第47話:若松、燃える海。暗殺部隊の総攻撃
若松SG・オーシャンカップ5日目。ハルの「海属性」への覚醒は、マブイ議会に最悪のシナリオを想起させた。
「海水のすべてを味方につける属性……。それが完成すれば、議会によるエネルギー統治は崩壊する」
議会トップからの指令は冷酷だった。乾健児の抹殺、そしてハルの回収が不可能であれば、若松競艇場そのものを「物理的に消去」せよ。
海底のマブイ吸引機は、その役目を終え、超高濃度のマブイ・エネルギーを蓄積した「海底爆弾」へと転換された。
準優勝戦、第12レース。
乾がピットに出ると、そこには異様な殺気が満ちていた。暗殺部隊のリーダー・カイを含む三隻の機艇が、乾を囲むように並ぶ。
「乾健児。このレースにゴールは存在しない。貴様はここで、若松の海と共に藻屑となるのだ」
カイが放つ属性変質――『深海の処刑場』。
海底爆弾のカウントダウンに連動し、海面から数千の「マブイの棘」が突き出し、逃げ道を塞ぐ。
「……おじさん。僕には、海の底で何かが叫んでいるのが聞こえる。……熱い、熱いって」
ハルの意識は依然として海と同期したままだが、迫りくる爆発の予兆を感知し、恐怖で震えていた。
「若松SG・準優勝戦……全艇、起動!!」
スタートの号笛。それは開戦の合図だった。
議会の機艇三隻が、一斉に乾へ体当たりを仕掛ける。さらに、海底爆弾から漏れ出したエネルギーが海水を加熱し、若松の海は蒼い炎が揺らめく「燃える海」へと変貌した。
「……っ、ハル! 海属性だろ!? この状況、どうにかしろ!」
「……海水が……エネルギーに変換されすぎている。おじさん、このままじゃ機体が溶けるよ!」
翼がピットから叫ぶ。「健児! 海底の吸引機が爆発したら、北九州一帯が吹き飛ぶわ! 爆発の前に、マブイ石のコアを直接叩いてエネルギーを逃がすしかない!」
乾は決断した。レースを捨て、爆発を止めるために「海の底」へ向かうことを。
だが、カイが立ちふさがる。
「行かせん! 議会の意志は絶対だ!」
「……どけよ、木っ端役人が。俺たちは、泥水の底から這い上がってきたんだ。こんなところで沈んでたまるか!!」
乾は、ハルの『海』属性を全開にした。
最終奥義――『蒼海一閃・渦龍』!!
海属性により水分子を自在に操れるようになった乾は、自機の周囲に巨大な渦を発生させ、カイの機艇を弾き飛ばした。そして、そのまま垂直にバウンドし、燃える海面を突き破って海底へとダイブした。
海底、数千度マブイの熱源。乾は『泥龍』の出力を17,000の限界まで絞り出し、白銀の衝撃波を爆弾のコアへと叩き込んだ。
――ドォォォォォォォン!!
若松の海面が大きく盛り上がり、蒼い光の柱が夜空を貫いた。
爆発のエネルギーは乾の白銀マブイによって空へと逃がされ、若松消滅の危機は辛うじて回避された。
だが、海面に浮上した乾の機艇は、ボロボロに焼けただれ、ハルのマブイ石からは一切の光が消えていた。
「……ハル。おい、ハル! 返事しろ!」
静まり返った若松の海。
暗殺部隊は撤退したが、乾健児が手にしたのは、あまりにも重い「静寂」だった。
そして、その光景を遠くから見つめる影があった。




