も繰り返すうちに、佑奈の背中に翔の腕が回される。

 たくましい腕だった。

 佑奈もつられるように、翔の背にだきつく。

「――ゆう、な」

「翔」

 別に雰囲気に流されたから、許したわけじゃないが、ではなぜ許したのかと聞かれても、答えられない。

 それでも、海のさざ波と、潮風と、夏の日差しが世を支配するなか。

 佑奈は翔の腕の中で、全てを任せた。


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