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からくり競艇〜ホームレス、魂のフルスロットル〜  作者: 水前寺鯉太郎
第3部:SG編

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第49話:宮島の女神、蒼き再始動

宮島SG・グランドチャンピオン決定戦、予選4日目。ハルのマブイ石は依然として沈黙を保っていた。乾はレースの合間、翼に連れられ、水面に浮かぶ世界遺産・厳島神社の本殿へと向かった。

「見て、健児。この鳥居は、満潮の時には完全に海に浸かる。ここは古来から、海と陸、そしてマブイと現世の境界線なのよ」

翼が差し出したのは、若松の海底爆弾から回収した「純粋なマブイの結晶」だった。これをハルの石に接触させ、厳島の潮汐エネルギーと共鳴させる。それがハルを呼び戻す唯一の賭けだった。

乾はマブイ石を両手で包み、海に祈った。

「ハル……。お前がいないと、宮島の波はただの壁だ。頼む、戻ってこい。もう一度、あの泥水の中で笑おうぜ」


その瞬間、厳島の大鳥居を中心に、宮島の海面が蒼白く輝き始めた。

海底から湧き上がるような、荘厳な旋律。ハルのマブイ石が乾の熱を受け、厳島の潮流と「完全調和」を果たしたのだ。

属性進化――『神性・海属性ネプチューン』。

「……おじさん。……長い夢を、見ていた気がするよ」

ハルの声が、今まで以上に透き通った響きで乾の脳内に届く。マブイ石は元の蒼色を超え、真珠のような輝きを帯びた「神秘の蒼」へと変貌していた。

彼はもはや海に溶ける存在ではない。海を統べる「意志」そのものとして再起動したのだ。


再起動したハルを乗せ、乾は予選最後の勝負駆けに挑む。相手は議会の刺客、プロジェクト・零。

零は乾の過去のデータを元に、宮島の干潮時の最短ルートを模倣して先行する。

「乾健児、無駄だ。今の潮流なら、このラインこそが唯一の正解」

「……零。お前のデータは、今の『海』に嫌われているよ」

ハルが静かに囁く。乾がハンドルを切った瞬間、宮島の海面が意志を持っているかのように大きく隆起した。

特性:『厳島の加護ミヤジマ・ブレス』。

通常なら失速するはずの外側の潮流が、乾の機艇を押し上げる「波の坂道」を作り出した。乾の『泥龍』は重力を無視したような加速で、零の「模倣」を外側から一気に飲み込んでいく。


「なっ……潮流を物理的に操作しただと!? 計算不能……! 模倣の範疇を超えている!!」

零の機艇が、予測不能な波に揉まれ、旋回を乱す。

乾はハルと完全に同期していた。

右腕の17,000のマブイが、ハルの『神性』と混ざり合い、美しく澄んだ白銀の軌跡を描く。それは勝利への渇望を超えた、水面を慈しむような「神域の旋回」だった。

新奥義――『白銀・宮島大鳥居旋回プラチナ・トリイ・ターン』!!

大鳥居を背に、乾は完璧なマントルを水面に刻み込み、1位でゴールを駆け抜けた。


ピットに戻った乾とハルを、翼が涙を浮かべて迎えた。

「おかえり、ハル……。本当によかった」

「翼さん、ごめんなさい。……でも、今の僕は今までで一番、『自分』を感じているよ」

ハルの復活により、乾健児は最強の相棒を取り戻した。

だが、敗れた零は、その無機質な瞳に初めて「暗い熱」を宿していた。

「……イレギュラーの極致。理解した。……決勝では、私も『模倣』を捨てる。議会が隠蔽してきた、からくり競艇の『真の恐怖』を見せてやろう」

宮島SG、ついに決勝。

神の加護を得た乾とハルに対し、プロジェクト・零は自らの殻を破り、異形の怪物へと変貌しようとしていた。

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