表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
からくり競艇〜ホームレス、魂のフルスロットル〜  作者: 水前寺鯉太郎
第2部:重賞挑戦編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/21

第20話:多摩川の修羅、B1級の壁

大村での死闘から3ヶ月。黒崎龍平の野望を打ち砕き、ハルの魂を取り戻した乾健児、ハル、翼の三人は、ついにプロの世界で「中堅」とされるB1級へと昇格していた。

しかし、B1級は「一般戦の王」でいられたこれまでとは訳が違う。そこは、SGスペシャルグレードへの登竜門であるG3・G2重賞レースへの出場権をかけた、剥き出しの生存競争の場だった。


1993年、秋。乾のホームグラウンドである多摩川競艇場。

乾は、新宿の仲間たちがカンパしてくれた新しいパーツを機艇に組み込んでいた。大村でボロボロになった『鉄屑・ニードル』は、翼が沖縄から取り寄せた特殊合金と、ハルの精密な調整により、銀色に輝く**『銀鱗ぎんりん・ニードル』**へと進化を遂げていた。

「おじさん、これ。日本モーターボート競走会から届いたよ」

ハルが差し出したのは、黒い縁取りの重厚な招待状。

**「G3・多摩川キングカップ」**への出場通知だった。

「G3か……。ついに『重賞』だな」

乾の右腕には、まだ「異常振動症」の震えが残っている。しかし、大村で属性が**「白金プラチナ」**へと進化したことで、17,000の熱量はより安定し、かつてのような自滅の危険は減っていた。

「健児、浮かない顔ね。……今回のG3、パパの息がかかった連中だけじゃないわよ。本物の『A1級』たちが、新入りのあたしたちを潰しに来るわ」

翼が、真紅のライディングスーツをなびかせて現れた。彼女もまた、B1級としてこのレースに招待されていた。


多摩川G3、初日。

ピットの空気は、これまで経験した一般戦とは比較にならないほど濃密だった。並んでいる機艇の一隻一隻が、まるで生き物のようにマブイを脈動させている。

中でも異彩を放っていたのは、現役A1級のトップレーサー、とどろき 厳十郎げんじゅうろうだった。

彼の属性は「土」の極致――『重力グラビティ』。

彼が歩くだけでピットのコンクリートが沈み込み、周囲のレーサーたちはその「圧」だけで呼吸を乱す。

「……お前が乾健児か。大村で黒崎の老いぼれを倒したそうだが、あんなのは政治屋の遊びだ。本物の『レース』を教えてやる」

轟の16,000のマブイ出力は、数値こそ乾に劣るが、その「密度」が違った。無駄な放出が一切なく、すべてのエネルギーが勝利への「重み」に変換されている。

3. 多摩川第12レース:見えない壁

「多摩川G3・予選ドリーム……全艇、起動エンゲージ!!」

スタートの号笛とともに、6隻の機艇が多摩川の泥水を蹴り上げた。

乾は17,000の「白金」を全開にし、スリットラインをトップで通過する。しかし、その瞬間。

「……っ!? 体が、重い……!」

2号艇の轟が放つ属性変質――『大地の抱擁ガイア・バインド』。

多摩川の水面そのものの質量が増大し、乾の機艇はまるで見えない泥沼に突っ込んだように失速した。属性「白金」の鋭い「斬」をもってしても、水面全体の重さを切り裂くことはできない。

「ハル! 翼! 左右から挟め!」

乾の合図に、ハルと翼が反応する。

翼の「マグマ」が水面の重力を熱で解かし、ハルの「風」が重力の歪みを計算して乾を押し上げる。

しかし、轟は不敵に笑った。

「甘い。重力とは、逃れられぬ運命だ」

轟が旋回に入った瞬間、第1マークを中心に強力な重力場が発生し、乾たちの機艇を強引に外側へと弾き飛ばした。多摩川の護岸壁が迫る。


「……おじさん、重力を切るんじゃない。重力に『乗る』んだよ」

通信機越しにハルの冷静な声が響く。

ハルは、轟が作り出した重力の渦の「中心」が真空状態になっていることを瞬時に見抜いた。

「翼、重力を一点に集中させて! 俺がその中心を射抜く!」

翼の「マグマ」が重力場を攪拌し、一瞬だけ重力の向きが乱れる。

その刹那、乾は自らの「白金」を、針ではなく**「螺旋ねじれ」**の形へと変容させた。

新奥義――『白金螺旋プラチナ・スクリュー』!!

重力の圧力を推進力へと変換し、乾の機艇は物理法則を無視した角度で轟のインコースを抉り取った。

多摩川の泥水が龍のように立ち昇り、白銀の閃光が重力の闇を真っ二つに引き裂く。

ゴールライン。

1位、乾健児。

僅差で、A1級の重鎮を差し切った。


ピットに戻った轟は、悔しがるどころか、豪快に笑い飛ばした。

「……ははは! 面白い! 重力を利用するB1級など初めてだ。乾健児、お前なら『G1・地区選手権』でも暴れられるかもしれんな」

乾は、激しく震える右腕を左手で押さえ、荒い息を整えていた。

B1級、そして重賞。そこは、これまでの「復讐劇」では通用しない、純粋な技と魂のぶつかり合いの世界だった。

「おじさん、お疲れ様。……でも、次のレースにはもっと強いのが来るよ」

ハルが新しい吸入器を手渡す。

「ああ。……望むところだ。俺の17,000が、どこまで届くか試してやるよ」

多摩川の秋風が、乾の新しいライディングスーツを揺らす。

第2部「重賞挑戦編」、その幕が今、切って落とされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ