第45話:若松の蒼き衝撃、オーシャンカップ開幕
1994年。競艇界に新たな歴史が刻まれた。G1クラス以上の優勝者のみが集う、真の強者を決める新設SG**「オーシャンカップ」**。その記念すべき第1回大会の舞台に選ばれたのは、北九州・ボートレース若松。洞海湾に面したこの水面は、夜になると海からの潮が満ち、独特の「うねり」を伴う重厚な戦場へと変貌する。
しかし、この記念すべき祭典は、マブイ議会にとって乾健児を抹殺するための「公式な戦場」でもあった。
「健児、若松の海はただの海水じゃないわ。議会が海底に設置した『マブイ吸引機』が、レース中の全エネルギーを奪い取ろうとしている……。ここは、文字通りの海戦よ」
翼の警告通り、ピットには議会直属の暗殺部隊**「深海」**の3名が、一般レーサーを装って潜り込んでいた。
予選初日、第12レース。乾の前に立ちはだかるのは、暗殺部隊のリーダー、カイ(海)。
彼の属性は**「水の重質変質――『重圧』」**。
若松の海水をマブイで重金属のように重くし、他艇の機動力を物理的に奪う、力による処刑を得意とする男だ。
「乾健児。17,000の盟約だか何だか知らないが、海の底に沈めばすべては無に帰す。新設SGの最初の勝者は、議会の意志を継ぐ我らだ」
カイの機艇『深海王』が放つ蒼い波動は、若松の夜の海をさらに深く、暗く染めていく。
「若松SG・第1回オーシャンカップ……全艇、起動!!」
スタートの号笛。乾は『白銀・17,000の盟約』を研ぎ澄まし、スリットへ。しかし、第1マークへ向かう途中で、水面が異常な重さを帯び始めた。
属性変質――『蒼き深淵の鎖』。
カイが放つ重圧により、機艇のプロペラがまるでコンクリートを掻いているかのように回転を落とす。さらに、海底の装置が乾のマブイを強制的に吸い出し、乾の右腕に耐えがたい疲労感が襲いかかる。
「……っ、体が動かねえ! 潮が……俺を底に引きずり込もうとしてやがる!」
「おじさん、これ、海水じゃない! 議会が特殊な『重質マブイ』を水面に散布してるんだ。普通の旋回じゃ、遠心力で機体が粉砕されるよ!」
ハルの警告が、荒れ狂う潮騒の中で響く。
4. 蒼き閃光:オーシャン・ドライブ
乾は、重圧に抗うのをやめた。
江戸川で源から学んだ「潮流との対話」、そして上田から学んだ「肉体の制御」。それらを今、若松の重い海の中で一つに融合させる。
(……重いなら、その重さを『バネ』に変えるだけだ!)
乾は白銀のマブイを機体の底面へ集中させ、水面との間に高密度の「マブイのクッション」を生成。重い海水を「踏み台」にして、水面から跳ね上がるような特殊旋回を繰り出した。
新奥義――『白銀・蒼海跳躍』!!
カイが作り出した重い鎖を飛び越えるように、乾の『泥龍』が夜の海を跳ね、最短距離で第1マークを旋回。蒼い閃光となって、カイの機艇の真横を突き抜けた。
結果は、乾が1着。カイが2着。
しかし、カイの表情には敗北感はなかった。
「……ほう、我らの重圧を飛び越えたか。だが乾、今の跳躍で貴様のマブイは大幅に消耗したはず。……オーシャンカップは6日間の長期戦だ。最後までその翼、動くかな?」
カイは暗闇の中へ消えていった。
乾は、激しく消耗し、震える右腕を隠しながら、翼とハルに微笑んで見せた。
「……へっ、若松の海は、少し塩辛いだけだぜ。……第1回王者の椅子、議会の野郎にゃ一瞬たりとも座らせねえ」
新設SGオーシャンカップ。それは、競艇の歴史を守る「泥水の王」と、それを根絶しようとする「深海の処刑人」による、凄絶な海戦の幕開けに過ぎなかった。




