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10、禁じられた遊び(2)

 慌てて担ぎ込んだ動物病院で、クレソンは息を吹き返した。

 ところがその後が大変だった。 少しも安静にしていないのだ。

 まだヨロヨロしてるくせに、必死で起き上がってケージによじ登ろうとする。 

 当然落っこちるのだが、登れないとなると出口を見つけて体当たりする。

 そのうちヤケになったかのように、ケージに頭だけをガシガシぶつけ始めた。


 「やめてクレソン、死んじゃうわよ!」

 止めようにも、近づいただけで威嚇するのでどうにもできない。

 「先生、この子、頭がどうかなっちゃったんですか?」


 動物病院のお医者様は、田島という同姓の先生がふたりだった。

 インカの王様というイメージの顔立ちの、痩せたおじいちゃんと、その息子らしい若い先生だ。 

 息子の方は、髭面のごついおっさんで、医者というよりサーカスで調教師をやった方が似合いそうだった。


 「これねえ、怯えてるんだねえ。

  飼い鳥では滅多にないんだけどねえ。 

 野生のスズメなんか、成鳥になってから捕まえたらこうなることあるの、どうにもならないの」

 王様の方の田島先生が、間延びした声で教えてくれた。

 「人間に捕まったら殺されると思ってるわけだからねえ。

  このケージに保護されてるってことが理解できないの。 

  だから命を懸けてでも逃げようとして、挟まって死んじゃったり、ぶつかって大怪我したりするんだねえ」


 捕まったら、殺される。

 ミギワが、父親に対して抱いたのと同じ感情だ。

 ああ、ここに小さな虐待連鎖がある。

 あたしの胸はひどく痛んだ。

 クレソンはひとまず入院と言うことになった。


 「なあ、あいつカレシか?」

 書類手続きをしているウィズを待っている間に、調教師の方の髭面田島センセが小声で話しかけて来た。 診療時間外なので、手が空いているらしい。

 「あんたは乱暴されてないか?

  良ければ相談に乗るんで、言ってきてくれ」

 「は?」

 あたしは何のことだかわからず、間抜けな顔で聞き返す。

 「時々、ペットをボロボロに虐待したあとで、人間にも手を出す奴が居るからな。

  あ、いや、違ったらいいんだ。 

  失礼なこと言ったんだったら悪かった、すません、すません」

 ウィズが飼い主と思って、とんでもない想像をしたらしい。

 つまりプロの目から見て、これはペット虐待による症状ということなんだろう。




 動物病院を出たウィズは、まずコンビニで新聞を買った。

 ウィズが普段朝刊を取ってない、と言う話を聞くと、みんなが驚く。 

 昨年から始めた株で、既に8億と言う私産を叩き出した怪物だからだ。 

 「新聞なんて読まなくても見てるよ」

 そんなわけのわからないことを言われても、一般人にはわからないのだが、とにかく普段の魔術師は新聞を必要としていない。


 今日の魔術師は、新聞を持ってあたしを近くのファーストフード店に引っ張り込んだ。

 2階席の目立たないところで、テーブルいっぱいに新聞を広げ、あたしにはメモとボールペンを渡して、

 「僕が言うことを、書き取ってくれる?」

 それからホントに唐突に目を閉じて黙り込んでしまった。

 途端にテーブルの周辺がムワッと暑くなり、水のコップが水滴だらけになった。

 わ、大変だ。 いきなり全開するつもりなんだ。

 せめてシェイクを飲み終わってからやって欲しかったけど、もう手遅れだ。

 1分後、あたしは速記を習っておかなかった事を後悔した。



  2013年 5月18日   楠木 みやび(13)

  2014年 3月23日   宝田 加耶乃(11)

  2014年 6月10日   蜷川 芽美 (10)

  2014年 8月1日   春日 麻奈 (12)

  2014年 9月4日   前岩 このみ(11)

  2014年 9月20日   泉  奈菜子(13)

  2014年 9月29日   高野原うらら(10)

  2014年 10月2日   ‥‥‥

  2014年 10月4日   ‥‥‥

  2014年 10月5日   ‥‥‥

  2014年 10月5日   ‥‥‥

  2014年 10月6日   ‥‥‥

  2014年 10月6日   ‥‥‥

  2014年 10月6日   ‥‥‥

  2014年 10月6日   ‥‥‥


 「もうダメえ」

 手が痛くなってペンを放り出した。 

 ウィズも大きく息をついて、新聞の上に突っ伏した。 さすがに疲れたらしい。

 「なんなの、これって。 未来の記事を読んだのよね」

 「だんだん間隔が縮まる。 日課になる」

 「は?」

 預言者の台詞は、時として会話の成立を拒む。


 ウィズは意味不明のことを言ったとすぐに気づいたらしく、静かに顔を上げてあたしを見た。

 「ミギワが他の誰かに化けて、殺した女の子の名前だよ。

  あ。 正確にはこれから殺す女の子のね」

 あたしはコップの水を飲もうとして失敗し、胸元を濡らしてしまった。

 「ミー君が人殺しに‥‥」

 「ミギワの未来は、本来ならあの愛児院で終るはずだった。

  栄養注射だけでは長いこともたないからね。 でもうちに来たことで、ミギワの運命は変わった。

  今後生き続ける彼の、新しい運命を今日初めて読んだんだ。

  彼は‥‥新しい人生を、人を殺すことに費やすようになる。

  これは僕も計算外だ」


 ウィズは、あたしが走り書きした文字を読み返しながら唇を噛んだ。

 「殺した女の子を‥‥なんていうか、いやに念入りに解体するんだ。

  猟奇殺人でしかも連続なんで、最初は同一犯として扱われるんだけど、そのうち何人のも容疑者が逮捕されて‥‥」

 「乗り移られた人たちね」

 「結局模倣犯と言うことになる。 

  真実は誰も知らない」

 「というか知ったとしても信じないよね。 

  他人の体を借りて殺害したなんて」

 「逮捕しても逮捕しても、後釜が出る。 

  伝染病じゃないかとさえ言われるんだが」

 「どうやったら止められるの」


 魔術師は伏せた睫毛をそろりと上げた。

 「ウィズ!! 止められるよね?」

 

 ウィズはすぐに返事をしなかった。

 静かに息をついて、

 「怜に相談してみようか」

 と言ったのは、結局自分ではどうしていいか決められなかったからだろう。

  

  

 前話とひとつの章で書き上げるつもりだった部分なので、続けて更新しました。

 次回は怜さんの、殺人鬼についての、柔らかめの講義です。

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