春のはじまり
おはようございます。こんにちは。こんばんは。
こちらの小説は一応完成しておりますが、推敲がまだまだで
打ちまちがいや名前の変更ミス等、読みづらい点が多々あることをご了承ください。申し訳ございません。
最後に。
この小説を読もうとしていただいている読者様に、最大級の感謝を申し上げます。
新しく高校三年生となった彼女――吉崎佑奈――は、校門に咲く桜の下をくぐる。
満開の桜の木が、温かい風に吹かれてゆらゆらと揺れていた。
そんな桜を羨ましそうに眺めながら、佑奈は校庭をすり抜けていく。
「やっほー、佑奈、久しぶり!」
「あ、美加子! 久しぶりだねー」
少し赤みがかった髪(ちなみに地毛)を肩まで伸ばし、黒ぶち眼鏡。セーターの上からでもよくわかる、ふくよかな胸が特徴的な彼女は、五十嵐美加子。
佑奈が高校一年のときから今までクラスメイトの女の子だ。
短い春休みを終え、始業式を迎えた学校で盛り上がる生徒たち。
みんな、校庭に集まり、クラス発表を待っているところだった。
「――あ、葵衣! だいすき!」
「ん。おはよ」
「おはよー! 葵衣と同じクラスがいいなぁ」
「絶対ないね。だってわたしと佑奈、進路ばらばらじゃん?」
「そうだけど……こう、愛の力で!」
「それこそありえないね」
「あう」
胸のあたりまで伸ばした綺麗な黒髪を、春の風に遊ばせているのは、福井葵衣。
佑奈と初めて知り合ったのは入学当時のバイト先。葵衣はすぐやめてしまったが、学校でも知り合うようになった。
いまや、佑奈の大親友で、いつどこに行くのもずっと二人で過ごしてきた。
わいわいと騒ぎながら、目の前にある黒い布で覆われた看板が開かないかと今か今かと待ちかまえている。
「はーい、みんな、下がって下がって!」
やってきた先生たちによって、黒い布が取られると同時に、あたりには悲鳴に似た歓声が上がった。
「あ、私、三組だ! 葵衣は?」
「わたし、二組」
「えー!」
「えー、じゃない。隣じゃん」
「だけどぉ……。あ、美加子! 何組だった?」
「三組、佑奈と一緒だよ」
「やったぁー!」
「はいはい、よしよし」
「えへへー」
佑奈に飛びつかれ、顔を胸にすりつけられている美加子に同情のまなざしで見つめていた葵衣は、ふともう一度クラス発表の看板に目をうつす。
誰かの名前を探すようにキョロキョロと視線を動かし、しばらくしてある一つの名前をじっとみつめた。
「――佑奈」
「ん? なぁに、葵衣」
美加子にまた後でね、と声をかけ、葵の隣にたつ。
葵が見つめる先が何か、すでに分かっているのか、顔は上げずじっと地面を見つめている。
「少し、安心した。同じクラスじゃなくて」
ぽつりと葵にしか聞こえないほどの小さな声で、佑奈がつぶやく。
「〝猫〟さん、四組だもんね」
「うん。三年間、隣のクラスって逆にすごくない?」
寂しさをこらえたように、そっと笑ってみる。
同じクラスになりたくなかったと言ったら、嘘になる。
でも、きっとそうなっていたら、佑奈は自分を抑えれる自信がない。
だから、安心したのだ。
「〝猫〟さんの彼女さんは?」
「一つ年下だから、同じクラスになる可能性はゼロだよ」
「あ、そっか」
「ばっかでぇー葵衣」
「佑奈にだけは言われたくありません」
「私はテストで赤点を取ったこともなければ、単位を落としたこともありませぇーん。ねぇ、世界史欠点だった福井葵衣さん?」
「だまれ」
「怖っ!」
「あたたかいです、怖くなどありません」
「その笑みが一番怖いです、葵衣さま」
そっとその場を離れながら、いつものように騒ぎながら次の教室へと移動する。
「――あ」
隣を通り過ぎた佑奈の頭一つ分大きい影。
顔を見なくても、姿がはっきり見えなくても、分かる。
懐かしい香りが佑奈の鼻をくすぐった。
「そういえば、こんなに会わなかった日が続いたのって初めてだなぁ」
彼女さんと上手くっているのか、と、得体のしれない不安に襲われないわけではない。
けれど佑奈はいつも通り、何も知らないふりをした。
「……春休みだったもんね」
「うん。相変わらず、かっこいい」
「はいはい、ほら行くよ」
葵に手をひかれ、新しい自分のクラスへと足を踏み入れる。
「あ、やっときた、佑奈」
「美加子! お待たせ」
扉のすぐ近くにいた美加子を見つけ、次に新しいクラスメイトの顔を見渡す。
これからこのメンバーで最後の一年を過ごすのだと考えると、わくわくしてきたのか、佑奈は落ちつきなくキョロキョロと視線を漂わせている。
そんな佑奈をみてそっと安心したように息をついた葵衣は、その教室から背を向けた。
「んじゃあ、わたし二組だから。またね」
「あ、うん! また後でね、葵衣!」
「美加子ちゃん、面倒くさくなったらほっといていいからね、これ」
「はーい」
「葵衣、これってひどくない!? 美加子もはーいってどういう事よ!」
「そういうこと」
くすくす笑いながら、教室を出ていった葵衣にべーっと舌を出してみせてから、もう一度、クラス内を見渡す。
見知った顔、初めてみる顔。もう三年にも関わらず、意外と知らない顔が多く見えた。
「佑奈の席は一番後ろだよ」
「はーい……って、やった、まじでか!」
「吉崎、だからでしょ。よかったね、出席番号順で」
「弥生は五十嵐だから、前の方だもんねぇ。うひょひょ、どんまーい」
「え? 課題いらないって?」
「すいません。写させてください」
三年目となるやりとりに、まったくと美加子が笑う。
新しい一年、最後の一年が始まった。