元人間で元男で元勇者で現魔王妃?
なんとか今日中に投稿しようと頑張りました。誤字脱字があればご指摘ください。
拙い文章ですが最後まで読んで頂ければ幸いです。
人間の国の王は一通の手紙を前に頭を悩ませていた。
それは、停戦の協定を結ぶために近々人間の王に会いに来るといった内容の魔王からの手紙だった。
「陛下、これはまたとないチャンスです!魔王が向こうから来てくれると言うなら罠を仕掛けて討つべきです」
「その通りです。魔物共も魔王がいなくなれば統率を失うはず、その隙に根絶やしにしましょう」
「馬鹿を言うな、相手は魔王だぞ!停戦してくれるというならそれに越したことはないだろう」
「そうだ、我々にもどんな被害が及ぶのか分からん。停戦の協定を受け入れるべきだ」
現在、会議室の意見は二つに割れていた。
魔王を迎え撃つべきだという意見と、停戦を受け入れるべきだという意見の二つだ。
王も魔王が討てるならそれに越したことはないと考えている。しかし、今までの被害状況などから見て、失敗した時の報復を考えると恐ろしいものがある。
「何を弱腰なことを言っている。勇者がいなくなった今、我々が魔王を倒さなくてはならないだろう」
人間の国が召喚した勇者は、魔の森を前にして怖気づいたのか失踪してしまった。監視役を務めていた姫もちょうど目を離しており、未だにどこに行ったのかはわからない。なかには魔の森に入って、死んでしまったのではないかという意見もある。
「我々が弱腰だと!!無駄に犠牲を増やすことが勇敢だとでもいうつもりか!?」
「無駄などではない!!魔王を倒すための必要な犠牲だ!!」
「そもそも魔王が倒せる保証がどこに――――」
「静まれ!!!」
王の怒声が会議室に沈黙を落とした。
「余は停戦について魔王と話をしようと考えている」
「陛下!!それは―――」
「最後まで話を聞け!!」
「も、申し訳ありません」
「我々の国は長きに渡って魔物との戦いをしてきた。犠牲になった者たちがどれほどになろうか」
そこで王は、犠牲となって散っていった騎士や歴代の王の姿を思い浮かべた。
「しかし、未だに魔物との戦いは続けられている。我は常々考えていたのだ。この国が今以上に発展するためには、もう魔物との戦いをしている場合ではないのかもしれないと。だからこそ六年前に勇者という犠牲者を使ってまで魔王を倒そうとした。しかし、それも失敗に終わった」
会議室にいる者は王の言葉に耳を傾けて誰も口を挟もうとはしなかった。
「もちろん、停戦の協定が我々の側に対して不等なものであれば、今まで命をかけて戦ったものたちへ顔向けができない。そのときは全力を賭して魔王を討ちとろう。全ては停戦の協定の確認を行ってからという少々強引な作戦ではあるが、余の我儘に付き合ってもらえないだろうか?」
この日、人間の国は魔王の来訪に対する対応を決めた。
高度三千メートルを飛行する巨大な黒い影が三つ存在した。全身に鱗を纏い、鋭い牙と爪を持ち、その巨大な翼で空を舞う者、竜と呼ばれるものだ。今空を飛んでいるのは黒竜と呼ばれる種類の魔物だ。
空の王者は人間の国に向かって飛んでいた。
「リン、無理して付いてこなくてもいいのですよ?」
「い、いや、そ、そそ、そんな訳には、い、いかないでしょ」
え、声が震えてるって。いやだなぁ、そんな訳ないでしょ。け、決して高い所が恐いとかじゃないよ。少し顎が痙攣してるだけだよ。
「まあ、私としては嬉しいのでいいんですがね」
くそう、楽しそうに笑いやがってぇ。仕方ないじゃないか、こうやって何かにしがみついていないと落ちそうで恐いんだから。あっ違うよ、恐くないよ!!
「二・三日で帰りますから、城で待っていて下さいと申し上げたのに、そんなに私と離れるのが寂しかったのですか?」
「ち、違うよ!!三日間くらい我慢できるよ」
「おや、では寂しいとは思ってくれるんですね」
なんだよその笑みは!!ボクが寂しいと思っちゃおかしいのかよ!!
「いいえ、とても嬉しいですよ」
ジェイドはそう言うとボクの腰に手を回した。
「では、なぜ付いて来たのですか?」
ジェイドは少し真剣な顔で尋ねてきた。
「だって、ボクがいるからでしょ、停戦の協定を結ぼうとしているのって?」
ボクが正式に王妃になってから、一度だけ人間の兵隊が魔の森に侵攻してきたことがあった。犯罪者を殺すことには何の躊躇いも覚えないけれど、罪のない人間を殺すことにはかなりの抵抗があった。それでも、魔王妃になるということは、人間の敵になるということ。だから、止めるジェイドを振り切って、侵攻して来た三十六人の兵隊を一人で殺した。しばらくご飯があまり食べられなかったけど、いずれ慣れていくつもりだった。でも、それを見ていたジェイドは人間の国と停戦を結ぶことにしたらしい。
「でも、いいの?停戦することに他の魔物は反対しなかったの?」
今回ボクが気になっていることはこれだ。ボクの一人のために停戦なんかしたら不平不満が出るんじゃないかってことだ。
「大丈夫ですよ。元々人間が勝手に攻撃をしてくるから、それを迎え撃っていただけですしね。停戦をすれば煩わしいことがなくなって、返って喜ばれますよ」
そ、そうだったのか。ボクが人間の王から聞いた話とはまったく違う。まあ、旅をしている途中で薄々勘付いてはいたけどね。なんか村人の話とか聞いてても襲ってくるのは知能が低い魔物ばっかりだし、実際に知能の高い魔物はボクたちを見てもこっちが攻撃をしなければ襲ってこなかったしね。それに、魔王城に住んでいる魔物は皆ボクに優しかったし、なんか魔物というよりも地球でいうアメリカ人と日本人の違いみたいな気がした。まあ、地球でも良好な関係になるまでは戦争とか色々あったしね。
「そっかぁ、それならいいんだ」
ボクは懸念事項がなくなった安心感に体の力を抜いてジェイドにもたれかかった。
「フフ、それに私はリンさえ幸せなら他はどうでもいいんですよ」
なにか物騒な呟きが上から聞こえましたけどォォォ!!!
「ちょっ!!なに言ってんの!?ジェイドは王様でしょ、皆の幸せを考えなくちゃ」
「なら王様をやめてしまいましょうか?そしたら一日中リンといられますね」
今だってほとんど一日中一緒にいるじゃないか!!それに一緒にいるだけじゃなくて……その……。
「リン、何を思い出していたのですか?」
「い、いや、別になにも」
「まったく、リンが嘘を付くのは治りませんね。ほら、早く本当のことを言わないと、ここでリンが思い出していたことをしますよ」
ここで!?ど、どうしよう、言わなくちゃいけないのかな?でも口にするのは恥ずかしいし、でも―――
「主、妃が困っているぞ。それに我らもいることを忘れていないか」
頭に届いた念話に顔に熱が集まるのが分かった。
そうだったァァァ!!ザンクやネルフィンもいるんだったァァァ!!!
一緒の竜に乗っているわけではなく、魔王軍団長のザンクと側近のネルフィンは隣の竜に、少し後ろにはマリアと数名のメイドを連れた竜もいる。ボクの頭からはすっかりそのことが抜け落ちてしまっていた。
「無粋ですねザンク。そこは見て見ぬふりをするところでしょう」
「あとでそのことに気付いた妃に怒られるのは主だと思うが―――」
「やっぱりジェイドは気付いてたんだね!!なんで教えてくれなかったの」
ボクがそう言うと、ジェイドは腰に回していた手の力を強めた。
「リンが私しか見えていないことがあまりにも嬉しかったものですから」
べ、別にそんなことは、いや、そうなのかな?実際に周りに他の者がいるのは忘れていたし―――
「続きは降りてからしましょうね」
ジェイドは楽しそうに笑ってボクに軽いキスをした。皆が見ているなかで。
「ジェイドの馬鹿ァァァァァァァ!!」
「もう、知らない」
「すみませんでした、リンがあまりにもかわいかったものですから」
「ジェイドはいつもそうやって誤魔化そうとする。今度は許さないからね」
「それは困りましたね。どうすれば許してもらえますか?」
「しばらくボクにくっつかないで」
「それは無理ですね」
「結論が早いよ!!少しは考えて!!」
「残念ですが私は少しでも長くリンに触れていたいのです。それに、リンも私に触れられるのは嬉しいのではありませんでしたか?」
「ボクがいつそんなことを言ったの!?」
「それはもちろんベッ――――」
「言わなくていい!!!」
魔王を出迎えた人間の国の王と重役たちは、どうみても仲の良い恋人か夫婦がいちゃついているようにしか見えない光景を目の前に固まっていた。
魔物の中でも存在自体が災厄と言われる黒竜が三匹も接近してくるという報告を受けた人間の王は、茫然とする重鎮たちを引きつれて城の庭へと出た。街の国民には魔王との会談を知らせてある。賛否は分かれているが概ね王の考えは受け入れられている。国民も度重なる争いに疲れ果てているのだ。しかし、竜に乗ってくるとは誰もが思いもしなかった。城にいる戦力を全て費やしても勝てるかどうかという相手だ。死の覚悟すら持って出迎えたのだが―――
「もう、ボクは会談の間は街で買い物でもしてるからね!!行くよ、マリア」
「はい、リン様」
魔王といちゃついていた銀髪の少女は、一人のメイドに声を掛けると指を鳴らした瞬間に消えていた。メイドも魔王に向かって一礼すると同じように消えていった。
「さて――」
魔王が初めて人間の王に顔を向けた。
「はじめまして、人間の国の王よ。私は魔物の国「ランドレイ」の国王をしております、ジェイド=ウォズ=ランドレイと申します。この度は会談の機会を設けて頂きありがとうございました」
そこに先程までの穏やかな雰囲気はなく、あるのは触れた物を凍らせるような冷たい瞳だけだった。
人間の国の王は改めて魔王と呼ばれる存在に畏怖を覚えた。
「まったく、ジェイドはいつもボクをからかって遊ぶんだから」
「それだけリン様のことを愛してらっしゃるのですよ」
「あ、愛してるって、な、なんか語感が恥ずかしくない?」
好きとかよりも大人な感じがするというか、想いが深いというか。とりあえずなんか気恥かしい!!
「そうですか?とても素敵な言葉だと思いますよ」
「そ、そう?」
「はい、今度魔王様に言ってみては如何ですか?きっと、お喜びになりますよ」
「今はジェイドの話はいいよ!!あっほら、あの店を見てみようよ」
後ろからマリアの笑う声が聞こえるが、顔が赤いのがばれるので、ボクは振り向かずに商品を見てる振りをしていた。
その後、ボクとマリアは夕方になるまで買い物を楽しんだ。勇者だったころはお城で訓練して、終わったらすぐに旅に出たからあまり街を見たことはなかった。だから、とても新鮮は気分だった。
お昼はたまたま見かけた定食屋に入り値段の安さに驚き、買い物ではやたらと布が薄い下着を勧めてくるマリアから逃げ回り、人身売買の集団に襲われた時は、逆にアジトまで二人で乗りこんでいき壊滅させた。犯人たちを縄で縛って衛兵に引き渡した時の彼らの呆気にとられた顔はしばらく忘れないだろう。
そんなこんなで城に帰った私たちは二人揃ってジェイドの元へ向かった。ジェイドの魔力はとても大きいので分かりやすいの。
「ただいま」
「おかえり、リン」
ジェイドは脚を組んで椅子に腰かけていた。手にはワインが入ったグラスがある。
なんだ、その完璧な魔王の姿勢は!?次のセリフは「よくぞここまで来た勇者よ」しかないね。
「マリア、今日はもう下がってもいいですよ」
「はい、かしこまりました」
「マリア、買い物に付き合ってくれてありがとうね」
「いえいえ、私も楽しませていただきました。では、お休みなさいませ」
マリアは深く礼をすると退出していった。
「今日は楽しかったですか?」
「うん、やっぱり人間の国と魔物の国では売ってるものが全然違うね。色々と新鮮だったよ」
「そうですか、それはよかったですね」
ボクはジェイドに向かいに腰かけて今日会ったことを話していた。
「ところで、会談はどうだったの?」
「滞りなく進んでますよ。明日には終わると思いますよ」
「そっかぁ」
ということは、明日には帰れるのかな?
「ところで明日はどうしますか?また、街に行きますか?」
「うーん、どうしようかな」
買い物は十分にしたし、見たいものは一通り見たからなぁ。
「ねえ、ジェイド」
「なんですか?」
「会談ってボクが出席したら駄目かな?」
「リンがですか?」
ジェイドの表情が難しいものになった。
「あ、駄目だったらいいの。ジェイドがどんな仕事をしてるのか少し興味があっただけだし」
「いえ、駄目というわけではありませんよ。リンは私の妻ですから出席することに問題はありません。私のことを知りたいというリンの気持ちは嬉しいですしね」
つ、妻って、事実だけど照れるじゃないか。
「ですが――」
「?」
「リンは大丈夫ですか?」
ジェイドがずっと心配してることが分かった。
ジェイドはボクがこのお城にいることで辛いことを思い出さないか心配しているのだ。
「大丈夫だよ」
ボクはもう一人じゃないから。
最後の言葉は恥ずかしくて口では言えなかったけど、ジェイドはボクの心が読めるから伝わっているはずだ。
「そう、ですか」
ジェイドは目を細めて微笑んだ。
「もう、寝ましょうか」
「うん――あっ!ボクまだシャワー浴びてないや、すぐに浴びてきちゃうね」
「フフ、私が洗って差し上げましょうか?」
「け、結構です!!」
ボクは近くにあったクッションを投げつけると浴室に駆け込んだ。
そう、ボクはもう一人じゃないんだよね。
「今日は私の妻であるリンにも出席して貰います。リン」
わかってるよジェイド。さあ、見せてあげようじゃないか、ボクの実力を。
「お初にお目にかかります、人間の王様。ジェイドの妻で魔王妃を務めております、リン=ランドレイと申します。今日は会談への出席を許可して頂きありがとうございました」
どうだ!!この完璧なあいさつ。ボクだってやればできるのさ!
「これはこれは、ご丁寧にありがとう。余はこのザイラック国の国王のアッシュ=ビリア=ザイラックと申す。奥方様なら会談に出席しても問題ないだろう。どうか気楽にしてくれ」
と、言われますけど………この空気でどうやって気楽にしろと!?皆さんの目が恐いのですが!!相手が魔物だから警戒するのは分かるけど、もう少し和やかなムードでお話はしたいよね。こっちになにもする気はないんだからさ。
会談に出席している人たちの目は三種類。殺気と恐怖と生温かい目である。
おい、殺気と恐怖は分かるけど生温かい目ってなんだよ!?あれか、昨日のあれのせいか!?やっぱりジェイドが原因じゃないかぁぁぁ!!
「では、会談を始めよう」
ボクの精神的ダメージに関係なく会談は順調に進んでいった。たまに無茶苦茶なことを言う人もいたけど、全部ザイラック王が止めていた。
三時間ほど経つと会談も終わりに近づいた。どちらの国にも違約金などはなく、協定は条件や詳細は細かく決められた。
「こんなところだろうか?」
「そうですね、こちらも不備はなさそうです」
「では」
「はい」
ジェイドとザイラック王は立ちあがると近付いて手を握り合った。
「「停戦協定を結ぶ」」
おお!!これで正式に協定が結ばれたわけか。なんだか歴史的な瞬間に立ち会えたみたい。
「そなたたちはもう帰るのかな?」
「はい、城の者たちも待っていますので」
「そうか、では庭まで見送ろう」
というわけで、テクテクと長い廊下を歩き黒竜がいる場所までやってきました。
「今度は余がそちらに行ってみたいものだ」
「ぜひ、お待ちしております」
ジェイドは最後にもう一度ザイラック王と握手を交わしていた。
これで見収めかな?
ボクはその間に、もう見ることがないかもしれないザイラック城を感慨深く眺めていた。するとバルコニーに見知った顔があった。
セリア―――
セリアは六年前よりさらに大人らしくなっていた。ジェイドには大丈夫だと言っていたが、実は少し恐いこともあった。それは、セリアを見た時のボクの気持ちだ。男だったときの昔のボクはセリアのことが好きだった、それは間違いない。でも、今は女としてジェイドのことが好きだ、それも間違いない。男だったときのリンと、女のリン。中途半端なボクの心がセリアに会ったときにどうなってしまうのか、それが恐かった。でも―――
懐かしいなぁ。
ボクの心は不思議な程に落ち着いていた。後悔に浸ることも憤怒にかられることもなかった。ただ、懐かしいという思いだけがそこにはあった。
「リン、帰りますよ」
振り返るとジェイドがこちらを見て微笑んでいた。
「うん、今行く」
そうだ、男だったときのボクも女のボクもボクはボクだ。過去は過去でしかない。今のボクはジェイドのことが好きなリンというだけで十分じゃないか。
ボクはザイラック王の前まで行くと礼をした。
「今回は停戦を結んで頂きありがとうございました」
「いや、こちらこそ礼を言うべきだろう。ありがとう」
そう言うと、ザイラック王は頭を下げた。
「い、いえ、私は何もしてませんから」
「ランドレイ王が言っていたよ。今回の停戦は奥方様が人間と争うことを嫌ったからしたことだとね」
ザイラック王の顔には苦笑があった。
ジェイドォォォォォ!!なんてことをォォォォォ!!
「す、すみません、我儘な人ですので」
「なに、奥方様を大切に思っていることが伝わってきましたよ」
ああ、ボクの顔はきっと真っ赤になっていることだろう。
「さて、そろそろ行ったほうがよさそうだ。旦那様が待ちくたびれているようだからな」
言われてジェイドを見ると、顔は笑っているが確かに限界のようだった。
少し話していただけじゃんか!!
「それじゃあ、これで失礼させていただきます」
「ああ、もうひとつだけ奥方様に伝えたいことがあったのだった」
「なんでしょうか?」
「―――――――――」
「――――ン―――リ―――――――リン!!」
「うわッ!!」
びっくりした!!
「ジェイド、急に大きな声で呼ばないでよ」
「私がずっと呼んでいてもリンが気付かなかったからですよ」
「あ、そうなの、ごめんね」
「いえ、いいですけど―――ザイラック王になにか言われましたか?」
ザイラック王かぁ、言われたには言われたんだよね。
『すまなかった、勇者殿』
あれはどういう意味だったんだろう?ザイラック王はボクが勇者だって気付いてたってことだよね。だとしたら、どこまで知っているんだろう?
「リン、あまり深く考えなくてもいいと思いますよ」
「ジェイド、だから勝手に人の考えを読まないでってば」
「私はリンのことならなんでも知りたいのですよ」
ボクにプライバシーというものはないらしい。
「で、深く考えなくていいっていうのは、どういうこと?」
「そのままですよ。きっとザイラック王は、私の話やリンが魔王妃になった時期、その他のもろもろの情報からリンが元勇者であると判断したのでしょう」
「ふーん、じゃああの謝罪の意味は?」
「王というのは常に国のことを考え、民の幸せのために動かなくてはなりません。自分の想いや感情をそこに挟むことはできないのです。常に最良の判断を下す、それが王ですから。きっと先程の謝罪はザイラック王がリンにできる唯一の贖罪だったのでしょう」
「そっかぁ」
王様もなかなか大変なものなんだなぁ。………………。
「惚れなおしましたか?」
「なっ!!」
「今、私もそんな仕事をしているのかと考えていましたよね」
「か、考えていたけど、それと惚れなおすのは別の話でしょ」
「おや、それは残念ですね」
ボクはクスクスと笑っているジェイドの背中を見た。
ボクはここまでしてくれるジェイドになにかしてあげられるだろうか?今回も、そして今までも、ボクはたくさんジェイドに助けられて支えられてきた。ジェイドはこんなボクを好きだと言ってくれた。そんなジェイドにボクはなにができるだろうか?
いつも見ているはずのジェイドの背中が少し遠く見えるのは気のせいだろうか?
「リン」
「………なに?」
「愛してますよ」
「………………うん」
「たとえリンが泣いて離してくれと言っても、私は決してリンを逃がすつもりはありません」
「………………うん」
「ずっと隣にいて貰いますからね」
「…………うん!」
本当に、もう、ジェイドはボクに甘すぎるよ。ほら、おかげで前が見えないじゃないか。
「ジェイド」
ボクはジェイドの背中に抱きつく。
「ボクはあなたを愛しています」
ずっと、あなたの隣にいることを誓います。
これは、元人間で元男で元勇者で現魔王妃が、後に魔術製作の才能を開花させ、魔王を支えた賢母として語られていく物語の始まりである。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
今回でとりあえず書きたかったお話は全て書けました。この後は思いついた小話をポツリポツリと投稿していこうと思っています。
今後もよろしくお願いします。