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3、淫夢が筒抜け?

 丘の上にいた。

 ありえないくらいの広さに、色彩が氾濫する花の群れを見ながら。

 夢の中にいるんだな、ってすぐわかった。


 見はるかす、ずーっと向こうまでいっぱいの花、花、花。

 色とりどりの花は、膝を埋める深さで視界のはしっこまで広がっている。

 丸い地平線はその向こうで、真っ青な空と接していた。

 涙が出るほどきれいだった。


 「どうして泣いてるの?」

 耳元で話しかけられた。

 ウィズの唇が直接、あたしの耳たぶに当たっている。

 膝頭を花にくすぐられながら、ふたりで花畑を見ていたのだ。

 「どうしてって‥‥。 わかんない。 幸せだからかな」

 涙が頬をこぼれ落ちる瞬間、彼の唇がそれを掬い取った。

 

 頬に当たった彼の唇を、待ち受けて自分の唇に移動させる。

 すぐにその行為はあたしを夢中にさせ、心臓は急ぎ始めて呼吸が苦しくなった。

 背中に回った彼の掌が、もう他の場所に移りたくて落ち着かなくなってる。


 花の中に埋もれて、ふたり横になった。

 青空が上から顔に光を降り注ぐ。

 頭の周りの花が倒れて、まあるく花に縁取られた空。

 その空を半分遮って、逆光になった彼の顔が上からあたしに降りて来た。

 キスってすごい。

 何年かかっても届かないほどの大きな思いを、一瞬で彼に届けてくれる。

 あたしたちは花の中で抱き合って、ゆっくりと互いの思いを伝え合った。

 もう青空も花畑も見えなかった。 

 あたしの服のボタンを、唇と歯先だけで彼が外して行く。

 体を開く恥ずかしさと、そこに相手を呼び込む喜びがある。

 あとは、何も考えられなくなった。



 「うきゃー」

 目が覚めて、ベッドの中で真赤になった。

 あたし、欲求不満かしら。

 なんでこんなエロい夢を見るわけ?

 現実にはありえないぞ、ウィズと青空エッチ。

 人の気配がないとは言え、あんな開けっ広げなとこでその気になるオトコじゃないんだって。

 おまけに、感触がめっちゃリアルだった。 未だに体中が熱く火照っている。

 あたしってこんなにいやらしい人だったのね。

 

 その時ようやく気づいた。

 胸の中でもぞもぞと動いている、インコの存在を思い出したのだ。

 「こ、こらッ」

 インコはくちばしで、あたしの乳首をつついていた。

 「原因はお前かっ」

 

 懐から出してまた悪さをしたら大変だと思って、寝る時も鳥籠に戻さなかった。

 寝返りを打って万が一にも潰しちゃったりしないように、転がりにくい体制で仰向けになって左右に布団を入れた。

 もし転がってしまった時にインコが自分で逃げられないと困るので、ブラを外して寝巻きだけになった。

 そうやって眠りに就いたあたしの体の上を、インコは自由に移動して、好き勝手に突付きまわしていたということだ。

 「お前はバター犬の鳥さん版か!!」

 どうしてくれよう、このエロインコ。


 少し落ち着いてきたあたしの頭の中に湧き上がって来た不安は、このことをウィズが見てたらどうしよう、ということだった。

 あたしの魔術師は、しょっちゅうあたしの夢の中を覗いて行く。

 わざと見てるわけじゃない、って言うけどどうなんだか。

 インコに触られて、あんなにトロトロになってた夢の中のあたし、絶対にウィズには見られたくないと思った。

 そしてその瞬間、ウィズがあんなに悲しそうな顔をしたのは、このことを予見していたからなんじゃないか、と思い当たったのだった。



 次の晩はさすがに下着を着けて寝た。

 ウィズの話だと、丸1日あればインコの飼い主の居所を突き止められると言う。

 朝になったら彼に連絡して、一緒にインコを返しに行けばいい。 それまでの辛抱だ。

 そう自分に言い聞かせて、ベッドに入った。

 

 こんどの夢は、最初からヤバイ感じだった。

 なにしろ目の前が薄暗くて、何やら淫靡な香料の香りが漂う、ピンクの寝台の上に居たのだ。

 あんなに念入りにブラとキャミソールをつけて寝たのに、夢の中のあたしは全裸だった。

 体の上に覆いかぶさってくる、相手の体も服をまとっていない。

 「ウィズ、やだっ」

 熱く火照ったふたりの皮膚が重なり合う。

 肩を押し返そうとしたら、両方の手首をつかんで体を開かせられた。

 「やめて、お願い‥‥」

 ウィズとエッチするのがいやなんじゃない。

 でもこの夢の中のウィズは、あたしの想像上のキャラであって、本物のウィズにとっては他人なのだ。

 もしも本物のウィズに見られたら、あたしはインコと浮気したインラン女って事になる。

 そりゃ、夢の中だから怒られる筋合いじゃないけど、やだもん、こんなの。

 あたし自身がやだもん。

 全身に力を入れて、なんとかウィズの腕から逃げ出そうとした。

 そうしながら、この拒絶行為も違う意味でウィズを傷つけるんじゃないかと思って、愕然とした。


 「なんで逃げるんだよ」

 上から責める様な口調で言われた。

 「じっとしてろよ、あんただってやりたいんだろ!?」

 ギョッとして相手の顔を見た。

 ウィズじゃない。

 暗がりでよくわからないけど、あたしを上から寝台に押さえつけている若い男は、知らない奴だった。

 「あなた、誰?」

 言いながら抵抗を強めた。 事態は更に悪化したのだ。 あたしは、自分の頭でウィズ以外の人を作り出して、夢の中でエロいことをさせようとしたって事になるのだ。

 こんなとこ、絶対絶対ウィズに見せられない!!

 

 その時、枕元で音楽が鳴り出した。

 ウィズからのメールの音!!


 あたしは目覚めた。

 携帯を開きながら、重い体を引き起こす。

 ブラの中でインコがひっくり返ってもがいている。

 そこはあたしの部屋のベッドの中だった。 エロい夢から戻って来られたのだ。


  『お待たせ。 インコの戻し先がわかった。

   神戸のトラピスト修道院の中にある、愛児院という児童施設だ。

   一緒にインコを連れて行こう。 朝6時に出れる?』


 時刻は朝の4時だった。

 普通ならそんな時間にメールはしないし、そんな時間に出発もしない。

 やっぱり絶対、夢の中を覗いてるわね。 ウィズったら!!

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