表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/32

20、不死身なあいつと魔術師なあたし

 今夜、12時。

 夢の中で会おうね。

 

 おとぎ話の台詞じゃないよ。

 あたしの魔術師は大真面目で、そんな台詞をおやすみなさいの代わりにする。

 そしてほんとに実行してしまう。

 

 気がつくと、あたしはちゃんとあの時のお花畑の中にいた。

 青空は視線の先のずーっと高いところにある。

 草の感触は背中の下に。

 そう、花畑に横になっていたのだ。

 

 ウィズの顔が、視界を遮ってあたしを見下ろしていた。

 なんと、既に彼の腕の中にいるじゃないか。

 ふたりで横になって抱き合っている。‥‥服は着てるけど。

 「ええと‥‥あはは」

 あんまり唐突なんで、笑い出してしまった。

 「いきなりここからなの?」

 ロマンチックな夢のデートのはずなのに、突然ベッドシーン(ベッドはないけど)から始まるって、ちょっといただけない。


 「もう、ウィズのエッチ」

 「違うよ。 エッチは美久ちゃんじゃないか」

 「あたし?」

 「だって美久ちゃんの夢の中に来てるんだよ。 だからこれはみんな、キミが考えたこと」

 えええ? そうなのか? あたしがスケベか?

 この前から見ているウィズとの青空エッチは、やっぱりあたしの願望か?


 「願望とは違うよ、ただの想像だもの。

  望んでないことを想像しちゃうことは、誰でもあるだろ」

 言いながらウィズの指先は、さりげなく仕事をしている。

 やだ、そこでボタン外したらだめ。 屋外なんだよ、ミギワが来たら丸見えだよ。

 え? もしかしてこれもあたしの想像?


 「そうだよ、忘れないで。 ここでは美久ちゃんの想像が全て。 美久ちゃんが魔術師なんだ。

  僕やミギワは外から来て、ここに干渉してるけど、美久ちゃんの頭で想像できない光景は絶対に現れないから、悪いことを想像しないようにすれば悪いことは起こらない。

  ほら、覚えてないかな。 以前夢の中で、僕は君に手錠をかけたことがある」

 「覚えてるわ」

 「あれは『拘束する』という行為から君が想像した映像なんだ。

  少し前に僕らはふたりとも、本物の手錠を触っていたから、共通認識があった。

  それを僕が利用して映像に乗っかったんだよ」

 「ああっ」

 「なに?」

 「ウィズの手、すごく冷たい‥‥」


 胸の中にちゃっかりと潜り込んで来たウィズの手は、震え上がるほど冷たかった。

 すると魔術師はいたずらそうに目を輝かせて、耳元でこう囁いた。

 「あったかいよ。

  ちゃんと想像して。 僕の手は冷たくなんかない、暖かいんだ」

 するとウィズの掌は、あたしの胸の上でほわんと暖かくなった。

 「ね?」

 「そうか、あたしは魔法使いね。

  でもって、ウィズはあたしをコントロールしてるから、魔法使い使いね!」

 「なにそれ!」

 ウィズが笑った。

 笑いながら更に大胆になって、あたしのブラを外し、指先は下半身へとスライドしながら、胸の敏感なエリアに舌を這わせた。


 「やん。 だめ」

 「ダメなら想像するのをやめてごらん」

 意地悪く言われてムッとした。 

 憎ったらしい! そんなら断固拒否してやる。

 あたしは自分自身に言い聞かせた。

 「想像しない! あたしは想像しない。

  ウィズがあたしの胸を‥‥あ、〇〇(ピー)するとか想像しない!

  ゆ、指を‥‥いやっそこ‥‥〇〇(ピー)〇〇(ピー)ってるとか、絶対想像しない!

  あああっ、それがあたしの〇〇(ピー)〇〇(ピー)ってもの凄く〇〇〇〇(ピー)ちゃうだとかなんて、死んでも想像しない!」

 「美久ちゃん、美久ちゃん」

 ついにウィズが吹き出した。

 「大丈夫? 全部実況しちゃってるんだけど」

 「ふええええん、ウィズの意地悪ぅ」

 「いや、そこは頑張るトコじゃないと思うんだけどなあ」

 「だけど、ミギワが来たら中断でしょ? キスだけにして?」

 「わかった」


 ウィズの唇があたしの唇にそっと触れ、それからゆっくり深く重なって来た。

 ウィズのキスは好き。 キスだけならいつでもOKだ。 お互いの口に爆弾でも詰まってない限り。

 ‥‥え? 爆弾!?


 ヤバイ。 爆弾を想像してしまった。

 ギョッとした。 あたしとキスするウィズの口の中に、何か硬い物が生えている。

 舌先で探ると、薄く平たい金属の感触。

 よかった、爆弾じゃない。 ‥‥って、じゃあこれは何!?


 あたしは唇を離し、ウィズの胸をぐっと押した。

 遠ざかった彼の顔は人形のようにうつろで、その口から銀色の物が突き出していた。

 銀色に光る、薄っぺらくて冷たい金属。

 

 刃先‥‥だ。

 うっすらと血の赤がまとわりついた、刃物の先っぽ。


 

 「ウィ‥‥ズ?」

 ウィズの体がどさりとあたしの胸に落ちて来た。

 首の後ろに、長い銀色の刀身が生えていた。

 日本刀だ。

 刀身をゆっくり目で辿ると、(つば)が見え、(つか)が見え、それを握っている殺人者の白い手と顔に行き着いた。

 「ミギワ‥‥くん」

 

 ミギワは唇を震わせてしばらく呆然としていた。

 そのあと静かに笑い始めた。

 「なんだ‥‥なあんだ、簡単なんだな!」

 高らかな笑い声と共に、ミギワが日本刀をウィズの首から引き抜くと、ざあっと音がするほどの大量の血が、あたしの顔と胸に降りかかった。

 「あははは、殺した! 殺せるじゃないか。

  なあんだ、吹雪なんか簡単に殺せるんだ!」

 ミギワは日本刀を放り出し、高笑いのためよろけながら走り去って行く。


 悲鳴をあげたが、ほとんど声にはなっていなかった。

 「ウィズ! ウィズ! ウィズ死んじゃだめえっ」

 ウィズの体の下から這い出したあたしは、なんとか出血を止めようとしたけどだめだった。

 目を見開いているのに、涙で何も見えなくなる。

 

 「美久ちゃん」

 ふと死体の顔のまま、魔術師がしゃべった。

 「美久ちゃん、僕は死なないから」

 そんな顔で武田鉄矢なことを言われても。

 「美久ちゃんが想像しなかったら死なないんだってば」

 「あ、そ、そうか。 わかった。 ウィズは元気ね!!」

 取って付けたように言うと、確かにちょっとだけ大丈夫な気がして来る。

 そうよそう、ウィズは不死身よ、全ッ然平気。

 バリバリ元気なのよ、わかった? わかりましたか美久ちゃん!!


 「よおし、はい起きて下さい!」

 あたしはわざと勢いよく、ウィズの体を押しのけて立ち上がった。

 「怪我人でもないのに、いつまでも寝てないの。

  ミー君を追いかけるわよ。 ほら早く立って走るの」

 「うわ‥‥きッつ‥‥」

 ウィズはホントに死に掛けていたらしく、何か口の中でぶつぶつ言いながら、辛そうに体を起こした。

 首筋からピューピュー血が出てるんだけど、信じないことにしよう。

 「はいはい、急いで急いで」

 あたしはよろよろしているウィズを引っ張って、ミギワが消えた方向へ走って行った。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ