12、ミー君と遊ぼう ~テレビゲーム~
次の日。
ミギワのリハビリ終了時間を見計らって部屋をノックしたが、返事がない。
代わりに隣の部屋のドアが開いて、オタリーマン白井さんが飛び出して来た。
「美久ちゃんやったやったやった、初勝利!!」
ドサクサに紛れて、あたしの手を握りまくる。
「えええっと、ええっと、白井さん今日はお休みですかァ」
がくがく揺すられながら聞いたが、相手は人の話なんぞ聞いちゃいない。
「やっと吹雪くんを負かしたぞ。
早く気づけばよかった、あいつシューティング物がくっそ弱!!」
ウィズがゲーム?
そう言えば、やってる所を見たことはない。
映像を予測できるんだから、すごく器用にやりそうな気がするんだけど。 多分白井さんもそう思って、これまでウィズとの勝負にゲームを選ばなかったんだと思うんだけど。
昨夜の怜さんの提案により、ミギワを囲んで、3ヶ月の間みんなで楽しく遊ぼうということになった。
それでウィズとあたしと怜さんは、他の常連さんや知り合いを巻き込んで、いろいろ遊びの企画を組み始めているのだが、一番手っ取り早いところで白井さんが、ミギワの遊べるゲームを貸してくれるという話が出たらしい。
白井さんの部屋は、部屋と言うより繭に近い状態だった。
ウィズの部屋と足して2で割ればいいのにと思うくらい、物が溢れた部屋なのだ。
室内に大量のディスク、ビデオ、本、フィギュアが並べられた棚が、利便性を無視してマンハッタンの高層ビルみたいに林立。
クローゼットのドアが開かないせいで、ハンガーにかけた洋服は頭上を占領。
テレビ前のわずか1畳分の空間に、「辛うじて人が座れるが立っちゃダメ」なスペースがある。
マンションの室内なのに、秘密基地に案内された気分だった。
その唯一の座れる空間に、ミギワがべったり座って熱心にテレビゲームをやっていた。
画面の中では、黒い服を着た魔法使いが、襲ってくるドラゴンを杖から出る網で次々と捕獲している。
後ろで見ていたウィズが、苦い表情で肩をすくめた。
「僕、このゲーム駄目だ。 混じっちゃってさ」
「混じるって何が」
「相手が攻撃してくる瞬間の画が、予見で事前に見えちゃうんだよ。
ちょっとほら、シューティング物にしてはユルイじゃないか。 それがいけないんだ」
「ははあ」
そういえば以前にウィズは、全開時の能力で見た映像を、実像と区別できずに苦労していたことがある。 ミギワにやらせるために白井さんが持ち出した、初心者向けのゲームなのかもしれないが、その簡単さがかえって仇になっているわけだ。
「今更言い訳しても、負けは負けだ。
1位になったら、最下位の奴に好きなことやらしていいって約束だからな。
吹雪くんにはアレ着てもらうぞ、ア・レ」
白井さんが指さす先には、ハンガーにかけられた燦然と輝くショッキングピンクの衣装が。
ピンクの水着っぽい物に、ウサ耳が添えてある。 そしてアミタイツ。
こ、これはまさか。
「そう! ピンクバニーちゃんだあ!」
白井さんが幸せそうに叫んだ。
「着ろよ、着るんだ吹雪。 今日こそ恥ずかしい格好をさせてやる。
さんざ写メ撮って、怜くんにも送ってやる!」
「でも、1位は白井さんじゃありませんよ」
ウィズの声は冷静だった。
「ミギワが4万点越えました」
テレッテレレー、テレッテッテレレー。
ゲームオーバーのデジタル音。
それに混じるは、白井さんの悲鳴。
「げえええ? 4万3千点!! ウソだ、僕より2千点も多い!」
「はいミギワの勝ちー。
よしよしミー君、僕に何をさせたい? あのヘンな服、着せたいか」
ウィズに肩を抱かれ、ミギワは微かに笑った。
「いやだ。 気持ち悪い」
あたしとウィズは爆笑した。 そりゃそうだ。
「じゃあ、代わりに何をしたらいい?」
ウィズが聞くと、ミギワは少し迷って口ごもりながら言った。
「美久ちゃんの家に行く」
「え?」
「美久ちゃんの家に行きたい」
あたしたちは顔を見合わせた。
「そりゃあたしはいいけど。
でもこれって、ウィズにやらせる罰とは違うよね」
「うーん、いいけどね」
「なんだ。 それなら簡単に解決するさ。 はい」
白井さんがヒョイとあたしに、ゲームのコントローラーを投げて寄越した。
「美久ちゃんが一番負けすればいいんだよ」
「なによそれ。
あたしが、視界スクランブル中のウィズよりひどい点取るって言うの?
いっくら初心者でもそこまで鈍くは‥‥」
トッテッテリラー、トッテッテリラー。
「あッ、急に始めないでよ。まだ操作も習ってないって。
やん、これ動かない。 どこ? ボタンじゃなくてレバー?
レバーなんてないじゃん、あーッいきなり死んだじゃないの、待ってよ!
う、動いた。って右にしか行かない! 右にしか行かない! 右にしか行かないいいいい!!
吐くな、まだ火吐くなってばああああッ死んだし!!
おお、左に動いた。 って飛んだ? 何で飛ぶのよおお! きゃあ着地はそこだめええええ!!」
テレッテレレー、テレッテッテレレー。
後ろを振り返ると、ウィズと白井さんが狭い床に折り重なって倒れていた。
笑い転げて死に掛けている。 なんと、ミギワまでゲタゲタ笑ってるじゃないか。
「す、すげえ美久ちゃん。
僕、このゲームで0点取る人初めて見た」
涙を流しながら、白井さんに言われた。
「まあまあ美久ちゃん、怒らないの。
これで美久ちゃんはミギワのシモベなわけだから、希望通りお家に招待してあげたらいいんだ」
ウィズが、ふくれっ面のあたしの頭をヨシヨシしてくれる。
「し、シモベ‥‥。 美久ちゃんがミギワくんのドレイ‥‥」
白井さんが鼻の穴を膨らませて何やらトランス状態になった。
そして、ミギワに駆け寄ると、手を取って迫り始めた。
「ミギワくん! 美久ちゃんにウサちゃんの衣装を着てもらおう!!
ね、ね、おうちへ行った時でいいから、これ着て接客してもらおう。
で、で、で、僕も一緒に行かせてよ。 いいだろ? 美久ちゃんが着るなら気持ち悪くないだろ?
か、可愛いぞきっと美久ちゃん。 キミも男なんだから絶対わかるはずだ!!」
青少年を不純な道に誘うんじゃない!!
ほら、ミギワがなんだかわかんないのに、迫力に押されてうなずいちゃったじゃないかあ!
今回は少々ギャグテイストでお送りしました。
前作「‥‥お茶を」でのメイドのコスプレ事件がまだ尾を引いています。
ですので次回は再度コスプレ罰ゲームをお送りします。