表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
からくり競艇〜ホームレス、魂のフルスロットル〜  作者: 水前寺鯉太郎
第3部:SG編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/58

第40話:鉄の意志、白金の継承

江戸川G1・準優勝戦。第12レース。

1号艇、江戸川の鉄人・源権造。2号艇、鋼の肉体を得た乾健児。

ピットで見つめ合う二人の間には、言葉は不要だった。源の属性『沈黙サイレンス』と、上田の特訓によりマブイを内側に封じ込めた乾の『鋼の白金スチール・プラチナ』。

かつて乾を縛り、源が今なお守り続ける「17,000」という数値。しかし、今の二人にとってその数字は、単なる出力の指標ではなく、江戸川という魔物をねじ伏せるための「最低限の礼儀」に過ぎなかった。

「若造。上田にシゴかれたようだが、肉体フィジカルだけじゃ江戸川の『魂』は掴めねえぞ」

源が機艇に乗り込む。その背中は、江戸川の濁流を長年受け止めてきた巨石のように不動だった。


「江戸川G1・準優勝戦……全艇、起動エンゲージ!!」

スタートの瞬間、乾は上田から学んだ「マブイに頼らない重心移動」で、江戸川の激しい波を物理的に切り裂いた。

マブイを爆発させず、筋肉のバネで機体を制御する。その姿は、まるで荒波の中を泳ぐ銀色の野獣のようだった。

だが、源はそれをさらに上回る。

属性変質――『鉄錆のラスト・ケージ』。

源が放つマブイは、派手な光を一切出さない。代わりに、周囲の水の分子を強引に重くし、他艇のスクリューを「錆びつかせる」かのように重圧を加える。

「……っ、機体が重い! 上田さんの特訓で鍛えた筋肉が、千切れそうだ!」

乾は歯を食いしばる。マブイを封印しているため、この重圧を「生身の体」で受け止めなければならない。


第1マーク。源は絶妙なタイミングで旋回に入った。

「見ておけ、健児! これが江戸川で生き、江戸川で死ぬ男の『最後の手本』だ!!」

源は全出力を開放した。17,000。

その瞬間、江戸川の激流が源の機艇に触れた刹那、水面が鏡のように平伏した。源は川と戦っているのではない。川そのものが源の一部となり、彼を進むべき方向へと押し出しているのだ。

源権造・最終奥義――『静寂の凱旋サイレント・ロード』。

乾はその圧倒的な「調和」の美しさに目を奪われた。力でねじ伏せるのでもなく、無で透過するのでもない。泥水の中で生きる者の、究極の「共生」の形だった。


「……ジジイ。あんた、格好良すぎるぜ」

乾は、自分の中に眠る『白銀』のマブイを、上田の鋼の意志で練り直した。

封印を解くのではない。鋼の殻の中に、江戸川の泥水と同じ「流儀」を流し込む。

属性が、冷たい鋼から、熱を持ちながらも形を変え続ける**『流動鋼リキッド・スチール』**へと進化した。

乾は源が作った「静寂の道」の、わずかな隙間に機体を滑り込ませた。源が水を鎮め、乾がその上を鋼の刃となって切り裂く。

二隻の機艇が、江戸川の夜に並んで航跡を刻む。


結果は1位、乾健児。2位、源権造。

僅差で乾が差し切った。

ピットに戻った源は、愛機のハンドルを優しく撫で、そのまま乾の胸に手を置いた。

「……合格だ。俺の17,000を、お前は自分の色で塗り替えた。……江戸川の魂、お前に託したぜ」

その夜、源権造は静かに引退を表明した。

「江戸川の鉄人」から「泥水の王」へ。時代が動く音が、江戸川の波音に混じって聞こえてくる。

だが、乾に浸っている時間はなかった。

「……おじさん。源さんの引退で、マブイ議会が動いたよ。決勝戦、あの『上田通彦』が本気で君を潰しに来る」

ハルの言葉が、冷たく響く。

次はいよいよ江戸川マスターズ・決勝。

鉄人の意志を継いだ乾と、虚空の艇王・上田。

二人の「17,000」の果てにある、最終決戦が始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ