第36話:黄金の夜明け、蒲郡に散る偽光
SGボートレースクラシック、優勝戦。
蒲郡のナイター照明は、今夜のためだけに増設され、真昼をも凌ぐ眩い光が水面を白く焼き尽くしている。
1号艇、乾健児。そして3号艇には、地元の執念を背負った織田信哉。
「乾、影は光がなければ存在できない。ならば、影を作る隙もないほどの『全方位の光』で、お前を消滅させてやる!」
織田が放つ属性極致――『黄金の太陽』。
彼の機艇『光輝・信長』からは、視神経を灼くほどの黄金の波動が溢れ出し、蒲郡の水面を鏡ではなく、一つの巨大な「発光体」へと変えていく。
対する乾は、翼から託されたプロペラ『月下美人』と、ハルの精密な空間補正を融合させ、完全なる無音の「静寂」を纏っていた。
「蒲郡SG・クラシック優勝戦……全艇、起動!!」
スタートの号笛。織田の28,000のマブイが爆発した。
スリットを通過した瞬間、織田の機艇から放たれた光が、実体を持つ「槍」となって乾のコースを塞ぐ。
属性変質――『極光・天の岩戸』。
「……っ、前が見えねえ! 影を作るための光さえ、強すぎて『壁』になってやがる!」
乾の『月下美人』が、吸収の限界を超えて火花を散らす。光を吸い込みすぎた機体は、逆に熱を持ち、自壊の危機に瀕していた。
「おじさん、吸い込んじゃダメだ! その光を『屈折』させて、一点に集めるんだ! 太陽を焼き切るほどの『レーザー』に!!」
ハルの叫びが、乾の脳内に直接響く。
乾は、右腕の白銀マブイを「面」から「凹面鏡」の形へと変容させた。
光を遮るのではなく、織田が放つ膨大なエネルギーを自らの機体で集光し、一つの細い「闇の線」へと収束させる。
最終奥義――『白銀・影龍一閃』!!
織田の黄金の光の海を、乾の放つ「漆黒の光線」が真っ二つに切り裂いた。
それは光がない場所ではなく、光を極限まで凝縮したことで生まれた、光よりも速い「影の弾丸」だった。
第1マーク。織田の黄金の旋回。
だが、その黄金の壁の中に、乾の影が音もなく「溶け込んだ」。
光を吸収し尽くした乾の機艇は、織田の機体の「影」そのものになり代わり、スリップストリームを利用して最内を抉り取る。
「馬鹿な……俺の光を『踏み台』にしたというのか!?」
織田の絶叫を背に、乾は闇の中から飛び出した。
その瞬間、乾の機体から吸い込まれていたすべての光が、七色の虹となって夜空へと解放された。
蒲郡の夜空に、人工の照明ではない、魂が放つ本物の「夜明け」が訪れた。
ゴールライン。
1位、乾健児。2位、ハル。3位、織田信哉。
乾は、1994年最初のSG、ボートレースクラシックを制した。
表彰台の上で、乾、ハル、翼の三人は肩を組んだ。
「……おじさん、またやっちゃったね。僕の計算、また17,000どころか測定不能だよ」
「当然でしょ。あたしの整備した機体なんだから」
翼が誇らしげに笑う中、乾は優勝カップを高く掲げた。
だが、その視線の先、観客席の暗がりに、冷徹な視線を送る一団がいた。
「……乾健児。光と影、その両方を手に入れたか。だが、からくり競艇の『真の主』である我らマブイ議会が、貴様をこれ以上野放しにはせん」
乾の戦いは、一人の王(龍平)を倒しただけでは終わらない。
世界を裏で操る「システム」そのものとの戦いが、ここから始まろうとしていた。




